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トラオム・忌

 マルチ商法八回、水商売勧誘二十三回、株二回、連帯保証人一回。

 秋臥が十一歳になるまでで母、加賀美佳子(かがみかこ)の行動により学生に不必要な苦労を負った事件の全容である。


 最初こそ戸惑い焦り、泣き騒ぎとしたが、少し経てば秋臥は騒動に慣れてしまい、少しずつそれに対処する力を身につけた。


 その内容はあまりにも単純な、暴力である―――一見子供らしい無謀な抵抗であるものの、彼はその点例外であり。

 俗に言う、天才であろう―――その場口先一つで解決出来るような事件も無意識に深入りし、その奥にいる巨悪を引き摺り出しては絡まってしまうような母との生活は、スポンジの様に戦闘技術を吸収する秋臥からすれば最悪ながらも最高の修練場であり、成長過程であった。


 いつしか裏社会にも顔が効くようになり、美佳子の側にならず者が現れなくなった頃―――ソレは意外にも闇ではなく、光に塗れた日常の中より姿を現した。



「どう? 綺麗な建物でしょう? この場所ではね、一切の電気を使っていないのよ―――巫女様が信者のためにと精一杯祈りを捧げてくださり、神の奇跡により完成された環境なの」



 ある日秋臥が学校より帰ると、家にはシングルマザーの母とは別に、三人の女性が。

 どれも馴染みのある近所の顔ぶれでであり、一瞬はただの友好かと勘違いしたが、その油断は禁物であった。


 その三人は少し出かけようと秋臥と美佳子を車に乗せて、山道深くへ。


 その地点では既に怪しさを感じ取っていた秋臥ではあったが、母の目の前で人を殺めるわけにもいかないと暫くは様子見であった―――その僅かな時間が命取りであるとは気付かずに、間抜けにも。



「建築よりもう五十年にもかかわらず、神の御業により外壁には一つの傷もなく―――いずれの自然災害からも信者を護り抜いた姿はまさに母の様。愛を感じますね」



 結局連れてこられたのは、山中に突如現れた白い建物。

 三人のご近所が言うからには、宗教団体のトラオム本部施設―――警戒に警戒を重ねる秋臥とは相反して、ただ広い建物を楽しむ美佳子の様子は呑気なものである。



「おや、君達は見学かい――――――」



 秋臥達の進む道の角より、一人大柄な男が現れた。

 男は牧師の様な格好をして、眼鏡をかけた長髪の容姿―――あからさまに、胡散臭い。


 胡散臭くない要素といえば、目のみ。

 人より鋭い三白眼のみが、胡散臭さを圧で和らげていた。



「だっ、代弁者様…………! 何故この様な場所に…………?!」


「ただの見回りですよ―――それよりも、彼らは貴方達が?」



 代弁者と呼ばれた男に問われた三人は、一糸乱れず頭を縦に―――それを確認した男は三人に向かい僅かに微笑んで見せる。



「はじめまして、巴山総司(ひやまそうじ)だ―――君は?」


「加臥秋臥です、よろしく」


「ああよろしく―――トラオムへようこそ」



 警戒していた筈の秋臥が無意識にも手を出し、握手を―――男の、総司の落ち着いた声は要警戒であった秋臥の脳によく響き、リラックスをもたらした。

 通常ならば、あり得ぬほど不自然に。



「君はトラオムに興味が?」


「親の付き添いで来たつもりだったんですけど、話を聞いていたら少し興味が湧いて来た所です」


「そうか、ならば丁度良い―――私が直々にこの施設を案内しよう。良いですかな?」



 秋ねではなく、美佳子に問う―――返答は勿論イエス。

 総司に対する不信感などを一切持つことなく、秋臥は施設を連れ回され、その日のうちに親子揃ってのトラオム入信を果たした。




 ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘




「秋臥くんは今日からここで学んでいただきます―――健全な思想は健全な肉体より生まれ、それらは全て神エティシアに捧げられる。良き学びを」



 入信から暫くして、秋臥が連れてこられた場所は体育館程の広さがある屋内運動場であった。


 学ぶと言っても、見られるものはテーブルや椅子などではなくプロテクターやガスガン、ゴムのナイフなど、学習という言葉には似合わない道具ばかり。


 だが秋臥はそれに一切の違和感を持たずに入室―――否、違和感を持つことは出来なかった。



 シリウス神兵育成教室―――それが、この部屋の名であった。

Twitter新垢作ろうかしら

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