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悲恋

 喪服の行列―――数日前には世界史に残るであろう式典を行い明るく作られていたホールが、今は黒一色の衣服で満ちている。


 個人の葬儀に聖七冠(セブンクラウン)の全員が揃う事が、どれ程に珍しき事か。

 他にもこの世で人として認められている種族で、この場に足りぬものは無く―――皆が彼を敬愛し、その別れを惜しんでいた。



「ベディヴィア・ハーシュマイン、愛の人よ―――国民の皆を愛し、国を愛し、秩序を愛し、何より安寧を愛した貴方をこの様な形で弔わねばならぬ事を、何よりも哀しく思います」



 参列者達の先頭で、一輪の硝子花を持つ女王、メリュジーナが言った。

 化粧は普段よりも少し厚く、声は少し掠れて聞こえ。

 何より隠し切れぬほど、目は充血している。


 

「私と貴方は幼少期より、共に生きて来ました―――貴方のお父様が騎士団長であった頃より、私の騎士として側にあった貴方は、よく私の言う事を護り、その勤めを全うしていましたね―――しかし、あの日私が女王となった際の約束は、まだ果たされていない筈です。いつかベッドにて老に倒れる私を看取ってくれと頼んだ私に貴方は、女王様の頼みとあればなんて一言、微笑み答えたではありませんか―――それなのに何故、貴方はそこに横たわっているのですか」



 眼前にある棺に向かい語りかける―――頬を伝う雫は彼女の表情と良く似合って見える。



「さようなら、私の騎士――――――」



 そう言い終えると、棺の中に手に持っていた硝子花を添え、鞘に銀の花細工が施されている、これまでベディヴィアの振るった剣を取り出す。


 すると周囲の、甲冑を纏った騎士達が棺の蓋を閉め、担ぎ上げると敬礼し並ぶ騎士達の列を通過して棺堂へと運ばれていく。



「………………行かないで」



 参列したもの達の中でも最前列の数人のみが聞こえたかどうかの消え入りそうな声で、棺を見送るメリュジーナは呟いた。


 本人すらも無意識のまま、少女の様に無力な願望を。


 少女の頃、騎士でありながら友であり、愛しき人であった彼に話しかける様に。




 ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘




「これは…………?」


「金庫の魔道具だ。契約すれば、持つだけで中身が分かるし、簡単に中身の出し入れも出来る―――手出せ」



 王都より帰ろうとする秋臥達を見送るスアレーが、一つ四角形の木箱を渡す。


 秋臥が受け取ると、箱より手に緑の筋が広がる。

 手を離そうとしても、その筋が物理的に手と箱を繋いでいるので不可能。


 箱の上にスアレーが手を重ねると、ゆっくり魔力を流す―――箱を伝い秋臥の手へと流れる魔力は、少しの暖かさを感じさせる。



「譲渡する―――これでこの箱はお前のもんだ、中身分かるか?」


「ええ―――って、なんですかこの額は…………?!」



 驚く秋臥を見て、スアレーは爆笑。

 横でその様子を見ていた香菜は、不思議そうな表情をしていた。


 この箱の中に入っていたのは、金であった。

 それもエルフ族クロニクル加入の際程ではなくとも、多額のである。


 

「この国とクロニクルとの合同でな、今回の戦いで魔人族を討伐した者には、その数だけ報奨金を渡すことになった」


「報奨金って…………一体いくらぐらいの計算でこの額に………………?」


「一体金貨五枚―――あの戦力のやつを倒した報奨金としては少なすぎる額だな」


「僕が倒したのは精々四十体前後なんだけど、それじゃあ届かない…………もしかして香菜?」


「私の方も、三十に届くかどうかですね………………計算違いでは?」



 二人の会話を見ながら、スアレーは何か面白そうに。

 それから二人の横を過ぎて、その背後にある馬車も過ぎ―――それを引く為繋がれているグリフォンの背を軽く叩いて見せた。



「―――記録じゃあ一体の魔人族が厩舎の入り口を壊してなあ、そしたらコイツが出て来て大暴れよ! どったばったと敵を薙ぎ倒し、千切っては投げ、千切っては投げ、ときに喰って。結果としては、馬を奪いに来た百六十二体の魔人族を討伐していた。ありゃあ見事なもんだったな」


「ひゃくっ………………そうか、頑張ったなあ………………」


「それはそれは、本格的に何か名前を考えてあげないといけませんね」



 自慢げな表情のグリフォン。

 二人と一匹の報奨金の合計を日本円に変えると、約二千万円程。


 当分暮らすには困らない額だ。



 「納得したなら、受け取ってけっ! これはお前らの正当に稼いだ金だからな」


「ではありがたく―――また会いましょう、スアレーさん」


「おうっ! 今度暇が出来たら(アタシ)の方からも顔出しに行くからな〜!」



 それだけ言うと、馬車に乗り込み出発―――今回は少し慣れ始めた香菜の操縦からスタートだ。


 そう思っていた矢先、街の方向より駆け寄ってくる人影二人。

 見送っていたスアレーの両脇を揃って駆け抜けて、初速とはいえグリフォンに匹敵―――いや、近づいているのだからそれ以上の速度で迫っている。



「誰…………って、ベネティクトさんと、あのときのっ!」


「逃げんな、面倒くせえ」



 駆け寄ってきたベネティクトと、あの日ルークと共に現れた男。



「お前がルー坊の言ってた秋臥だな、借りてくぞ」


「なんだ、秋臥くん目当てかい。それならそうと―――うっ、気持ち悪い」



 馬車に飛び乗って来た二人からは、酒の匂いが強くした。

 恐らく先程まで夜通し呑んでいたのだろう―――それなら、今ベネティクトが馬車の外へ嘔吐しているのも理由がつく。



「借りてく? 秋臥は物ではありませんし、物だとしても私の物です―――名乗りなさい、でなければ馬車に結んで下ろしとなっていただきますよ」


「名乗るなあ…………アリス・セクトプリム、先代剣聖で、ルー坊の親兼師匠。そのルー坊に頼まれ秋臥の面倒見に来てやったぞ」

七キロぐらい歩いて疲れた〜

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