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雨天決行

「うん、揚げたてで美味しいよ―――料理初めてなのに凄いなあ」


「本当ですか? なら、よかったです」



 千切りにしたキャベツと一緒に唐揚げ皿に盛り付けると、片付けは後にして出来立てをいただくことに。

 一緒に並べられた白米と味噌汁は、昨日の晩に痛む腹をさすりながらも秋臥が作っておいたものである。



「そういえば、どうして唐揚げなの? やっぱり初めての料理には少し難易度高い気がするんだけど…………ほら、油とかも跳ねるし」


「初めて会った日に、持って来たおにぎりに入れてくださいましたよね―――私、人と一緒に朝食を摂るなんて最後がいつか覚えてないぐらいに久々でした。なんだかとってもあったかくて、あの日のおにぎりが私の思い出の味になったんです」


「成る程、それでね………………」



 言うと、少し香菜よりも早く食器を空にした秋臥がキッチンに向かう。


 冷蔵庫の野菜室を除いてジャガイモを三つ取り出すと、少し嬉しそうに香菜へと見せつける。



「何か作るなら、私が――――――」


「いやいや、俺にも何かやらせてよ―――ジャンクフード、あんま食べた事ないでしょう?」



 表情からしてどうやら、ジャンクフードという言葉すら耳馴染みの無い様子。

 ジャガイモを洗い、皮を剥き、芽を取り、薄くスライスしたら、唐揚げを作った後残った油に投入。

 少し様子を見て油から上げると、冷める前に手早く塩胡椒で味付け。


 乱雑に皿へと入れてテーブルへと運んだ。



「今日の予定全部キャンセルしたなら、これで暫くのんびりとしようか―――揚げ物と揚げ物だけど、これも思い出の味に追加って事で」


「それは…………いい案ですね」


「でしょ?」



 若者の胃に、油物の負荷など関係なく。

 出来立ての、分厚さにムラのある雑なポテトチップをつまみながら夕方まで雑談。

 仕事に見舞われる事も、突然の戦闘を行う事もなく―――ただ放課後の学生の様に。



「もう日が沈みますね―――そろそろ帰ります」


「じゃあ部屋まで送ろうか?」


「いえ、外に護衛の者を待たせているのでご心配なく―――それに、しっかりと安静にしているかを見に来たのに送られてしまっては、本末転倒です」


「それもそうだね…………じゃあ、気をつけて」


「はい、ではまた明日」



 せめて部屋の外までは見送り、この日は解散。

 しっかりと護衛に香菜を任せ、それ以上何かする事もなく秋臥は部屋に戻ると、残り物で夕飯を済ませて一日を終えた。


 まさか翌日最初に耳に入れる話が香菜の失踪だとはつゆ知らず―――呑気に、明日は何を作ろうなどと考えながら。




 ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘




「総司さん、今アンタなんて言った………………!」


「諄い、捜索隊は出さんと言ったのだ―――少しは落ち着いたらどうだ?」


「これが落ち着いていられるか…………! 今すぐ捜索隊を編成しろ、俺が指揮を取る」


「不要だ。いい加減娘を私の弱点としてやって来る俗物共にもうんざりしていたところ―――いい機会だ、アレは私にとって情をかけている存在などではないと知らしめてやろう」


「ふざけるな…………ッ!!!」



 総司の私室へ駆け込み、感情のままに秋臥は叫ぶ。

 部屋の外まで聞こえる様な声で、目の前の鬼畜へ今すぐにでも襲い掛からんとした様子で。



「呆れたものだ。君がこうも感情に揺れ動くガキだったとはね―――どうやら私の目もまだまだ未熟な様だ」


「なら今すぐにでも穿り出してやろうか」



 この言葉に、意味がないことは秋臥自身理解している。

 今はこのような煽り合いをしている場合ではない。

 前日秋臥の部屋を出て、そのまま失踪した香菜の捜索が最優先だ。


 なんとか自身を落ち着かせ、目の前の男に背を向ける。



「なら俺は、勝手にやらせてもらうぞ…………これ以上お前には何も求めない、総司」


「その様な勝手を許すと思うか?」


「許す…………どうやって止める気だ? 法か? 暴力か? 合理性か? どれも俺には効かないぞ」


「以前私と互角であった事を忘れたか?」


「以前だろ? 薬物やアルコール、絶食の耐性テストで弱った俺と引き分けたのがそんなに嬉しいか…………?」



 言い訳などではない確固たる事実―――当時様々な耐性テストで弱り果て、更にそれ以前は母が原因で降りかかる火の粉を払うだけの戦闘で鍛え、生きて来ただけの秋臥と、今の兵隊長として訓練を重ねた秋臥の戦闘力はまるで違う。

 今再戦すれば、以前とはまるで違う結果になるだろう。

 例え秋臥の腹と背に、深い傷があろうとも。



「ッ…………! 神兵は、動かさんぞ…………ッ!」


「代弁者と兵隊長―――神兵の指揮に於いては同等の権限が与えられている。お前の決めた規則だろ。忘れたか?」



 それだけ言うと退室。

 既に部屋の外には、秋臥に呼び出された選りすぐりの神兵五人が待機していた。



「昌也、京介、骨互裏(こごり)泥垣(どろがき)羽々斬(はばきり )―――行くぞ、戦争だ」


(更新状況とか)

@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)

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