騙られざる
Twitterなくなったら、すごい作業捗る
先手はガレッジであった―――身長百六十四センチと、秋臥よりも十センチほど小柄でありながらも、鍛えられた柔軟な筋肉を活かした動きで多く手を打つ。
後手へと回った秋臥は防戦一方―――ひたすらに攻撃を防ぎ、流し、身に降り注ぐ攻撃の雨を一切浴びずに済んでいる。
「おい女、秋臥の野郎はいつもああなのか」
「………………いえ、違います。最近ではあんな様子すっかりとなくなっていたのに……………」
「そうか。なら仕方ねえな」
仕方ない―――その言葉の真意が気になるものの、ひとまず香菜は秋臥の戦いを見つめていた。
相手の様子を観察しながらも苛烈な攻めを続けるガレッジに対して秋臥は本当にただ守り続けるだけ。
攻めあぐねているようにも、攻撃に回る余裕がないようにも見えない。
「せんせーやばい、この人えげつないぐらい強い……!」
「お〜頑張れ頑張れ」
弱音を吐きながらも、ガレッジの攻撃が緩まる事はあらず。
勢いよく地面を蹴り土埃を立てて一瞬の目眩しを作り出し、姿を暗ます。
そして喉を狙い、鋭い突きを放った。
「えっ、嘘だあ!」
ひたすら防御され続け、溜まったストレスと僅かに見えた隙。
開始時に放った、すぐに終わらせるという言葉に篭った驕りと、疲労に満ちた自分を他人として見た場合の弱々しさ。
それに加えて木刀という、斬は放てぬ打に特化した武器で即勝利を掴むならば―――その思考によって秋臥は、喉へと向けて放たれた突きを素手で掴んでガレッジの背後へと回ると、掴んだままの木刀で首を圧迫。
わずか三秒程で、意識を奪い去った。
「………………これでいいですか?」
「ああ、ひとまず面白え」
それだけ聞き遂げると、秋臥も意識が途切れた―――眠気と体力の限界。
立った状態から、不意に全身の力が抜けて倒れ込むように眠った。
地面に激突する寸前、香菜が糸を伸ばして柔らかくキャッチ。
寝顔を見つめる眼差しは、どこか不安に曇っていた。
⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘
「お前ら、どこから来た?」
「王都ですけども………………」
「そうじゃねえ、出身だ出身。先に言っとくが母さんの子宮とかふざけた事抜かすんじゃあねえぞ」
平山のリビングに香菜と、五時間ほど眠って目を覚ました秋臥を呼び出して言うアリス。
単なる出身地をネタにした雑談というには、妙に張り詰めた空気である。
「冥国です。冥国の隅の、小さな部落から来ました」
「大嘘だな―――悪いが俺に、嘘は通じねえぞ」
その観察眼は魔法などではなく、アリスのこれまで生きて来た道で培った経験に基づいたもの。
一瞬で、秋臥の嘘を見破ったアリスは机を指で叩きながら、二人を睨む。
「人間ってのは、生まれた土地、生活水準、そして環境によって癖ってもんがある―――お前ら二人、共に生まれ育ったなんて様子じゃあねえよな。話せ、お前らが出会ったその日から、今日ここに至るまで―――何があったか、どう生きたか、何故鍛えたかを」
「……………………もし、断ったら?」
「即刻帰らせる―――いや、不法入国としてこの場で叩き斬る事も吝かじゃあねえな」
それを聞いた二人は目を合わせ、唾を飲む―――自分達がどこから来たか、異世界から来たなどという話をこの場でして良いものかと。
そして何より、今まで人に話した事のない二人の歴史を―――忌々しき記憶をここで話すのかと。
二人とも、数日前の侵攻にて魔人族や魔王パルステナ、それらを王都へと召喚したイベリスの戦力と、その脅威は理解している。
あの日聖七冠の全メンバーが居なければ自分達に今日は無かったという事も、そう都合の良い機会が続く事は無いという事も。
「話たかねえなら仕方ねえな―――秋臥、お前の流派がどこかは知らねえが、俺が今脅威と危惧する奴らに似て仕方がねえんだ。もしダンマリ貫くってんなら、面倒臭えが俺の職務を全うさせてもらうぜ」
「………………いえ、話しましょう」
パルステナとの戦いを間近で見たからこそ、今の自分がアリスに敵わない事も承知の事実―――現状秋臥に、過去を語らぬという選択肢はなかった。
それが、どれ程に語り難い話であろうとも。
「あれは、六年前から始まった話でした―――いえ、もっと前から始まっていたのかも知れません。これは異界にて起きた出来事、他言無用で頼みますよ」




