戦闘スタイル
魔王の勝利―――それは、騎士達の士気を下げると同時に、暴れる魔人族達を勢いづかせた。
銀骸の関節部を砕き、中身を破壊し、次々と騎士達を屠るその姿は暴力の化身そのもの。
その魔の手は、香菜やラクルスなどの居る地下都市までも及ぼうとしていた。
「死霊行列…………っ、有象無象じゃダメかな…………」
聖七冠、第三位―――冥王、メイスが呟く。
百体の死霊を操り、肉壁とし来賓達の避難時間を稼ぎながらの応戦。
単純な戦闘とならば魔力を使えぬ状態の魔人族如きに遅れを取ることなどあり得ないが、それが人々を庇いながらとなれば話は別。
少々押され気味で、後退しながら戦線を維持している。
「そこの女の子、まだ平気…………?」
「お気にっ、なさらず……!」
人混みに紛れ避難するよりも、回避に重きを置きながらの戦闘の方が安全と踏んだ香菜は、メイスと同様戦線の維持に励む。
事実避難する人々の中では、一定数人の圧により負傷する者も居る。
先導する聖女セリシアが回復魔法を常時放ってはいるものの、いつ限界が訪れるかは分かったものではない。
「この場にいながら戦闘の手助けが出来ぬこと申し訳なく思う。どうかあと僅か、耐えて頂きたい」
「喋る余裕があるなら、上広げろ…………」
守護者ドラグは、部屋の壁を広げながら避難通路の確保と魔人族の侵入経路を潰す作業で手一杯。
竜人族きっての武人気質であり、戦闘こそ誉とするドラグからすればこの役割は必要不可欠と理解しながらも苦痛であり、度々詫びを告げている。
だがドラグがこの場で本気の戦闘を行うとなれば、床や壁、天井などなどは元の形を失い崩落。
多くの犠牲者を出しかねない。
故に、その戦闘に対する切望は決して叶う事はないのだ。
「召喚―――一級死霊兵、大髑髏者ッ!」
ドラグの広げた空間に、メイスの影より超大柄の死霊が現る。
有象無象には含まれぬ、鎧を着て大楯と大剣を装備した死霊。
それが横薙ぎ一閃すると、溢れんばかりの魔人族達が薙ぎ払われる。
「好きに暴れろ、僕が許す………………敵は魔人族、殺害も良しだ」
瞬間、咆哮―――味方とは思えぬ凶暴な叫び声が、地下都市全体に響き渡る。
大楯で押し潰し、大剣で叩き斬り、足で踏み潰しと大髑髏者の戦力は莫大なもの。
傷つけられようと一切気にせず、ただ敵を屠るのみ。
それを見て香菜は身震いを―――自身の糸で拘束は出来ないだろうなと思いながら、魔人族を三体糸に絡め取る。
「っ………………貴方達が狂乱状態で助かりました」
捕らえた端から首を刎ねる。
最初こそ生け取りを目指してはいたが、こうも戦闘が長引くと体力と魔力の消費も大きく、一々新しく糸を出すのも惜しい。
香菜の体力は人並み―――学校の授業でこそ優秀な成績を残してはいたが、秋臥や冒険者達、騎士達の様な魔力による身体強化を施した戦闘を長時間継続出来る程のものではなく。
既に息は絶え絶え、肩を上下に揺らしながらのものである。
『ヌシ、下手じゃの〜』
「何ですか、こんなときに…………!」
脳内に、ラジェリスが語りかける―――余裕なく戦う香菜としてはそれが耐え難く煩わしい声だったのか、周囲の目など気にせず、感情を露わにした声で応え。
しかしラジェリスはそれを面白そうにキシシと笑っている。
『あの小僧の戦い方を真似ている様じゃが、ヌシにアレは真似できん。アレは小僧の反射神経とそれに対応可能な肉体あってのもの―――魔力強化を入れて漸く、素の小僧と同等のヌシでは決して叶わん芸当よ』
香菜が行っているのは、見様見真似で秋臥を意識した、その場その場で敵の動きに対応する超高速戦闘。
魔力により強化された体と、香菜の思考速度をフルで生かしてなんとか形に出来ている、付け焼き刃の代物。
自身を取り囲む敵の位置と動きを把握して、攻撃と防御に操る糸の位置と軌道を把握し―――長時間続けるなど無茶であり、いずれ体力の限界を向ける時限爆弾に他ならないのだ。
『見てられんわ…………よし、一度だけ授業をしてやろう』
言うとラジェリスは、香菜の意識を飛ばした。
この世界に二人を連れてきたときと同じ要領で、意識だけを天界へ―――そして空いた体に冥国より、自身の魂を吹き込んだ。
「乗っ取り成功―――どれ、神様の儂が行う神授業。しかと見とれ〜」
瞬間―――香菜の体周囲を糸が包む。
その形状は繭の様で、外敵の手を一切内側まで届かせない防御壁である。
内側で香菜の体に入ったラジェリスは一度大きく深呼吸して息を整えると、残りの魔力と体力を把握。
周囲の敵を引き離すため爆発させる様な勢いで、繭を破壊した。
「天還の繭―――良いか、動けない者には動けないなりの戦い方がある」
ラジェリスが天還の繭と言い放った瞬間、今さっき体の周りを包んだ様な繭が四つ現れる。
それが魔人族達を包み、繭を形成する糸がそれぞれ螺旋回転を回避。
内の魔人族達を、ミキサーにかけた様に切り刻んでしまう。
「動けるものは動けば良い―――己の体を支配し、思う存分にの。それが出来ぬならば、支配するのは外であり戦場。一歩も動かずして、敵を屠るのじゃ」
繭は移動を開始―――外皮が魔人族に触れると、一瞬だけ繭に隙間を作り中へと取り込み切り刻む。
「儂が用意した体じゃ、魔力だけは小僧と同じく存分にある―――精々上手く使うのじゃ」
繭を解くと、魔人族だった物がその場に落ちる。
グロテスクではあるが、確かな戦績である。
「以上、神授業を終了する―――敵は減らした、覚えたならば試してみよ」
それだけ言い残して、香菜に体を変換してラジェリスは消える。
死屍累々の戦場の中、香菜は納得しながらも唇を尖らせ不満を見せていた。
(更新状況とか)
@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)




