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どの様に何を

「聞いたか? あの噂―――」


「聞いたよ、新しい子供の話―――特別講師で来てたロベルって外国人を初日で負かしたんだろ」


「そうそう―――担架で運ばれてく所見たんだけどよ、二メートルはある黒人のマッチョだったよ」



 トラオム本部施設の中心にある円状の大きな広場は多くの人で満ち、各々信仰から家の事情、くだらない雑談までと、幅広い会話で賑わっていた。


 その中でも今流行っている話は、先日現れた超新星―――神兵シリウスの入隊テストを、歴代トップの成績で合格。

 好成績だからといって調子に乗る前に鼻っ柱を折ってやろうとした外国人の講師を三秒フラットで打ち倒す快挙。


 講師が性格からして生徒達に不評だったこともあり、トラオム内の子供達の中でその者の名は即座に広まり―――そして、今に至る。



「でもその新人って何者なんだろうな?」「アメリカからやって来たエージェントだって聞いてるぞ」「政府の作り出した人造人間っ! てのはどうだ?」「どうだってなんだよ、もっとマシな説をだな………………」「きっと神の御使いよ! 遂に私達トラオムが日の目を見る日が来たんだわ!」「御使いなら総司様だろ?」「総司様は代弁者様だろ」


「あの人達は皆、何の話を…………?」



 一人の少年の話で盛り上がる広場を、上階の廊下より見下ろす少女が問う。

 彼女は聞いたはいいものの、その様子はあまり興味なさげ―――この建物には似合わない赤い着物も、その冷たい表情と合わせれば映えて見える。



 「先日のロベルに勝った少年の話の様です―――子供に負けたとあっては彼の護憲にも関わると箝口令は敷きましたが…………子供の口に立てる戸は無いようですね」


「そうですか」



 側に付くボーディーガードが案の定、詳しい説明にもつまらぬ対応。

 しかしこれが彼女なりの、産まれてこの方この施設より外に出たこと無く、同年代との会話すら未経験の彼女が精一杯熟すコミュニケーションであった。


「ああ、丁度現れた様ですよ、彼です。確か名は………………加臥秋臥、そう、加臥秋臥でした」



 件の少年が現れたとあって、広場は一瞬にして静まり返る。


 彼の纏う尋常でない雰囲気は広場の空気を一瞬にて凍りつかせ、全ての視線を釘付けにした。

 その初めて感じる気配を後に語るとき、この場に居た皆は口々に殺気と形容した。



「――――――かわいい」


「ん? 今何かおっしゃられましたか?」



 ボディーガードが聞き直す。

 少女の表情から、退屈は消えていた―――代わりに浮き出たのは興味。


 周囲全員を警戒する様な少年の表情が、少女にはどうしようもなく可愛らしく、愛おしく見えた。



「彼の事を詳しく調べ上げてください…………! 産まれ育ちから友好関係に趣味まで、隅々までです!」


「はっ、仰せのままに」



 この感情は彼女にとって、未経験のもの―――顔を赤らめ、胸のときめきを必死に抑え、必死にその感情を定義する言葉を探す。




 ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘



「講師、俺が…………?」


「ああそうだ―――せっかく特別講師を呼んだものの、君に負けてからというものすっかり自信を無くしてしまってね。国へ帰って実家の農家を継いでしまったよ」



 応接室へと呼び出された秋臥に対し、総司は小言の様に言って聞かせる。

 実際秋臥は外国人の講師を倒してしまったし、それからというものその講師の姿は見ておらず―――どうしてしまったのかとは考えていたが、母国に帰ってしまうまでだとは想定いなかったので僅かに驚愕。



「講師って言っても、俺は何をすれば…………?」


「戦闘技術の指導―――どの様に拳を作り、どの様に振るい、どの様に当てて、どの様に次へ繋げるか。それを生徒達に教えるんだ」


「………………包み隠さず言いうけど、俺が使えるのは護身術なんかじゃない。言うなれば、殺人術―――どの様に殴り、どの様に刺し、どの様に錯覚させ―――色々言ったは良いものの、結局はどの様に殺すか」


「正直に言ってくれてありがとう―――感謝の証だ、私も正直に言おう。それでも良いと」



 またも驚き、秋臥は目を見開く。

 神の教えと言葉を伝えるはずの男が、自身に対して殺しの技を広めよと言っている。


 宗教の歴史を見れば、有名な宗教戦争などいくらでもあるし、神の代弁者、巫女、聖人がそれに参加している事も珍しくはない。


 要は、宗教の歴史とは存外血に塗れている。


 だがそれでも、目の前の清廉潔白とまでは行かずとも清らかな信仰を続けてきたかの様な男が、自信に殺しを教えろと言っていることは、秋臥からすれば充分な衝撃なのである。



「………………一晩、考える」


「ああ、良いだろう―――明朝答えを聞きに行く、それまでにしっかり決めておくんだぞ」

 

学校忙しくて更新止まりました、ごめんなさい!

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