四人集
「八番倉庫突破されました! 対象止まりませんっ!」「第三班全滅っ! 応援を呼べっ!」「敵は一人だぞ! 何故こんな事になっているんだ!」「代弁者様はどこに居るんだ!!!」
郁数の声が行き来する中、ただ一人だけが無言を貫きながら敵を屠っていた。
香菜という護衛対象―――言い換えて仕舞えば獲られたら負けのハンデを背負いながらもそれをものともせず、ただひたすらに地獄の拡大を進め逃走経路を切り開く。
敵は全て、己の育てた神兵シリウスの顔見知りばかりだ。
「回り道するよ」
「はいっ!」
端的に伝えてから、香菜の手を握り駆け出す。
香菜は和服から秋臥の所有していた服へと着替えて多少動き易くなっているものの、やはり筋力体力はシリウス神兵には及ばず。
その上死体に塗れた廊下は足場としては及第点も与えられないほど不自由であり不安定―――結果その疾走は、非常に鈍足なものとなっている。
「っ………………香菜、一歩分でも安定した足場があったらこっちに飛んで」
「飛ぶ……? 分かりましたっ!」
秋臥としては賭けの様な提案―――それに返事をした一歩後、香菜は秋臥に向かい飛ぶ。
腕で引き寄せ抱き抱えると、そのまま急加速。
片手で香菜を胴体に押し付け抱え、開いた片手で敵に対処しながら、寸前の倍近い速度で敵群を抜ける。
漸く一息つけるかなどと考えながらも、香菜は下ろさず周囲に警戒。
そんなときであった―――秋臥の右肩に、突如飛来したナイフが突き刺さったのは。
「隊長〜どうして逃げるんですか? 私達お仲間じゃあないですかあ」
「お前ら………………!」
京介、骨互裏、泥垣、羽々斬の四人―――晶也は居ないものの、今やシリウスの中でも特に秀でた神兵達である。
この四人のうち、三人は問題なく、秋臥一人で対処出来るだろう―――だが、その残り一人、羽々斬だけはマズイ。
秋臥を除く神兵の中で、最も優秀と評される一人であり、武器未使用の戦闘では最強とまで言われる実力者。
戦闘面での特徴を挙げるなば、徹底した素手による敵の殺害。
細身でありながらも、ロシア人の父より引き継がれた卓越した戦闘センスと柔軟な筋肉は、並大抵の神兵など寄せ付けない性能を誇り、その上鋭い目つきと父譲りの金髪が、妙な凄みを放っている。
すぐに香菜を下ろし、下がらせてから戦闘体制に。
それを見た骨互裏が僅かに眉を顰める。
「ねえ隊長、その女捨てて私達の元に戻って来てくださいよ―――ここに来るまでに殺した神兵の事ならば気にする事はありません。所詮凡百、幾つ首を並べた所で隊長の存在には及びません。また激しく、鮮烈に、私達を鍛えてください―――もしその女を連れる理由が体だというのなら、私の体を喜んで差し出します。隅から隅までどうぞお好きにお使いください。私、隊長になら何をされても嬉しいんです」
「黙れ骨互裏、殺すぞ」
「嬉しくって、漏れちゃいそう…………」
次の瞬間秋臥は駆け出し―――そして、骨互裏の横に立つ京介の頭に手持ちのナイフを突き刺した。
「ぼっ…………僕…………?!」
「一にも二にも油断―――何度も注意したよな」
ナイフを引き抜き、続いて泥垣へと投擲。
泥垣は目を覆い隠す様に黒髪が伸び切った、二十の男。
威圧的な長身と、長い手足を駆使して、リーチの差を活かしながら生かさず殺さず、敵との戦闘を長引かせる事を得意とする。
弱点を挙げるならば、そのフィジカルの弱さ。
手足をムチの様にしならせる攻撃によってある程度の攻撃威力こそ生まれるが、防御面はまるで貧弱。
元に今、投擲されたナイフを両手の鋼鉄手袋で弾いた直後、間髪入れず撃ち出された弾丸への対処がまるで間に合わず。
額と胸の二箇所に致命傷を負った。
「防御はとうとう改善しなかったな―――それと、お前はずっと妙に苦手だったよ、骨互裏」
泥垣を仕留めたと同時に、背後より迫る骨互裏のナイフを、握る拳ごと抑える。
そこから腕を捻り上げ、痛みに喘いだ所を胴に全力の蹴りを一発。
蹴飛ばされた骨互裏は首を強く壁へと打ち、その場から動かなくなる。
残るは羽々斬―――三人仕留めるのを、ただ不気味に見ていた。
「何のつもりだ? 羽々斬」
「隊長―――お前とは一度、全力で戦ってみたかった」
「手の掛かる…………いいぞ、今回だけだからな」
ナイフをベルトに戻し、素手で構える。
武器を持てば分は秋臥に―――素手対素手は、未知の領域だ。
初動は同時―――それから攻撃に移るまでは、秋臥が早かった。
襲いかかる羽々斬の腕を掴み、その力を利用し投げる。
空中で体制を整え、着地しようとした所を足払いで横転させ、踏み付けを三度。
その全てを転がり回避してから、腕の力のみで高く飛び上がり、全体重と落下の勢いを活かしたダブルスレッジハンマー。
離れて回避が安牌―――しかし、秋臥は敢えて一歩踏み込んだ。
間合いに深く入り込み、攻撃に両腕を回した事により無防備となった顔面を鷲掴みにすると、後頭部から地面へと全力で叩きつけた。
「満足か?」
「最後まで戦えぬ事、口惜し」
「お前何を言って――――――」
言いかけて直後、無数の銃声が響く―――四人との戦闘中に班を再編成した神兵達がやって来たのだ。
秋臥は咄嗟に香菜を庇いながらも側の角を曲がり逃走。
迫り来る足音―――敵は皆、機関銃で武装していた。
これ以上の連戦による体力の消耗を考慮すると、香菜を護り切る自身はないと、どこか休める場所を探す。
先程と同じく香菜を抱え、全力で施設内を駆け回る。
「秋臥、三つ先の角を左です」
「…………成る程!」
香菜の指示に従い道を進む。
右だ左だと逐一指示を出す香菜ではあるが、一つ目の指示で目的地は理解していた。
たどり着いた場所は、コンクリートの壁に包まれたこの施設では異質な空間―――植物園である。
僕は嬉ションする骨互裏好きよ。
(更新状況とか)
@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)




