唐揚げ
「と、いう事で―――加臥秋臥の容体はそれ程深刻でもなく。来週には訓練の復帰とまでは行かずとも、日常生活程度ならば支障無く行える様になるそうです」
「そうですか、ご苦労―――因みに、現在の状況は?」
「現在は総司様直々に休暇を与えられ、隊舎のお部屋にて休養を取られております」
「分かりました、では今日の予定は全てキャンセルで―――いえ、この先二週間の予定は全てキャンセルです」
「なっ! お嬢様、それは流石に無理があろうかと………………!!!」
突然行われた香菜の暴挙―――本日の護衛の者が声を張り上げ驚くも、最近少し強かになった、人間性が増したと評される香菜は耳を塞いで知らん顔をしていた。
「無理ではありません。どうせお食事会だとか対談だとか、私から父の情報を聞き出したい者達ばかり。元より父が断り溢れていた仕事なのですから、私が続けて断った所で支障はございませんよ」
「しかし、二週間ともなるとお父様が…………総司様がお許しになるはずが…………!」
「父は何も言いませんよ。私に対しての興味など、既に消え失せている筈―――その証拠に、私はかれこれ五年間、仕事以下で父の顔を見ていませんもの」
しまった―――そう思い眉を顰める護衛を他所に、香菜は部屋から出かける支度を。
人生で初めて、己の意思で、日中の自由行動を始めようとしていた。
「秋臥の元へ行きます―――今から私の言うものの手配を、すぐにです」
⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘
「という経緯で、来てしまいました」
「な、成る程………………それで、その手配した物がこれと………………一体、何を作るつもりで?」
「唐揚げです…………!」
香菜が秋臥の元に行くと、未だ傷は痛むだろうに、既に立ち上がり部屋の掃除をする姿が。
慌てて座らせると、少し遅れて来た護衛の者が持って来たビニール袋を見せつける。
中には鶏もも肉と、既に色々と調味料の混ざった唐揚げの元や、油などが。
鍋や箸は秋臥の部屋にあるものを使おうという事になり、特に用意はない。
「作り方は調べて来ました…………! キッチンは私に任せ、どうか秋臥はお休みください!」
「…………分かったよ、任せる。火の扱いは気をつけて」
「ええ…………!」
鼻歌混じりで支度を始める香菜。
ボウルに唐揚げの元を入れて水と混ぜ、鶏もも肉を入れて絡める。
鍋に油を入れて火にかけると、沸々と沸騰し始めるのを楽しそうに待っている。
「香菜、料理の経験は………………?」
「ありませんが、キッチリと調べて来ましたので!」
「そっか、そっか…………」
立ち上がり、秋臥もキッチンへ。
痛む腹を押さえながらも、収納より揚げ物バットを取り出し、油吸収用のキッチンペーパーを引いてから網を重ね。
その側に箸とは別で、網杓子を添えた。
「揚げ終えたのはこっちで掬い取って、滴る油を少し鍋に戻してからこっちの網の上に置いとく。料理は材料とか調理も当然大事だけど、途中態々焦らないための準備も大事だよ」
「成る程、私の調べた記事には書いてありませんでしたが…………書く必要もない基礎の段階にはこの様なものもあったのですね」
「まあそうだね。結構前提の話かも―――でもここまでの工程は順調だし、問題ないよ。何か見逃しとかあるかもしれないし、もし良ければ隣で見てても?」
「私としては助かりますが…………しかし、傷が痛むでしょう? あまり無理なさらないでください」
「じゃあ椅子を持って来るよ。座ってる分には幾分かマシだからね」
そうして、キッチンに二人並んで調理はスタート。
その後の工程においては情報の取り残しがなかった様で、順調に唐揚げが揚げ物バットに積み上がって行く。
初めての料理に唐揚げはハードルが高いのではないかと思っていた秋臥だが、香菜は器用な人間である。
大体の物事は人以上に熟せ、唐揚げ作りも例外ではない。
香菜の料理初体験は秋臥監視の元、無事最後まで安全に行われた。
(更新状況とか)
@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)




