歪み
パルステナの攻撃―――空間を反転させた刃を振るい、ベディヴィアへと襲いかかる。
それを紙一重で回避すると、今度は自身からとベディヴィアが細身の剣を振り下ろし。
だが、間に合った―――パルステナの剣による防御が、振り下ろされる刃とパルステナ本人の間に挟まる。
この防御に触れれば剣は空間の反転に巻き込まれて容易く砕けるであろう。
にも関わらず―――ベディヴィアが剣速を緩める事は無かった。
どういうわけか剣は防御力をすり抜け、浅くだがパルステナの肩に切り傷を付けた。
「………………何をした」
「影抜きという―――魔力は要らぬ、ただの技だ。私は貴様とは違い、力をただ力として振るえるほど恵まれていないのでな」
刃に滴る血を払い言う。
彼が魔力なくとも騎士団長となれたのは、その多彩で磨き上げられた“技”あっての事。
魔力に劣る一つ一つを、日夜磨いた技によって補い上回る。
それが彼を騎士団長たらしめる、所以であった。
「そうか…………面白い」
瞬間―――ベディヴィアの左肩が裂けて血を吹いた。
左手は剣を振るう事すら叶わぬ、深手である。
「今の一手で理解した、剣技でお前には敵わぬとな」
パルステナの周囲に次々と、反転した空間の色で剣の形が浮かび上がる。
ベディヴィアは眉を顰めて汗を流しながらも、叫び声など一切上げずに剣の数を把握。
そして再度、突撃した。
飛来する反転―――体に細かな傷を作りながらも、一つ二つと針に糸を通す様に歩みを進めながら回避。
だが一歩、歪んだ―――次の攻撃を回避しようと踏み出した一歩が、正面ではなく斜め後方へ進む様に空間が歪んだのだ。
攻撃が命中。
反転による刃が、ベディヴィアの右目を深く抉り取った。
「人の居る空間への直接干渉―――魔力の消費が激しい故に、使うつもりはなかった」
パルステナ周囲の空間が歪んでいる―――もはや直接触れる事は不可能に近く。
四方八方、前後左右上下と内外に、法則なく重力の方向が散らばっている。
「魔力無くしてこの私に傷をつけた存在―――それが血気迫る顔をして、命を投げ打って吾れに迫っている。三十年前、聖剣との戦いぶりだ。死を身近に感じたぞ」
反転の剣をさらに増やす―――遊び心などない、無常に降り注ぐ剣を装填する。
「もはやお前に並ぼうとはしない。剣で張り合おうとも、少しの遊びしない―――お前を脅威として見なし、ただ葬ろう」
宙に浮かぶ剣達が、回転を始める―――そして、なんとか立ち続け片手で剣を構えるベディヴィアへと降り注いだ。
もはや回避は難しい。
深手を減らして、浅傷に済ませようとする方向へと頭をシフト。
細かな傷を増やしながら、なんとか前進する。
そんな中、一つの刃がベディヴィアの左足を断った。
勢い付いた体は、浮いた左足の着地に失敗して前傾姿勢のまま転倒。
再度駆け出すには、攻めの手が多すぎる。
「まだ、止まるわけには行かぬ…………まだ、私が歩みを止めるわけには行かぬのだ…………ッ!!!」
残った片腕で地を這い、前進を続ける。
進む背には傷が増え続る―――その痛みが今は、ベディヴィアの意識をこの世に繋ぎ止めていた。
「…………問う、答えろベディヴィア・ハーシュマイン。お前は何故戦う? 何故護る? 何故血を流す? 何故命を賭す?」
攻撃の手を一時止めて、問う。
ただ純粋な疑問であった。
「考えた事など、一度とてなかった…………それは私にとって、不要な思考だッ!」
「不要、何故? 何故その輪郭に目を向けてすらいない物のために動ける?」
「命とは、逃げるのだ…………目を離すと、不意に手が届かない場所まで逃げるのだ。思考などして足踏みしている時間はない…………私は常に寸前であり瀬戸際だ…………ッ! その瀬戸際を一歩埋めたいならば、躊躇する時間などない…………獣人、有翼人、エルフ、竜人、ドワーフ、貴族、平民…………私は、この国の命全てを預かった者だッ!!!」
パルステナは眉一つ動かさず。
ただ納得していた―――目の前の男が何故地を這ってまで進もうとするのか。
それが意思の力という無限の動力による行動だと理解したからだ。
「………………名乗れ」
「ベディヴィア・ハーシュマイン…………ッ!」
「その名、生涯記憶の片隅に留めておこう」
パルステナは片手を天へと掲げた―――そして、手元に凝縮された反転を作り出す。
身の回りに纏わせたものと同じ様に、半径三センチ程の円形で無造作に方向が切り替わっている。
「さらばだ、気高き男よ―――お前と戦えた事、誇りに思うぞ」
言い、手を振り下ろしたと同時にソレは放たれた―――この戦いは倒れたベディヴィアの、腰部分で体が分断されることによって幕を下ろした。
エルデンリング、楽しい…………
(更新状況とか)
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