到達者
「――――――落閻石」
言うと、空より隕石が降る―――これはマリーの戦闘後、壊れた街などの瓦礫を大気圏上に浮かせ、固めていた物。
浮遊魔法の応用であり、魔法無効などの敵に対しても攻撃が通るマリーが気に入っている手段。
それを見たゾラは、空に向かい星別つ断界の牙を一振り―――視界に見える内が全て間合いだ。
落閻石を容易く両断すると、そこから背後に向かい一閃。
静かに隙を狙っていたベネティクトを狙うも、軽く飛んで回避される。
「そう、この質量の攻撃は受けたくないのね………………再結成」
両断された落閻石が、地上側で集まり、ゾラを巻き込みながら再度球体へ。
地上に降り立った惑星の様な質量で、中心にでも入れられたら並の封印中以上の封殺効果があるだろう。
「過剰斥力ッ!」
重力の性質を反転。
ゾラは斥力を発生させて落閻石を破壊すると、大振りで周囲の瓦礫を細かく刻む。
視野の内に映る無機物に対して、幾万もの斬撃を一度で加えたのだ。
「砂巨兵」
細かく刻まれた落閻石や、砂獄によって砂と化した浮遊城を使って大量の兵を生成。
身の丈三メートル程の、砂故に斬ろうと止まらぬ巨兵を二十体、全てを完璧に操作してゾラを襲う。
「固定重力―――木偶の坊如き、いくら数を出そうと無駄よ」
「じゃあ、もっと増やそうかしら―――神樹兵」
瞬間、神樹の兵を二体生成。
数は砂巨兵に劣るものの、その力は並の金級冒険者を易々と凌ぐ程。
二体揃ってゾラを殴りつけ、星別つ断界の牙による防御を挟んでなお五百メートル程弾き飛ばす。
その先で待っていたのはベネティクト―――要領は早撃ちと同じだ。
着地より前、僅か瞬きの間に、その身を護る兜を奪った。
「漸く顔を見せたね―――マリーちゃん!」
叫び兜を投げると、空中で潰れ再度使用は不可能な状態に。
金の毛髪と長い耳―――老いてはいるが、間違いなくエルフ。
それもサレンの直系の者だ。
「よくも………………よくも、王より授かりし鎧を欠いてくれたな………………ッ!」
「漸く、感情的になってくれたね」
乱暴に星別つ断界の牙を振るうも、今の間合いならば通常の剣と扱いは変わらず。
だだ振るわれただけのものの対処も出来ぬ者に与えられる程、聖七冠の名は安くない。
鎧にある肘の関節部へと、魔力弾の要領で杭の様に固めた魔力を差し込み、僅か一瞬でも剣を振るう腕を止めるとその隙に星別つ断界の牙を奪取。
星別つ断界の牙を持った状態で、急ぎ仕留めんと五点同時に放たれた重力の魔法を回避しながら下がると、星別つ断界の牙は腰についていた収納用の魔道具に入れてしまう。
「鎧までならず剣までも………………ッ! 過負重力ッ!!!」
「――――――過負重力」
ベネティクトを襲う重力を、マリーが同様の魔法で相殺。
魔法発動後の僅かな隙―――ゾラが立て直すまでに、0.008秒。
通常ならば隙とも見ぬ一瞬に、銃手であるベネティクトだけが適応する。
腰の銃に手をかけて持ち上げ、撃つ。
狙いは撃つ前に定まっている―――あとは実行のみ。
0.008秒以下での行動という無茶な話に、ベネティクトは侵入した―――零秒未満の、世界へと。
三発の弾丸がゾラの喉笛を破き侵入―――体内で曲がりくねった軌道を描きながら、後頭部より飛び出てゾラに致命傷を与えた。
だがそれだけでは終わらぬ―――確かに絶命するより早く、セリシアの回復術を封じ込めた封印柱を使用。
ゾラの傷を癒やすと同時に、特殊な仕組みの魔力弾を六発込めて撃ち出す―――拘束用の魔力弾だ。
零秒に八回の行動を熟すという偉業―――同じ零秒とは言え、過去に秋臥が行ったものとは格が違う。
誰もが信じて疑わぬ世界最強―――剣聖、ルーク・セクトプリムに匹敵する神技である。
「ベティー、貴方…………………………!」
「拘束完了―――マリーちゃん、護送の用意を」
(更新状況とか)
@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)




