新惑星
「あれはマリーちゃんの………………少し、きな臭い展開になって来たねえ」
ハーピーの群れを全滅させたベネティクトが、空を飛ぶドラゴンを発見。
その正体はマリーの魔法、産魔兵によって作られた紙魔竜―――読んで字の如く、紙の竜である。
戦力としては、一体で金級の冒険者十人と遜色ない程度な上、その本質は紙本来の使い方である手紙としての運用。
マリーが自力で連絡をする事すら敵わない何かが起きていると、ベネティクトは即座に悟った。
選択肢は二つ―――マリーの元へ向かうか、ラクルス達の元へと向かうか。
ベネティクトは迷わず、ラクルス達の元へと駆け出した。
普段でこそ幼き少女として接する相手だが、緊急事態ともなれば話は別。
マリーは聖七冠二位―――つまり、世界で二番目に強い生物という事だ。
そのマリーが援護を要求しないならば自分は不要なのだと、ベネティクトは知っている。
それがマリーの驕りではなく、確固たる実力に裏付けされた判断なのだとベネティクトは知っているのだ。
「向こうには見向きもせず。流石だね、ベネティクト・カマンガー」
「おや? 久しい顔じゃないの。今回は何が目的で…………?」
急ぐベネティクトを止めたのは、半年間姿を暗ませていたイベリス。
既に一本の魔剣を携え、行手を拒んでいる。
「そう大した事じゃない―――僕はただ、一瞬君の意識をこっちに向けられれば良かっただけさ」
瞬間―――何者かが背後より、手刀でベネティクトの胸を貫いた。
その手は魔族特有の褐色でありながらも、魔族特有の莫大な魔力は感じられず。
それどころか、一切の魔力を感じる事はなかった。
手刀が引き抜かれると、背後の者が前方へと周りイベリスと並ぶ。
パルステナと同じ、白髪の魔族―――それ即ち、魔の王の血を引く者である。
「紹介しよう―――彼は魔王の後継者、ノエル・イブリールくんだ。まあ、もう時期死ぬ君に言っても意味はないかな?」
「いやあ、そうでもないさ…………ごめんね…………セリシアちゃん………………」
今ここに居ない、聖女セリシアへの謝罪―――それと同時に、どこからともなく取り出した銀の棒を二本折った。
瞬間ベネティクトは姿を消す。
透明化などではなく、完全なる消滅―――転移だ。
「魔法の封印柱かい…………中々古い技術だが、まだ残ってたとはね」
ベネティクトの消えた地面を睨みながら呟くイベリス。
その目はどこか、遠い日を見ている様であった。
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「この規模で、十時間って所かしら………………」
どこから現れたか、地面を大きく抉った地盤とその上に乗る城―――魔王城と呼ぶに相応しいソレの進行を食い止めるのは、百八箇所に支点を置いた超広規模の結界である。
マリーの、零の領域へと至り一切の消費より解放された無限の魔力があってこその結界は世界最大規模のもの。
それを持ってしても十時間が限界というのは、浮遊城の純粋な質量が大きすぎるからだ。
「もう少し、増やしていこうかしら………………新惑星、各国の王が私に縋り付いてでも欲しがる防壁よ。喜びなさい」
面倒臭いとは思いながらも、しっかりと仕事はするマリー。
単純に進行を食い止めるだけならば今ある結界だけで充分だが、内側からの抵抗があるならばそう長時間も保たないだろうと判断。
同じ方法で外側に、支点を増やしながら結界を重ねて行く―――最終的には最大円状に収まり切らず球状、立体で一万を超える支点を要した結界までもを作り出した。
結界には単純な防壁としての特性だけではなく空間の固定、隔絶、そして表面には物質との反発の特性を付与した特別性。
敵は進行したいという事を度外視すれば、この結界の内側は世界で一番安全な場所だろう。
しっかりと結界の完成を見届けると、マリーは更に魔力を練る。
この結界はあくまで保険―――彼女は決して、護りで聖七冠の二位になったわけではない。
「――――――紅炎」
結界内を、マリー最高火力である炎で満たす。
炎を消す事なくその場を去り―――結界が破れるそのときまで、無限の魔力を注ぎ続ける。
そろそろ100話も近いなあ
(更新状況とか)
@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)




