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脅威の引き伸ばし

「剣聖、アリス・セクトプリム………………っ!!!」


「元だ、元―――今ぁ、そこの馬鹿弟子にくれてやった名だ」



 無造作に伸びた髪を一つに束ねた、無精髭を生やした男。

 それが確かに、ルークを指差し弟子と言った。


 先代剣聖、アリス・セクトプリム。

 魔王パルステナの天敵に他ならぬ、強者である。



「あらら、マリーちゃんに雑魚掃除頼んできてみればアリスくんじゃあないの」


「あ? ベネティクトじゃねえか―――お前まだ現役だったのか」


「僕だけじゃあないよ―――ドラグもまだ元気さ」



 少し遅れて登場したベネティクトが敵前でありながらも、久方ぶりの再会であるアリスとの軽口を。

 呆れ顔でありながらも慣れた様子のルークからして、これは昔から変わらぬ様子なのだろうと秋臥は察した。



「さて、随分と暴れてくれたようじゃないの―――ボクの飲み仲間までやってくれたみたいで。落とし前、つけてもらおうか」



 ベネティクトが、ベディヴィアの骸を一瞥して言う。

 その圧によって、一瞬緩んだ空気を自ら締め直す―――突如、アリスが飛び出した。


 疾走―――指で円を作った手で木刀を包み、鞘の様な形に。

 鋒を返し下に向け、まるで今より抜刀する侍の様な形で柄を握る。



「悪いが、弔い合戦なんてのは苦手でな」


「知った事か」



 パルステナは横薙ぎ一閃の手刀によって、疾走からの抜刀を阻止しようとするが、空振り―――速度と距離を見れば、完璧なタイミングであったにも関わらずだ。



「相も変わらず、嫌らしい男だ」


「野郎に褒められてもなあ」



 瞬間抜刀―――指の鞘より木刀を弾き出し、勢いそのまま振るう。

 それをパルステナは素手で受け止めたが、それと同時にアリスのハイキックが顎を鋭く打つ。


 剣聖とは名ばかりの、ステゴロである。



「これだから子守りなんてのはダメだ…………鈍ってやがる」


「………………当て身か」



 パルステナは魔力の障壁を作り出して防御―――空間を歪めるよりも僅かに速い手を取った。

 それから、木刀を掴んでいない方の手を手刀の形のままにして突きを放つ。

 それを掴まれた木刀は離さぬまま空いた手で叩き落とすと、今度は中指のみを尖らせた拳で勝掛(かつかけ)を狙うがそれも防御。


 木刀一本を両者握ったまま、素手にて技を一つずつ確かめ合う様に打撃戦を繰り広げている。



「見えているぞ―――星墜ベネティクト・カマンガー


「参ったね、どうも」



 背後へと回り込んでいたベネティクトに言う。

 試しに数発魔力弾を放つが、全て空間を歪める事で別方向へと飛ばされてしまう。


 遠距離攻撃とパルステナの使う歪みの魔法はすこぶる相性が悪く、炸裂弾を使おうにもアリスを巻き込みかねない。


 故に、彼は選んだ―――打撃戦への参加。

 それだけが彼の、勝利に関わる方法であった。


 その拳は鍛え上げられていた―――常日頃銃を持ち、早撃ち。

 その動作の繰り返しは、彼の手首や拳を充分なまでに鍛え上げたのである。

 

 例えば、スペースシャトル打ち上げの際に横たわった状態で人間が耐えうるGは精々7G程度。

 それに対して、ベネティクトが超速で銃を抜き出す際手にかかる重力は実に10G以上。


 その際手首に魔力の強化などは一切かけておらず、完全なる生身の行動。


 それを首から下体毛の一本も生えていない頃より繰り返していたベネティクトの拳が、弱い事などあり得はしない。


 二人相手に片手は無茶だと、パルステナは一瞬片手の魔力による身体強化を増やして木刀を遠方へと投げ飛ばし、片手に一人でアリスとベネティクトへと応戦。


 躱し、抑え、叩き落とし―――魔法行使の余裕などない打撃戦の応酬は、そよ風一つで誰かが脱落してもおかしくない程に紙一重であった。



「悪いね、アリスくん」



 そう言って、ベネティクトが放った打撃をパルステナが余裕を持って抑える。

 僅かに寸前より膨らんでいた拳を、無警戒に。



 炸裂―――手の内に作り出した魔力弾を、拳を打った衝撃によって爆発させた。


 命をかけるには安い戦法だと威力こそ控えめなものの、三人は爆煙に身を包む結果と―――その一瞬の隙を、見逃さぬ者が居た。



「――――――蒼燕剣(そうえんけん )ッ!」



 氷にて形取られた両刃の矛を回転させながら飛来する一つの影。

 

 爆煙を晴らす一振りは深く、左肩から右の小脇までパルステナの体を裂いた。



「貴様っ、完全に気配を…………!」


「得意でな」



 間を開けず、攻撃―――今度ば右の小脇より左の方を裂く一撃を放った。


 傷は大きくバツ印を描き、確かに刻まれていた。

 にも関わらず、血は流れず。


 代わりに見えたのは、黒い泥の様な液体。

 僅かな固形を持ったソレがパルステナの体より溢れ出した。



「っ、引け…………!」



 アリスの一切にて、皆後方へと跳ぶ―――直後、パルステナ周囲の地面が消失。


 パルステナの立つ位置を除く大地が、底の見えぬ奈落へと変貌した。



「早速の雪辱戦とはいかぬか―――仕方ない、敗北を受け入れよう」



 泥はパルステナの身に纏わりつき、止まらず流れ続ける。

 全身を包み込もうとしている様子だ。



「だが今回は命まではやらぬ―――待て、そして恐れよ。今度は三十年前以上の兵を持ち、再度貴様らの前に現れよう」



 泥に全身を包まれたとき、それだけを言い残してパルステナは消えた。

 泥はべちゃりと地に落ち、内に誰かいる様子もなく。


 まだ見ぬ脅威のみを残して消えていったのだ。 


 

Twitterアカウント、もうダメかもしれんね



↓↓↓固まったやつ

@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)


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