心中
現在発砲数五十七発、被弾数零―――足元で電気を弾けさせ、単純な魔力による身体強化以上に爆発的な移動速度を誇るライオット。
リーニャとて、聖七冠の二人には及ばずとも手練れ。
このエルモアース領の兵を統括し、領主であるラクルスの警護を単身で熟す実力者なのだ―――それが、容易く弄ばれている。
「オイオイオイオイッ! 生っちょろいじゃねえかオイ!」
「あんまり喋ると舌噛みますよっ!」
「それが、この戦いで俺の負う唯一のダメージかもなァ!」
弾ける電気に合わせて、ライオットの動きは次第に加速―――彼の自評では、キレッキレの足技。
弾ける電気に頼っているだけでは無い、超高性能の動体視力とそれに追いつくだけの鍛え上げられた身体機能に裏付けされた確かな戦法―――それによりリーニャの弾丸は全て空を切り、魔力は減る一方。
当然ライオットとて電気を発生させるのに魔力を消費してはいるが、前提として超小規模の魔法と、魔力の塊である弾丸を生み出すのでは魔力コストが掛け離れており、このままでは先に倒れるのはリーニャだ。
「――――――6」
「あァ? テメェ今なんか言ったか―――――」
瞬間、ライオットを中心に青い魔力の陣が展開。
ただ回避されているように見せながらも、リーニャは六角形の位置に魔力の柱を撃ち込み、今この位置にライオットが立つシーンを待っていたのだ。
「六陣炎羅っ!」
「強制停止ッ!」
陣から魔力が溢れ出すと同時、ライオットが電気に自分の魔力を乗せて放出。
それにより陣を形成するリーニャの魔力を乱し、技を破壊した。
放出した電気は足元に収集し、弾けさせ―――回避の比ではない、超高速での突進でリーニャとの差を詰める。
「冥国の陣形術式…………珍しいもん使ってんじゃねェか!」
「ぬおおおおおおっ!」
ライオットの突撃を銀のマスケット銃で抑え、弾き返すと、離れた所に二発の弾丸を撃ち込む。
その間には魔力を練って作り上げた糸が。
ボーラの様にライオットの首へと引っかかると、弾丸の部分から新たに地面へ繋がる糸が。
俊敏さを封じた所でこめかみに向かい弾丸一発―――当たった。
当たりはしたが、無傷。
足裏で電気を弾けさせるのと同じ仕組みだ。
こめかみにて電気を弾けさせ、同等の勢いで弾丸を相殺―――強制停止で拘束を解くと、首を鳴らしながらため息を溢す。
「人体に於ける急所に対する防御が疎かなワケがねよなァ…………俺ァ舐められるのが嫌いだ。それは俺を弱えと見積もってるのと同じだからな。テメェは今、俺を今程度の防御も出来ねえ雑魚だと見積もりやがった。それが俺は許せねェ」
バチバチと、ライオットの全身で電気が弾け始める。
怒りを可視化した様に、激しく逆立つ稲妻が如く。
「テメェは俺を侮辱したッ! 判決、死刑だッ!」
そう叫んだ瞬間―――ライオットが姿を消した。
次にリーニャが目にしたのは、橋に残った電気の跡。
そして同時に、その視界が揺らいだ。
「遅っせ――――――」
「……………………ッッッ!!!」
胸に手を当てられ、そのまま橋へと叩きつけられたリーニャ。
その目がライオットを捉える事はなく―――気づけば橋へと倒れ、痛みに喘いでいた。
慌て立ち上がるも顔面への蹴り一発。
それから頚椎、腹、顎、膕と順番に攻撃をはたき込まれ―――魔力による防御を全力で行っているとはいえ意識が混濁し、痛みで覚醒を繰り返す状態へと陥る。
膕への衝撃で橋へと倒れ込みそうになり、咄嗟にマスケット銃を杖とし耐えた所に両腕への攻撃。
単純な衝撃と電気による痺れにより、ついマスケット銃を橋の下へと落としてしまう。
「あっ、銃が………………」
「どうやら、運の尽きみてェだな」
落下する銃へ手を伸ばすも、間に合わぬリーニャの眼前へと現れて停止するライオット。
先程の判決死刑を実行する様に、手刀とした手に超高出力の電気を纏わせ刃と。
ギロチンを落とす様に、その手を振り下ろした。
「………………6」
「テメェ………………!」
今さっきの出来事である―――即座にその場から離れ、それが間違いだった事に気づくライオット。
足元に魔力の反応は無く、今の発言はブラフ。
本命はリーニャの手中に現れた、圧縮された魔力だ。
「心中して差し上げます」
「馬鹿な真似をッ!」
魔力弾十発分の魔力を、マスケット銃を通さず直接橋へと叩き込む。
足の速さも動体視力も関係ない、足場の消失―――二人平等に、遥か下方の地面へ自由落下する。
リーニャは落ちながら、今の一撃でズタボロになった自身の左腕を見る。
かろうじて繋がっているだけの、もはや銃を持つ事は出来ないであろう左腕からは大量の血液が漏れ出して意識を奪い去ろうとしており―――魔力弾を使い落下の衝撃を相殺しようにも、残りの魔力は精々小さな魔力弾を作り出す程度。
この高さから落下した勢いを殺すなど、到底無理な話だ。
「申し訳ありません、ラクルス様………………お約束、果たす事は叶わない様です……………………」
「ベティーの弟子を見殺しにしたら、きっと嫌われてしまうわ―――慈悲とかでは無く、それだけの話よ」
諦め目を瞑ったとき、ふと声が聞こえる。
その方へ首を回して見ると、とっくに戦闘を終えたマリーがやって来ていた。
ゴムの様に柔らかい膜を魔法で作り出し、落下の衝撃を完全に吸収―――魔法で地面よりマスケット銃を引き上げると、膜に横たわるリーニャの傍へと沿えた。
「このまま医療班の元に送るわ―――後は精々、生き延びなさい」
返事を待たずにリーニャを地上へと送ると、マリーは改めて浮遊城を睨む。
足止め要因は全滅―――これより、本丸へと攻め込む。
(更新状況とか)
@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)




