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スパーリング

「次っ!」



 その声に反応して、息を切らし休んでいた神兵の一人が起き上がり秋臥へと襲いかかる。

 現在行われているのはスパーリング―――グループ五人ずつに分かれて五分交代、秋臥目掛けて攻め続ける。


 元々の体力や身体能力は以前の講師によってある程度仕上げられていた神兵達ではあったが、秋臥から見るに実戦経験が圧倒的に足りず。

 技術も上部だけを真似したような、空でこそ出来ど本番では使い物にならないレベルであった。


 ならばいっそと、この授業の始め一時間で自分の使う技をいくつか教え、それを自力で実戦投入させてみるという考えだ。



「がむしゃらに手数増やさないで―――どこがフェイントか、どこが本命か、最低でも三手先まで考えながら動くッ! 顎ゆるない! 手足の先端だけ見ないで、何を警戒してるか悟られるな!」



 注意に対して返事する余裕もなく、神兵の攻撃の間を縫うように軽やかな反撃を挟む。

 全ては軽く皮膚に当てるだけの、当たったぞと警告するだけのものではあるが―――それを全て対処しろと言うのが今回のスパーリングにおける、防御面での目標だ。


 暫く続けると、セットしていたブザータイマーが鳴る。

 それを聞くとスパーリングをしていた神兵は下がり、床に倒れ込んで大きく深呼吸を。


 敵の攻撃に対処しながらの五分間一切停止が許されない実戦形式。

 疲れぬはずもないだろう。



「次、武器持ってッ!」


「はいッ!」



 言うと、次の神兵―――葉霧(はぎり )昌也( まさや)がゴムのナイフを持って前に出る。


 そして事前に定めたエリア内に入った途端、駆けて秋臥の首筋を狙った。



「何を見てた? 下がってる時間は休憩じゃないぞ、見取り稽古だ―――他のやつとのスパー中、一度でも真っ先に本命狙えと言ったか?」


「言って…………ません…………」


「だよな」



 叱責せずとも、充分な注意。

 あまりにも安直な狙いの、ナイフを持った腕を捉えると捻り上げ、つい緩んだ手からナイフを奪う。


 肩を軽く押して突き放すと、胸目掛けてゴムナイフを全力で投擲。


 ゴムとはいえ垂直に食い込めば痛みはある―――胸を抑えてしゃがみ込む昌也を見て、秋臥はため息をつきながらも立ち上がるのを待つ。



「今でこそ体格の差で勝ってるが、いつか京介(きょうすけ)にも負けるぞ、いいのか?」


「よく…………ない………………っ!」


「なら早く立て、兄としてプライドがあるだろ」



 弟の名を出し、昌也を奮い立たせる。

 足元に落ちたゴムナイフを拾うと、胸を打たれた痛みに耐えながらも立ち上がり、構える。



「行きます…………ッ!」



 今度はゴムナイフを左手で逆手に持ち、構えはボクサーの様に顔の前で拳二つ。

 先程と変わらぬ速度で駆けると、ゴムナイフを握った拳をジャブのように突き出す。

 狙うは顔面―――さっきの今でこれだ、何か狙いがあるのだろうと、秋臥はのってみる事に。


 攻撃を抑えようと、自身の右手を突き出した瞬間―――昌也の左拳は急ブレーキ。

 

 そして再出発。


 それにより昌也の拳は、秋臥が防御にでした右手よりも後手へと回る。


 自身の拳を抑えようと出された手。

 軌道は読む事は容易く―――それに対応するのもまた容易い。


 故に放たれた―――クロスカウンター。



「ッ―――えっ?!」



 秋臥は未だ十一歳、対して昌也は十五歳。

 体の大きさも当然大差があり、腕も昌也の方が長い。


 なのでそのリーチ差を活かせば、一瞬タイミングを遅らせてカウンターを放っても先に当てられると考えていたのだ。


 にも関わらず先に当たったのは、途中で握られた秋臥の拳。


 体を入れ込み、拳は急加速―――昌也の顎を掠め、意識をしっかり刈り取った。



「また真っ先に本命を…………いやバック? ターン? ん…………? え…………?」



 これはどうすることが正解なのだろうかと考え頭を悩ませる秋臥。

だが途中でどうでも良いと投げやりになると、昌也を少し離れた場所へと引きずり、ゴムナイフを回収してから休んでいる神兵の一人へと投げる。



「次っ!」




⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘




「よくやってくれているようだな―――あれ程疲弊している神兵を見るのは久しい」


「だとしたらこれまでが甘過ぎた。向こうは五分毎に代わり代わり、俺は二時間ぶっとうしなんて条件にも関わらず、命中した攻撃がないどころか俺は汗一つ流しちゃいない―――敵が居ないと分かっている場所で余裕を残して終わるものを、訓練とは呼べない」


「耳が痛いな」



 講義とは名ばかりの訓練を終えて、夜間総司は秋臥を呼んだ。

 トラオム本部中心部にあるホールの傍、壁に大窓のある、誰も居ないカフェテリアにて集合した二人は缶コーヒーを飲みながら報告兼雑談を。


 大窓より月明かりが差し込み、二人を静かに照らしている。



「さて、直に面倒を見て有望そうな者はいるか?」


「まず葉霧昌也、葉霧京介の兄弟は見所があった。特に弟の京介は天才肌―――一教えたらそれを十や百まで広げる発想力を持ってる。あとは武器の扱いに長けた骨互裏(こごり)と、好気が来るまで場を長引かせるだけの状況維持能力と、現れた好気を見逃さないだけの目を持っている泥垣(どろがき)―――そして、総合力で今最も優れている羽々斬(はばきり )の五人辺りかな」


「葉霧京介、骨互裏、泥垣、羽々斬は前々より私も高く評価していたよ―――だが、葉霧昌也の方は記憶に残っていないな。どの様な神兵だ?」


「弟の京介が一を百に出来るとしたら、昌也の方は零か、一を産み出せる―――今日のスパーでいくつか、面白い手を使ってたよ」



 それから話は盛り上がり、他の神兵達の名も上がり。

 この話は一時間ほど続いた。

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