女王の子息
「………………皆を先に行かせたのは失策だったわね」
「そうする他に無かった。だが、これは………………」
城の中に入って直ぐ、広間には先行した兵と冒険者の山が築かれている。
それに囲まれる様に立つ、鎧の者―――身の丈程ある大剣を床に突き立て、次の侵入者を待っていた。
「確かにここには、パルステナの魔力があった筈なのだけれど」
「魔王の力に釣られたか―――この城は贋作である」
鎧の者は籠った声で言うと、大剣を片手で引き抜き軽く振るって見せ、戦闘体制に入る。
全身からパルステナの魔力が溢れ出す―――魔王の恩寵だろう。
「我が名はゾラ・メノスティア―――王を待つ前時代の亡霊である」
「メノスティア………………そうかい、君だったのかい」
ゾラとはナンバーズのトップ、つまりNo.1として悪名高きものである。
しかしメノスティア―――それ即ち、エルフ女王の子息を意味する。
サレン・メノスティアが産んだ子の中で、現状行方知らずは長男の一人のみ―――サレンは、この事を知っている。
その上で自分の産んだ子がナンバーズという組織の頭となっている事を恥じ、その名を世間へと広めずに居たのだ。
「問答は不要―――では、参ろうか」
「ベティー、あの武器は………………」
「分かってるよ」
大振り一閃―――上手く回避した二人の後方、壁を大きく斬り裂いた。
かつて盗まれたとされていたエルフの宝剣、星別つ断界の牙。
視界の限りを間合いとし、斬れぬ物を無しとする武器でありバグアイテムだ。
「過負重力ッ!」
「強奪…………!」
マリーとベネティクトの真上に現れた魔力が発生、一秒未満のタイムで魔法に変換―――空中より、過度の重力が課される事となる。
だがそこでマリーが強奪を発動。
過負重力の魔力指揮権を奪い取り向かう方向を逆転。
魔力は浮力となり、更に重力魔法はマリーのコレクションに収まった。
「――――――紅炎」
「微温い」
前代未聞―――紅炎の直撃を受け、傷一つ受けずに前進。
星別つ断界の牙で紅炎を払うと、マリーに対して跳ぶ。
そこに全身の関節部分目掛けてベネティクトが発砲。
鎧に於いて、関節部分が弱点というのは既知の話―――当然、一定の実力者となれば魔法などで弱点を突かれた際の対策はしているし、ベネティクトもそれは承知の上。
それでも尚、関節を狙った。
着弾と同時に弾は溶け、鎧全体に広がってから炸裂。
だがこれも、怯む様子すらない。
「ベティー、ステージを変えるわよ―――砂獄」
瞬間、浮遊城が砂へと変わり崩れ落ちる。
そこで気づいた―――他に敵が居ない事に。
浮遊城を崩す事で他の隠れている魔人族までも片付けてしまおうというのがマリーの考えであった―――だが、今目の前に居るゾラ以外の敵が見当たらない。
外から感じていた魔力が全て偽造だったとして、先に見た魔人族の雑兵が中には他大勢の居ると勘違いさせるためのブラフだとした―――実際の魔人族達は、そして今ここに居ない魔王パルステナは、どこに居るのか。
「街が……………………!」
「行かせはせぬぞ」
敵の狙いに気付き、街へと急ぎ向かおうとするマリーに向かい一閃。
星別つ断界の牙を前に背を向ける事は、死に等しい。
「マリーちゃん、先ずはここを制圧してから向かおうじゃないの!」
「そんな事をしてる場合じゃ――――――!」
「安心しなさいな。君なら気付けるだろう? 僕達の味方が、今近づいて来てるのにさ」
ベネティクトの目ならば目視可能、マリーの魔力ならば察知可能な距離に、一台の荷馬車が駆けている。
四人の応援を乗せ、ラストスパートと言わんばかりの加速をかけながら土埃を巻き上げて。
脇目も振らずに町を目指して、最短距離で駆けている。
日本優勝したの見てすごい叫んじゃった
(更新状況とか)
@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)




