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空の冠

 アルコール耐性テスト。

 アルコール摂取により朦朧とする意識の中、公言可のワードと、公言禁止のワードを用意して、それぞれ会話の中でどれだけそれを守れるかというもの。


 薬物耐性テスト。

 依存性の高い薬物を一ヵ月接種し続け、その後の精神状態を測るというもの。


 空腹耐性テスト。

 普段と空腹時の運動神経、状況判断能力などを測るというもの。


 睡眠欲耐性テスト。

 深夜や長時間に渡る任務遂行のためにも、起床状態をどれだけ続けられ、いつまで平然を保っていられるかを測るというもの。


 そして、殺傷テスト。


 上記のどのテストよりも短時間で終わり、そしてどのテストよりも不合格者の多いテスト。

 業務として躊躇いなく人を殺せるか―――それを測るテストである。


 これら全てに合格した者のみが、神兵シリウスの隊長となる事を認められ、全神兵の指揮権を手に入れる事ができる。


 全ての工程を終えるまでに、いくつか同時進行で進めたとて最低期間三ヵ月。

 その間廃人となる可能性すらあるテストの数々に挑む者は少なく、挑んだとて全ての困難を乗り越えるものはより少数。


 そのせいで神兵シリウスの兵隊長はこれまで五年間不在であり、そこには空白の冠が。



「思わぬ幸運だよ―――まさかこのタイミングで、君の様な兵を拾えるとはね」


「このタイミング? 何かあるのか」



 トラオムに超新星が現れた新春より三ヶ月が経過。

 本部のとある廊下にて、秋臥と総司が並んで歩く。


 秋臥の腰には銀時計が―――それ即ち、兵を指揮する隊長の証であった。



「………………この世は今、信仰を失おうとしている。化学の進歩、事情の解明、神秘の喪失。世間は我々宗教家をなんでも神にこじつけると言うが、私は真逆だと説きたい。世間こそが全てを化学に、理解にこじつけたがるのだ! 神秘を神秘で納得出来ない事象追求者の無礼者共がッ! ……………………すまない、興奮し過ぎたようだ」


「いいよ、人それぞれ考え思想はあるだろうし、今俺はアンタに同調し動いてる―――だから愚痴ぐらい聞くよ」


「ありがたい話だ―――さて、また冷静さを失う前に話しておこう、このタイミングに君が現れた事を幸運とする理由だったな」



 秋臥と同じく腰につけた銀時計を指で叩きながら総司は言う。

 その銀時計に針は無く、蓋が開くことも無く―――閉ざされた時にこそ永遠が宿るという主張を叫び続けるようなソレは、傷一つつかず無類の美しさを誇っていた。



「私は近々、戦争を起こす―――敵は国家。いや、政府だな。何もこの国、日本政府に限った話ではない―――狂信者を異常者とする世界形態を作り上げた世界政府に対しての戦争、それこそが私の目的だ。そこに君は、不可欠だろう」


「戦争となれば一人の戦力はたかが知れてる。俺が仮に軍師ならば万が一にもあり得る話だったかもしれないけど、精々俺は飛車―――敵が世界政府だなんて話になれば、敵の駒は近代兵器による完全武装。ボードゲームで言えば、千の碁盤揃えて打とうとって時、敵は全部チェスのクイーンみたいな話だ。その規模(スケール)で、飛車(俺一人)を不可欠としてどうする」


「これがボードゲームならば、その言葉に返す言葉がありはしなかっただろうな」



 少しだけ嬉しそうに総司は言った。

 夢を語る子供の様に、無邪気な瞳で。



「だが敵も君も、駒ではなく人―――鼓舞され、恐怖する存在なのだよ」


「屈強な世界中の兵達が、俺に恐怖を?」


「想像してみろ―――自分達数万と居る兵達の中、突然現れた子供達が暴れている姿を。無邪気などではなく、内側より現れた蹂躙―――その幼き容姿で血に塗れ、命を刈り取っていく執行者達の姿を」



 子供達、執行者達―――その言葉で秋臥は理解した。

 今総司が自分に何をやらせようとしているのかを。

 これからの自身の業務を。

 そして、戦争というのは今すぐ起こされるものではないという事を。



「その執行者を見た味方は―――トラオム側は一方でって話?」


「その通りだ。強力な一人は周りを鼓舞し、やる気にさせる。その上君には立場もある。根本的な戦力の底上げも狙えるだろう」



 要は、鍛えろという話だ―――秋臥の作り上げた戦闘のメゾットを広めよ、兵を自身のレベルまで引き上げよと、総司は言っているのだ。



「分かったよ―――取り敢えず今日は、その一歩目だ。見せつけてやろう」


「いいだろう」



 話に落とし所をつけた頃、二人が辿り着いたのは神兵シリウスの教室。

 そこに代弁者と新隊長が現れたとあっては、自主鍛錬中の兵の手が止まっても仕方ないだろう。



「え………………本日より兵隊長となった加臥秋臥だ、よろしく。一旦こっちに注目してもらっていいかな?」



 秋臥の言葉に、神兵達は視線を向ける。

 一見ただの中学生である秋臥に、五百の神兵達が一斉にだ。



「今日から俺がここのトップに立ったわけだけど、まあ子供だし、信用できない、偉そうなすんなって人もいると思うんだ―――だから、デモンストレーションをしよう」



 いつも纏っている、青十字が刻まれたローブを着たまま体をほぐす総司。

 この時点で皆が、二人が今から何をするのかしっかりと理解していたであろう。


 演武―――或いはお披露目。


 組織の代表と新隊長が立ち会うとなれば、皆の視線は釘付けとなった。

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