アホの子
投稿時間のアラーム鳴らんかった!!!
「試したら出来ましたが…………人間離れしてまいりましたね」
「ああ…………僕も驚いてるよ」
待ち合わせ場所に、あっという間にたどり着いた二人―――香菜の屋根に飛び乗る跳躍力と、そこからの疾走速度。
それらが秋臥を抱えてという前提で行われた事実に、隠しきれない驚きを抱きながら息を整える。
「しかしここは何だろうね…………道は狭いし路地裏っぽいけど、入り口はこっち側にしか無いし」
「あまり良い立地とは言えませんね―――健全に住む目的としましては」
「どういう事?」
「ですからこの家………壁は、目隠しと考えてみてください。ラクルス様のエルモアース家はある程度名の知れた貴族ですから、脱出用経路は用意されているものと考えるのが当然かと」
「成る程…………でも、それなら向こうも対策してるんじゃないかな?」
二人の予測は寸分の狂いもなく的中していた。
この家の中は一般民家と見せかけて、一本地下へ繋がる階段が用意されている―――そこから進むと、辿り着くのはエルモアース家の屋敷。
脱出経路を、そのまま侵入経路として使ってしまおうという考えである。
「以前の当主が聡明ならば、有事の際の命綱であるこの道を無闇矢鱈に人へ伝える事はないでしょう―――それこそ、跡取り争いなど起きた場合にでも備え、自身が後継者と決めた相手以外には」
「確かに、それで話は成り立つか」
「ええ。どうにしてもラクルス様に聞いてみない事には全て想像の域を出てはいませんが」
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「少し厄介なことになったな…………」
リーニャが一人、路地裏にて呟く。
ラクルスと同時にそれぞれ飛び出した直後、数人の兵に追われて逃走。
未だ撒き切れず、近くで鎧の歩く音が聞こえる。
「仕方ない……………少し戦うか」
マントを深く被ったまま腰に下げた剣を抜く―――道の曲がり角、鎧のガチャガチャとした音が近づいてくる。
一歩、二歩、三歩―――鎧のつま先が見えた瞬間、リーニャは動いた。
「すまない…………っ!」
気配を消して背後へ忍び寄ると、首の関節部から剣を入れて喉を刺し、仲間を呼ばせないように―――これで、暫くの時間は確保出来た。
次に視界確保の為に開けられた頭部の穴から剣を刺し入れ目を潰すと、背を蹴り倒す。
突如視界を失い声を失い、更に倒れ込んだ状態でもはや自身が向いている方向の上下左右すら認識出来ない兵の四肢の腱を切って、身動きを完全に封じた。
「申し訳ないが主人のためだ、許してほしい」
静かに告げるとリーニャは剣を鞘に戻して駆け出す―――目指すはラクルスと屋敷から逃げ出すのに使った通路。
街に近づく前、もしも入口に検問が敷かれていて通過不可と判断された場合は真っ先にそこを目指すと決めたのだ。
「待っていてくださいねラクルス様、すぐに貴方を家に戻して見せますよっ!」
少し大きな声で言った―――そして、咄嗟に両手で口を塞ぐ。
彼女は少し、アホの子であった。
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周囲捜索五名―――ラクルスは顔をマントで隠していたものの、体格でアタリをつけられたかと歯噛みしながら安全な道を探る。
彼はリーニャ程、戦闘能力があるわけではない。
一人不意打ちで倒すことは可能でも、その後確認出来ていなかった敵が現れる可能性を考慮すれば、戦闘は難しいのだ。
ならば選択肢は潜伏一つ―――息を殺してゴールを目指す。
堅実に進んで行こうと決めた。
「おや? そこに居るのはラクルス様ではございませんかっ!」
そろそろ人が散らばり、ラクルスが動き出そうとした矢先―――気の抜けた声が響く。
リーニャの声だ。
「ラクルス様が動きやすい様にと敵を仕留めて回っていましたが、まさか直接ラクルス様と合流出来ようとは幸運ですねっ!」
「俺は不運だ」
リーニャの大声に、敵はすぐ気づく―――不運にも客寄せならぬ敵寄せと出会ったラクルスはため息を溢しながらも、頭を潜伏から戦闘しながらの移動へと切り替え。
彼女がいればまず絶体絶命はあり無いのと、最悪秋臥と香菜の二人と合流すればなんとかなるだろうと見積もる。
ラクルスは特に秋臥へ期待を寄せていた―――香菜は随分と秋臥に懐いている様子。
あの兵達を全滅させた香菜が懐いているのだから相当な実力者なのだろうと言う考えだ。
更に話した限り、頭も回る。
出会った直後の話は、咄嗟の嘘にしては矛盾が無い。
どこか怪しさを感じたので鎌をかけたが、もう少し大人らしい雰囲気だったならば自分は秋臥を生物学者なのだと思い込んでただろうと思考。
頭も回る実力者を味方に出来たのが幸いだと、現在の不運を一瞬忘れて、先の幸運を思い出す。
「まあ、起きちまった事を続けても仕方ねえか…………リーニャ動くぞ。まずはお前が呼んだ奴らの始末からだ」
「はいっ!」
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