因縁
雨が降っていた―――魔人族達の降らす血の雨を即座に洗い流す様な、強い雨が降っていた。
「………………ベディヴィアさん。まだ息はありますか…………?」
「っ、ああ…………だが、もうじき尽きる…………」
秋臥が到着したとき既にベディヴィアの体は両断されており、瀕死。
気力だけで、僅かな命を灯し続けている状態であった。
「せめて死にゆく私から、貴殿へ望みを遺そう…………! どうか、これから歩む道に光あらん事をッ! 貴殿の進む戦火の先に仇花無く、その全てが栄光と希望にに満ちている事を切に願う…………ッ!」
激励―――これから目の前の、自身の命を絶やすダメージを与えた敵へと挑む少年へ力一杯の激励であった。
聞いた秋臥は、近くに落ちるベディヴィアの剣を拾う。
「ベディヴィアさん、お疲れ様でした―――貴方の魂をお借りします。この剣が戦い続けるならば、貴方が戦うと同義。一度だけ、貴方の横に並び立つ事をお許しください」
「嬉しい事を言ってくれるな………………それならば我が魂、誇り、尊厳、その全てを託すとしよう…………っ! 連れて行け。私も、お前も、今ここで立ち止まって良い役者ではあるまいッ!」
「ええ、ではまたいつか―――次会うときには、白髪こさえて行きますよ」
「なるべく遅く、あの娘も連れて来い…………そしてこの戦いの顛末を、聞かせてくれ……………………」
それ以上、言葉は無かった。
ただ喋らぬ骸に背を向け、敵へと目を。
片手には抜き身の剣を強く握っていた。
「やったのは、お前か…………!」
「こちらからも問おう―――それ以外、誰が見えるか」
瞬間―――秋臥は駆け出した。
来る際出会したマリーから、パルステナの魔法は聞いている。
なるべく攻撃に当たらぬ様に身を低くして疾走―――間合いに入る前に氷の槍を五つ飛ばし、先手を奪う。
パルステナは途中の空間を歪めて杭の軌道を逸らし一切の動きなく身を守ると、ベディヴィアに使った物と同様、空中に歪みで剣を作り出した。
「貴様も、その男と同じ様に屠ってやろう」
「結構!」
言うと同時であった―――パルステナの背後、氷塊が生え強く背を打った。
「なっ…………!」
「どうした魔王―――魔法の考慮を忘れているぞ」
ベディヴィアと戦っていたが故の油断―――視界外からの攻撃を忘れていた。
攻撃に怯んだ一瞬の隙を逃さず追撃―――パルステナの胸中心目掛け、刺突を放った。
「そんなのもありか………………っ!」
胸部分、空間と共に体を歪め空洞を作り出したのだ。
つまり、貫通ではなく通過―――微塵のダメージも与えられてはいない。
「あの男の斬撃は倍ほど速かったぞ」
空間を歪めながら胸に空いた空洞を移動させ、体の回転によって小脇より剣を外部へ。
その回転の勢い殺さず、秋臥へと回し蹴りを放った。
「あの男に思っていたより手間取ったおかげで、痺れを切らしたか―――詫びよう童よ、貴様とは正々堂々と戦うわけには行かぬようだ」
「実戦だ、元からそんな期待なんて――――――」
言い終える前であった―――秋臥の背後に突如、二つの気配。
空を覆う影が消えている、そして背後にいる二つは空を覆っていた影の大元と、嫌に魔力が似通っていた。
「―――来たか、母達よ」
「雛姫っ!!!」
二体、変わらず―――人並みの大きさとなったソレが、骨で作った様な無骨な剣を持ち佇んでいた。
そして秋臥が振り返ると同時に、首が落ちた。
「悪いがそのクラスとなると、僕が出るしかないようだ」
「貴様、その剣はっ…………!!!」
白く、一切の光を反射することのない刀身と、グリフォンの両翼を形取った鍔。
剣聖のみが握る事を許されたその剣の名は―――。
「神剣、ハーリット…………!!!」
「よくご存知で」
「ルークさんっ!」
聖七冠、主席―――ルーク・セクトプリム。
世界最強の人間であり、抑止力である。
「ベディヴィア…………間に合わなくて、すまないね」
「………………仇討ちでもするつもりか?」
「残念ながらそれは、僕の仕事じゃなあい」
空よりもう一つ、影が舞い降りた。
古惚けた外套を纏う、黒髪の男―――着地からゆっくりと立ち上がると、木刀を肩にかけた。
「お前の因縁は、俺だろ?」
「その声…………貴様、老いたな」
「違えよ、熟成したんだ」
木刀は、並の魔剣以上の魔力を纏っていた。
素材は神樹、作り手はエルフ族随一の名匠であり、それを握るのは元最強。
名を、アリス・セクトプリム―――先代剣聖であり、聖七冠の元主席。
三十年前にパルステナを討った、その人であった。
「それにまだ、ギリ全盛期だぜ」
謎にTwitterアカウントロックされた、たすけて!!!
↓↓↓固まったやつ
@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)




