大輪
杜撰って漢字、ぱっと見牡蠣に似てるよね。
今日は頭痛がひどいです。
「ぬうっ!」
「鈍いな…………」
黒い液体を全身へと侵入させ侵食されたゴルシアの拳ほ、一度腕を振るう度に肥大化。
その剛腕は容易く地面を砕くような力を孕んでは居るものの、その体の操作に慣れていないゴルシアの動きは杜撰も杜撰。
ただ力任せに振るうだけの、子供の喧嘩と大差ない身のこなしであった。
だが、それだけでも脅威なり得る―――それ程、ゴルシアが手に入れた力は大きい。
「どうした、逃げてばかりではないか?! この黒腕に恐れをなして逃げ出すか? 恋人の前で放った言葉は蛮勇であったかッ?!」
特別力を込めて、ゴルシアは一撃。
直撃などなく回避こそ容易であったが、完全な無効とは成らず―――地面は砕けた足場を崩し、その破片石礫を無数に生み出す。
更には幾重か肥大化を繰り返し歪な形となった腕の表面を添い造り上げられた気流が、掛け算式に組み合わされた。
「化け物っ…………」
「何だそれは、称賛かッ?!」
腕回りの気流が、更なる腕の肥大化によって暴走。
腕から放たれ地面へぶつかり、転がる石礫を乗せて空気を突き進む。
それは無法の空気から道となる秋臥の体を発見。
進みやすい道に乗り、自然の弾丸となった。
「ラッキーッ!」
「ッ………………!」
石礫の内一つが腹を強く打ち、内一つが頬を浅く切り、それぞれで秋臥の体を傷付けた。
腕の肥大化は繰り返され、広がる攻撃範囲に回避は少しずつ困難となる。
紙一重で回避したとて、腕回りの気流も激しさを増すだろう。
秋臥は一度対策を立てようと後ろへ下がる。
「更に逃げ腰とは、呆れたものよ…………まあ、オレが強過ぎるのが悪いのかも知れんのぉ!」
調子に乗って叫ぶゴルシア―――そして、強く拳を握り締めると更に腕が肥大化。
殴らなくても良いのかと少し驚きながらも次の動き、接近を待つ秋臥―――次の瞬間、衝撃がその全身を打った。
「これは良いッ!」
「秋臥…………!」
自分の名を呼ぶ香菜の声で、衝撃によって点々とする秋臥の意識は復活。
今にも駆け寄ってきそうな香菜に、視線のみで大丈夫だと伝える―――そして次にゴルシアへ視線を戻した瞬間、今の衝撃の正体を理解した。
「ぬおっ!!!」
「そういう……………っ!」
正体は空振り―――空を叩きその衝撃と、瞬間肥大化して暴走した気流を真っ直ぐ前へと弾き出す空気の拳
要は、間合い無視だ。
「なら、決めた…………」
その一言の後、槍を短く持って改めて駆け出す。
連続で放たれる空気の拳を回避しながら、安定しない足場を感と経験で全力疾走。
「ほっ! ほっ! ほっ! ほおっ!」
掛け声に合わせて放たれる空気の拳を全て抜けて腕の間合いに入ったならば、ゴルシアも直接秋臥を狙う―――目掛けて振るわれた拳、僅か一瞬の勝負。
本日一番の集中―――紙一重で拳を回避して、石礫も軌道から外れ、もはや秋臥の体躯すら上回る大きさまで肥大化したゴルシアの腕へと飛び乗った。
三歩進んだら手に握る槍を全力で握りしめて、すぐそこにあるゴルシアの瞳目掛けて振り下ろす―――全力で、自分の持つ力の全てを込めて。
結論を言ってしまえば、槍が砕けた。
「は? 何で………………」
「隙ありぃ!」
突然の事態に混乱する秋臥―――それをゴルシアの腕が打った。
肥大化した腕に超至近距離の間合いだ。
全力で振り抜ける程のスペースはなかったので、完璧な一撃と比べれば威力は半減どころではないが、それでも直撃。
殴り飛ばされた秋臥は瓦礫に埋もれ、一本折れた肋骨が肝臓に刺り血を吐いている。
幸い、その痛みもあって意識はハッキリとしていた―――だが今の一撃で相当なダメージを食らった。
出血が酷く、そう長くは保たない。
腕は三箇所、足は四箇所の骨折。
最早新たな武器を手に入れたとて存分には扱えない。
戦闘において諦める要素が多過ぎる、諦めずとも、限界はもはや目と鼻の先。
「今のは…………これは………………ッ」
だが、限界など気にならぬ要素もあった。
これ程の手負にも関わらず、全身に力が溢れる―――槍を破壊したのはこの力だと断言出来るような、現実的で無い程の力が。
今溢れる脳内麻薬エンドルフィンが原因では無い。
高揚感や全能感とは別の―――まるで、魔法のような力。
「香菜、君もこんな感覚なのかな…………?」
何をすれば良いのか、本能で分かる。
どうすれば敵を討てるか、この力を扱えるのかが、立ち上がり歩くのと同じように当然が如く理解できるのだ。
「これが僕の…………らしい力だ」
この一撃を放ちし後、自分には意識を保つ体力もないだろうと理解している。
この一撃をしくじれば、この場に居るゴルシア以外の命が残らないであろう事も理解している。
そのゴルシア以外には、異世界より付いてきた恋人が含まれる事も、充分に理解している。
――――――故に、死力を投ずる。
「大紅蓮、咲殺…………ッ!」
「なっ、貴様魔道士だったのか………………っ?!」
秋臥の指先より、力が放たれる―――それは混じりなき純粋な物から固有の濁りを持ち始め、新たな形を作り出す。
ソレ地面を伝いゴルシアの元へ―――今のゴルシアでなければ、決して回避不可能な速度ではなかっただろう。
腕だけを肥大化させた、最早一歩歩く事すら困難なゴルシアが相手出なかった場合は。
「やめろ、やめてくれッ! オレが悪かった、殺さないでくれッ!」
その遅さは、ゴルシアに命乞いの猶予を与えた。
だがそれも受け入れるものなどおらず、残ったのは確実に訪れる死への恐怖のみ。
命乞い開始から五秒経過―――ソレがゴルシアに触れると、堂々と咲き開く。
命を凍てつかせ養分とした氷の大輪―――ゴルシアの体躯を包み、中で超低温により粉砕。
溢れる血液にて色付けされた氷の花は、蓮の花の様だった。
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