「第1話」ゆき
妖怪村で暮らす雪。
幼くして、両親を亡くし、800歳を越える女長老に引き取られ暮らしていた。妖怪は歳をとるのが人間より10倍遅く、長く生きられるが争いで命を落とす者もおり、若くして亡くなる者も多かった。
かつては人間との交流もあったが、いつしか離れ、孤立した村で密かに生き延びていた。
雪は、192歳になりすっかり年頃になっていた。たいそう美しい女に成長したが、昔とは違い生きるために必要な妖力と妖力を使いこなす技が強い者が一番であり、美しさや優しさなどは価値がなかった。
長老「雪や。もっと妖力をつけないと嫁に行けないぞ。精進が足りない。鍛えてきなさい。」
雪「はい。お婆様。」
雪は山奥で、川を凍らせる訓練をするが、川のよどんだ部分に氷の塊が出来る程度が精一杯だった。
雪「はあ。これでは、お嫁に行けないわね。。」
すっかり疲労して帰宅する。
長老「どうじゃった。」
雪「今日もダメだった。。氷は出来るけど、川は凍らせられない。」
長老「ずいぶん。妖力使ったようじゃな。じゃが、氷が出来るようになったのはたいした成長じゃ。まだまだじゃがな。疲れただろう。妖力を回復する食事じゃ。食べて、今日はゆっくり休みなさい。」
雪「はい。」
雪は疲労から、あっという間に眠っていった。
長老「やれやれ。。あの子を嫁に出さないと、私は消えれやしない。しかし、この子に求めるのは酷なことかも知れないな。わしは両親との約束をどうやって果たしたらいいのか。」
長老は、雪を頼まれた時のことを思いだした。あれから100年以上か。。もう、いつまでも妖怪村が続くか分からない。雪が幸せになったとしても、いずれは。。
長老や一部の役員達は、人間が次第に開拓し、妖怪村も長くはないことは分かっていた。村の偉い者達は密かに地下深くに新たな妖怪村を作ることを模索し、妖力の強い者を選定して地下村の完成を急いでいた。
長老「地下で生きるには、雪の妖力では足りないのじゃ。雪、何とか耐えられる力をつけてくれ。今のままでは、雪だけ地下に行けない。時間との勝負なんじゃ。こんなに素直で心の優しい子はいない。じゃが、今の妖怪村では、それは価値にはならない。困ったものじゃ。昔の平和な時代だったなら。。人間さえいなければ。。」
火炎小僧「婆さん。また雪で悩んでるのか。俺が2番目としてもらってやろうか?」
長老「小僧。ふざけるんじゃない。今度言ったら、お前を消し去ってやる。」
火炎小僧「あー。怖い怖い。あの妖力ではどうしょうもないだろう。2番目でもありがたいと思え。」
長老「うるさい!帰れ!あの子の両親との約束は果たす。必ず幸せになってもらう。少なくとも、お前じゃない。どうやら。。お前さんは、今すぐに消えたいようじゃな。」
火炎小僧「おっかねえ。か、帰るから勘弁してくれ。」
火炎小僧は一目散に逃げていった。
長老「ふん。雪はお前なんかにはもったいない。一番でもごめんじゃわ。愚か者めが。」
長老は、部屋に戻り雪を見つめる。
長老「お前の優しさはお父さんに似たんじゃな。。いつか話さないといけない。。はあ。。どうしたものかのう。」
重い気持ちを抱えながら、三日月を見つめながら長老も眠りについた。