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トラオムの終わり

 コツコツと、靴底が床を叩く音が響く。

 両の母が死に、秋臥が群がる信者達の鏖殺を終えた頃―――それは、平然とした態度で現れた。



「いやあ、やるとは思っていたが…………いざ見ると壮観と言うべきか、凄惨と言うべきか」


「遅かったな、総司」



 喋りながらも呼吸を整える―――ここまで、傷が開く程の無茶は無く、精々僅かな疲労が溜まる程度。


 つまり、ここからが本番。



「改めて聞こう―――今の俺に勝てると?」


「相応の条件は揃えた」



 もはや邪魔に入る者は残っておらず―――正真正銘、ラストカードの二人。

 逃亡、引き伸ばしは許されず、どちらかの死のみが幕引きとされるだろう。



「あの日から二年か、懐かしい―――あの小僧が、よくもまあ育った」


「お陰様でな………………!」



 瞬間、二人は駆け出した―――総司は思いっきり右の拳を振り下ろし。

 秋臥はその拳の破壊力をよく知っている。

 コンクリートを容易く砕き、人ならばどう当たろうと致命傷になり得る威力。


 ―――それを知り尚、一切怯える事なく踏み込んだ。


 拳をくぐり抜け、互いの間合いが深く重なる位置まで潜る。

 その位置まで止まらず潜り込んだ勢い、殺すには惜しく―――全て活かそうと放たれた技は躰道、卍蹴りであった。


 繰り出された脚が総司の顎を打ち抜く。


 痛快と言う他ないであろう―――その衝撃により、総司の意識は一秒未満跳び、戻った頃には視野が潰れていた。


 卍蹴りの特徴である大きく体を倒した状態より起き上がる勢いを利用した、剣槌による殴打。


 顔面を抑え怯む総司は大きく後方へと逃げると、コンクリートの柱を殴り砕き、その破片を投擲する。


 その内一つ、鉄筋の刺さった物を空中でキャッチした秋臥が、それを振り回して他の破片を打ち落とし。

 それから握ったソレを総司へと投げ返した。



「私には効かんよッ!」


「化け物が…………!」



 投げ返された破片を、容易く砕き再度突撃する総司。


 攻撃は先程と全く同じ軌道の、拳振り下ろし―――馬鹿の一つ覚えと言わんばかりの、力に任せた殴打である。


 何か理由があるのかと、秋臥も同じ対応策で様子を見る。

 深く潜り込み卍蹴り―――それを止めたのは、二つ目の拳であった。


 弧を描く様に振り下ろされた右拳とは別に、それに合流する様放たれた左拳―――即ち、双拳である。



「この程度………………!」



 咄嗟に卍蹴りを中断し、振り下ろされる拳に飛びつき腕十字。


 ソレによって腰を前に折らせ、体の軸をブレさせる事で攻撃を中断に追い込むと、そのまま腕の一本でも頂こうと考える秋臥。


 だが叶わず―――腕に秋臥がついたまま平然と立つと、総司はその腕を壁へと強く打ち付けた。


 壁が砕けた事による衝撃の分散で、即戦闘不可能とはならないものの、秋臥も目をチカチカさせ、捉えた腕を容易く離してしまう程のダメージを負った。



「やはり、相応の条件を揃えた甲斐はありそうだな」


「っ…………まだ、勝ち誇るには早いぞ………………!」


「はて、それ程のダメージを負った状態からどう勝つつもりで――――――」



 言い終わる前に、秋臥は掴んだワイヤーを引く。

 飛びつき腕十時に移る寸前、低い体勢をこれ良しと、総司の脚に回しておいた物だ。


 普段ならば失敗に終わる策であった、賭けであった。

 卍蹴り中断から次の動きを決めるのにかかった時間は0.3秒。

 そこから実行までが1.2秒。

 その間にワイヤーを取り出し、脚に回し―――到底無理な話である。


 だがそれが出来た。

 故に今、総司は転んだ。


 故に今、起き上がる瞬間に合わせて拳を、再度顔面に打ち込めている。


 この瞬間―――零秒の攻撃という無理が通った。


 今放たれた拳は総司の顔を潰し、頭蓋を砕き―――戦闘時間を、五十秒ジャストという一分未満に決定付けた。



「じゃあな、総司………………俺はお前のことが嫌いだけど、それでも感謝してるよ。お前のおかげで強くなれたし、お前のおかげで香菜に会えた」


 

 そしてこの世界で行われた、秋臥とトラオムとの戦い―――この瞬間この一撃を以て、幕引きである。

次回より現代に戻ります!

ファンタジー脳に戻さねば。


(更新状況とか)

@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)


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