私たちの缶コーヒーは、恋い焦がれた味がする
『第4回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』参加作品です。
十二月の初めて冷えこんだ日に、さびしい気持ちになるのは、私だけではないはずだ。
中学の帰り道、私と秀樹は、自転車を押して歩いていた。
「秀樹、体育でトチってたでしょ」
「うっせー、デカ女」
「ひどーい! 秀樹のほうが、もう背高いのに」
私と秀樹は、幼馴染みだ。昔は、秀樹は小さくて大人しかったのに。中一になって身長も伸びて、声も低くなって、口も少し悪くなってしまった。
ずっと一緒だったのに、おいてけぼりになった気持ちだ。このまま、距離が開いていくのはつらい。
なにしろ、私は、秀樹のことが好きなのだ。でも、私には気持ちを伝える勇気がない。
だから、ひとつ作戦を考えてきた。
「あ、自販機。あたたかいの飲もう。おごるよ」
私は、秀樹を置いて自販機へかけだした。ブラックとカフェオレの缶コーヒーを買う。
作戦は、こうだ。ブラックを秀樹に渡す。以前、彼は、コーヒーに砂糖を入れていた。だから、口をつけて、苦くて飲めないと文句を言うはず。そこで缶を交換。間接キスをして、反応をうかがう。
追いついてきた秀樹に、ブラックを渡す。
「あっつ……」秀樹は、手のひらで缶を転がす。「よく知ってたな。おれ、やっとブラック飲めるようになったんだよね」
作戦失敗だ。ますます、距離が離れてしまう。
私は、思わず秀樹の缶を取り上げた。
「秀樹はこっち! こっちが好きでしょ!」
そして、私のカフェオレを渡してしまった。
「好きだけど……ブラック飲めるのかよ」
「秀樹が飲めるなら、私だって!」
私は、一口飲んだ。体が固まった。焦げた味がする。まずい。
鼻の奥がツンとしてきた。また、秀樹に置いていかれてしまった。悔しくて、惨めだ。
「そんな顔するなよ。口、つけてないから……交換」
秀樹は、カフェオレを差し出した。
私は、秀樹の顔を見つめる。てっきり、私をバカにすると思った。
「うん……。ありがとう」
缶を交換して、カフェオレを飲む。熱いけれど、甘くて優しい味がする。
秀樹を見る。彼は、缶の飲み口をじっと見つめていた。
私は、気付いた。これは、間接キスになるのでは。
「な、なんだよ。見るなよ」
秀樹は、意を決したように缶に口をつけた。
彼の耳は、真っ赤だった。私も、ほおが熱くなる。
私たちの顔が赤いのは、コーヒーが熱いせいだけではないはずだ。