強奪
ベルサイユは考えた―――何故、ナンバーズ幹部の中でも最も弱い自分が聖七冠二位の相手をしなければならないのかと。
理屈は分かっている。
ルークの様な純粋な実力の差を抜けば、この世で最も対マリーの相性が良いのはベルサイユなのだから。
それを考慮してなお、怖い逃げたい戦いたくないと、後ろ向きに考えていた。
「………………戦う気がないのなら消えて欲しいのだけれど」
「そっ、そうは行きませんよ…………! これもお仕事、嫌でもやり遂げなきゃ…………!」
普段ならば問答無用で燃やしにかかるマリーだが、今回は相手が相手。
珍しく自信よりも小柄な、目の前の内気な青年を燃やす気にはなれなかった。
「じゃあ、容赦はしないわ………………紅炎」
「強奪 っ!」
瞬間―――マリーの放った魔法が、マリー自身を襲った。
当然マリーの事、自身の放った魔法の、操作ミスから自身を防ぐ術など幾つも仕込んではいる。
だがそれにしても、今起きたのは操作ミスなどではなく、明確なマリーへの攻撃。
この事実は、普段気怠げにしているマリーの目を覚ますには充分すぎるものであった。
「貴方、面白い魔法を持っているのね」
「面白い、間抜けな事を言わないでよ…………これは、君を殺す力なんですよ…………!」
声を荒げながらも、ベルサイユは未だ消えぬ紅炎を操りマリーへとけしかける。
元々籠っているマリーの魔力に加え、ベルサイユ自身の魔力も加え火力は上昇。
先の一撃にこれをしていれば、手傷程度与えられたやもしれない。
だが相手が悪い―――今ベルサイユの向かう敵は、世界で二番目に強い生物、マリー・ジェムエルだ。
二度自身の魔法に襲われる程、馬鹿な作りはしていなかった。
「――――――強奪」
「へっ?!」
マリーが放ったのは、他でもないベルサイユの固有魔法―――相手の魔力指揮権を強奪し、自分の魔法へと変えてしまう力。
「ごめんなさいね、昔から一度見た魔法は再現出来てしまうの―――でもいい魔法、きっと役立てるわ」
「なっ…………! 勝ち誇った様な口を…………僕はまだ負けてない…………!」
「ええそうね。今から負けるんだものね」
「お前…………っ! 僕に、攻撃一つ出来ないくせに…………!
どんな攻撃をされても、強奪してしまえば良い。
それを逆な強奪されるなら、いっそ自分が強奪した段階で魔法を消して千日手とすれば、目的である足止めは完遂できる。
そう考えていた所に、確かに見た――――それを見透かした様に小さく笑う、マリーの姿。
そしてこれが愚策だと気づくよりも早く、ベルサイユは総毛立つ。
そこに奪える魔力があるのは、一瞬であった。
「島呑み」
誰が操るわけでもない、単純な大洪水―――マリーはただ、魔法により水を放った。
魔力指揮権を奪われるなら、元より操らなければいいだけの話。
放った時点で完成する魔法の前に、ベルサイユはあまりにも無力であり、溺れ流される事しかできはしない。
「本当よ、嘘じゃないわ―――この強奪、きっと私が貴方よりも上手く使ってあげるわ」
⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘
「あの女っ! 私様の金蔓をよくも…………!!!」
シャルロット・メルソン―――ナンバーズの4であり、ベルサイユの主人。
主人と従者と言うよりは、飼い主とペットに近い関係性であった。
向こうで溺れる姿を見つけ、その元凶であるマリーを睨む。
早撃ちの達人であるベネティクトを、あからさまに視界から外して見せて。
「………………今、絶好のチャンスでしてよ? 何故仕掛けなくて?」
「今の演技に引っ掛かるほど、僕も下手じゃあないよ」
「ビビリですのね」
「慎重なんだよ」
二人は未だ、どちらからも仕掛けておらず。
ただ睨み合いが続く現状に、相手が痺れを切らすのを互いに待っていた。
ジョジョでホットパンツとか出てくるあたり読んでたから、ネーミングセンスいかれたかもしれない
(更新状況とか)
@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)




