襲撃者
「悪りい、遅くなったな」
「大丈夫です、戦闘の音は聞こえてましたよ」
敵はどこだ、見失った、味方が倒れている。
その様な兵達の声は町中に響いており、ようやく合流した秋臥達も認識済み。
多少の遅刻など咎めはしない。
ラクルス達との合流も済ませると、四人は待ち合わせ地点である家の中へと入って行く。
「ここは見つかってねえな…………よし、降りるぞ」
言ってラクルスは床にある食料保存庫を開こうと―――引き手に指を掛け、軽く引き上げた。
「――――――秋臥っ!」
瞬間―――香菜が叫ぶ。
それに反応してラクルスとリーニャは退避。
香菜が自分と、一瞬退避行動が遅れた秋臥を幾重に重ねた糸で護ったとほぼ同時―――家が吹き飛ぶ程の爆発が巻き起こった。
「――――――っ!」
防御に意識を回した事で自身の踏ん張りが足りず、吹き飛んだ香菜を秋臥が支える―――そして数秒続いた爆風が終われば、即座に成すべき行動を。
「ラクルスさんっ! リーニャさんっ!」
「こっちは無事だぁ!」
声を確認したら、抱きかかえている状態の香菜を解放―――そのとき、自身の手に血が付着していることに気づく。
「香菜、怪我を…………?」
「お気になさらず、かすった程度ですので」
秋臥の少し後に傷に気づいたリーニャが駆け寄ると、腰の小さなバッグから、簡易な応急処置の道具を取り出す。
「私が応急処置をしよう。秋臥、君はラクルス様とこの先の動き方を決めておいてくれ」
香菜の腕に傷一筋―――大きな傷ではないが、少し深い。
爆発で吹き飛んだ家の破片で切ったのだろうと予想すると、秋臥は静かに立ち上がってラクルスへと視線を向ける。
「あっちの処置が終わり次第行きましょう。ここで休んでたら敵が来ます」
「ん? ああ…………アンタ、嫌に冷静だな」
「冷静じゃないと、やりたい事は出来ませんからね」
「やりたい事? アンタ、目標でもあんのか?」
「ええ、今出来ました――――――」
言っていると、足音が一つ近付いてきた。
そちらに目を向けると、至急リーニャに戦闘命令を出そうとするラクルスを秋臥が手で静止。
そして、一歩前へ出た。
「僕はここに比べたら、随分と平和な国で育ちました―――でも、自分歩いた道自体は随分と過激だったと思います」
袖を捲る―――腕の筋を軽く伸ばして、順次運動を。
未だ魔法も扱えないのに、まるで戦うような素振り。
「僕もぬるま湯に浸り過ぎた―――だから、今から戻す」
四人の元にやって来た兵は一人、人数での不利はない。
装備はフルプレートの鎧、武器は槍一本。
間合いの差はあれど、近距離線なら不利は帳消しと秋臥は考えた。
「秋臥、手伝いますか?」
「大丈夫」
兵は槍を構える―――四人相手に完全勝利は考えず、目指すは味方の到着。
悪くて、半数の道連れ。
秋臥に矛先を向け、刻一刻と間合いへと侵入を待つ―――鎧の内側、一滴の汗が流れた。
「存分に恨んでくれ」
「っ――――――!」
秋臥の一言に合わせて兵は槍を突き抜いた。
それを右手で左脇へと叩き落とした秋臥は、左手で鎧の頭部分―――視界確保の穴を掴んで、強く捻った。
首がへし折れた―――秋臥の掴む穴と、首の関節部分から兵の血が溢れ出す。
そのグロテスクな絵面には、後ろで見ていたラクラスも若干引き気味である。
「終わりました、香菜の応急処置も終わったみたいですね。行きましょうか」
「ああ…………手ェ、洗うか?」
「…………そうですね、何か感染でもしたら怖いですからね」
さも平然かのように言う。
もうすぐ突入してゴルシアを討ってしまうのだ、今更水を節約しても仕方ないと、ラクルスは手持ちの水筒の水で秋臥の手を洗った。
渇かぬ新鮮な血が完全に流れるまで、そう時間はかからなかった。
⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘
街のど真ん中、大通りを凱旋でもするかの様に進む彼らはもう顔を隠す事などなく、堂々と素顔を晒す。
横一列に並んだ四人の正面には、既に屋敷がみえていた。
そして、辺りを囲む兵達。
鎧を着ておらず、しっかりと見えるその瞳はどこか血走っていた。
「行きましょう秋臥―――どうやら皆様、戦う気はない様子です」
「ありがとう、腕は痛まない?」
「些事ですが、夜お見せするには少々見苦しいかと」
「気にしないよ」
腕の傷は応急処置を済ませたもの、少し深い。
しっかりと、傷の断面が見えていた。
二人の会話を聞いた兵達は、何を言っているのだと攻撃体制―――そこで漸く、自分達の体が動かないことに気づく。
全ての関節を絡め取られ、無力なデクの棒の様に敵の侵入を眺める事しか出来ないことに、今更気づいたのだ。
「君の体に傷をつけたやつに、後悔させてやろう」
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