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「そこの君、レフェリーを頼むよ」


「は……はい!」



 適当な神兵に声をかけて、側へと来させる。

 秋臥と総司は軽く体をほぐすと、十メートル程距離を空けて向き合った。



「どれぐらいでやる?」


「子どもに手加減されるほど(やわ)ではない」



 二人の体格差は歴然―――大の大人と十一歳が向き合う状況で、子供が手加減の度合いを持ち出すという異常事態(イレギュラー)


 だが周囲の人間かそれを見る眼差しは真剣そのもの。

 増長した子供を嘲笑う者など誰一人居らず。

 自分達の新しい隊長(ボス)が―――話題の超新星(ニュービー)が、どれだけの怪物なのか気になって仕方がないのだ。



「それでは始めます。レディー……………ファイッ!!!」



 レフェリーに選ばれた神兵が言った瞬間、二人は動いた。

 燕が如く軽やかに、俊敏( はや)く動く秋臥と、それを迎え撃つ仁王が如く拳を振り上げる総司。


 両者が触れ合う間は極々僅かな、握った拳の先端同士が一瞬のみ。

 先に拳を引いたのは、秋臥の方であった。


 前代未聞の気配を察知―――拳の先だけぬるま湯に浸かったような、人の肌ではない何かの感覚がそこにはあった。



「何を感じた?」


「何を仕込んだ…………?」



 問い返す秋臥に対して、ただ笑って見せるのみ―――教えるつもりはないのだなと、一度間を開き戦闘スタイルを変更。

 

 握り拳を解いて指先を揃えて掌を開く。


 そして再出撃―――再度迎え撃つ総司の拳に、今度は素直にぶちかまし合おうなど考えず。

 開いた掌を振るわれた腕に沿わせ、肩を掴み後方へと回り込み。


 背へとしがみつくような形になると、首元へと腕を回した。


 裸絞め、完成である。



「打撃を捨てて柔術へ―――その発想、手数(レパートリー)、実行力は悪くない。だが、こうされたらどう対応する?」



 気管が潰れていないのか、平然と喋る総司。

 腕により一層力を込めるが、それでも表情は変わらず―――それどころか両手を広げ、裸絞めを一切解こうとする様子もなく。


 その体制のまま、上向けに倒れ始めたではないか。



「っ…………!」


「身長百八十センチジャスト、体重八十三キロ―――流石に、君と私の体重差で押し潰されたらどうなるかの想像はついたようだね」



 自ら裸絞めを解き避難した秋臥に対し言う。

 大の字で床に寝そべった状態から、軽く腕の力を使い飛び起きた総司は肩を回しながら、今度は自分から秋臥へと歩み寄る。



「さて、次は防御だ」



 技とは言えぬ、単純な拳の振り下ろし―――普段ならば易々と挫き、即反撃に移る所だろう。

 

 だが今回秋臥は、流した。


 細心の注意を払いながら丁寧に、攻撃を左下へと流し、逸らす―――拳の勢いは止まらずに床と激突。


 コンクリートの床が、砕けた。



「防御も攻撃と遜色なく―――なんと喜ばしい事か」


「なんだその、怪物じみたパワー………………」


「神の力だ―――真に神を愛するものに、必ず神は微笑まれる。その力の残滓が、これだ」



 秋臥の頭には、クエスチョンマークが。

 数年後ならば言い当てられただろうその力の名を、秋臥はまだ知らない。



「さあ、この神の寵愛を受けた力―――どう対処する?」


「色々試しながら決めるよ」



 三度(みたび)秋臥は愚直にも突撃を繰り返す。

 防御と牽制に振るわれた拳を受け流しながら、なんとか好奇を狙うが見つからず。


 それは総司とて同じなようで、本命の混じらぬ打ち合いは周囲の神兵達が息を呑むほどの超高速で行われてるものの、互いの表情はどうも釈然としない。



「このままでは、いつまで経っても終わりそうにないな―――」


「なら、ペースアップだ」



 瞬間、秋臥の打撃速度が加速。

 これには流石の総司もギョッと驚いて見せるが、なんとか対応―――だが明確に、後手に回った。

 全ての防御が紙一重であり、あと一手増やされてしまえばこの均衡も易々と崩れるだろう状況。


 その一手を増やす事程度、秋臥からすれば造作もなかった。


 選んだ手段は、中指のみ立てた拳での喉仏強打。

 両腕を防御に回したものの、その隙間を縦拳がすり抜けていく。


 本日初のまともな命中―――喉を抑えて怯んだ隙に、顎目掛けて追い討ちの膝蹴りを入れ、やり過ぎたという思いが秋臥の脳裏に過ぎる。

 だがそれが反省や後悔になるより先、秋臥の体は思考を置き去りにしてぶっ飛んだ。



「スッ…………ストップ!」



 慌ててレフェリーが止めに入る。


 秋臥がぶっ飛んだ原因は、苦し紛れに総司の放った蹴りであった事が現在の体制より分かるが―――にしても、人一人が十メートル飛ぶ程の威力を出した後の体制ではない。


 未だ呼吸を荒げ、顎への蹴りで脳が揺れたのか膝をついたまた立ち上がれもしない様子。

 それは腕をクロスさせてかろうじて防御した秋臥の表情からも読み取れる―――今の蹴りでこの威力が出るわけがないと、腕の痺れ具合に驚愕している。



「少し、はしゃぎ過ぎた…………頼もしい新隊長だ。これから頼むよ」


「俺こそやり過ぎた…………でも、頼もしいトップだよ」



 手合わせが終われば、握手をして互いを称え合う。

 二人に向かい周囲の神兵は唖然とし、数秒後には拍手し指笛を鳴らし。

 最高の盛り上がりを見せていた。

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