銀華の騎士
今年最後の更新!
雛姫、魔と名の付くものの母体―――秋臥が地下都市に居る頃、事は起きた。
雛姫の股座より、影が落ちた。
その影をよく見ると、何かが地面で蠢いている。
全身を黒いローブで覆い、雪の様な白い長髪を地に這わせる褐色の男。
その特徴はまるで、かつて討伐された魔の王―――一瞥しただけで人口百万の大都市を消し飛ばすと言われる存在に酷使していた。
「………………やはり、初陣を先ず踏むのは吾れであるか。随分と汚い魔力に満ちる時代だ」
立ち上がった男は言う。
その眼光は一切のやる気を感じさせず、顔には大きな傷跡―――三十年前の戦場に居た者であれば、皆震え上がり腰を抜かす相貌。
「出よ、吾が僕達よ―――世は二度目の洛陽を迎えるぞ」
告げると、両手を広げ天を仰ぐ様な姿を見せる。
瞬間、産まれた―――幾千の魔達が濁流の様に次々と。
魔物は勿論、男と同じ褐色の人物らも。
彼らの名は、魔人族―――かつて人類の天敵として世に蔓延っていた種族であり、今この世に残る全種族の人類が手を取り合い絶滅させた種族。
神すら存在を認めぬ、巨悪である。
「進軍せよ―――吾れ、パルステナ・イブリールの名の下、この時代を蹂躙するのだ!」
咆哮であった―――幾重にも重ねられた魔人族と魔物の声が重なり、一つ怪物の咆哮になっていた。
皆隊列などなく各々で街中に広ばり、人を襲う。
並の魔物相手に善戦していた冒険者達を突如襲い、殺しては魔物に死体を食わせを繰り返す。
まさに、蹂躙である。
「魔王、パルステナで間違いない様ね―――悪いけれど、今回の征服はそう長く続かないわ」
魔人族と魔物を扇動するパルステナの前に、一人の魔女が箒で降り立つ―――マリーであった。
魔法に最も長けた彼女だからこそ、誰よりも早く彼の危険性に気付いた。
魔法に最も長けた彼女だからこそ、単騎で戦う必要性に気付けた。
「とっとと終わらせるわ………………紅炎」
もはやお馴染みの魔法を放つマリー。
言うと同時に現れた炎は、真っ直ぐ狙い通りに突き進み、突如パルステナの眼前にて二又に割れ逸れた。
「どうした、終わりか?」
「―――落閻石」
空より、影がかかる―――その正体は、隕石であった。
実際にこの星へと降る隕石や、災害や戦闘後の瓦礫などを固めて宇宙に浮かせる事でマリーが作り上げた隕石のストック。
それが五つ、王都の街へと降り注いでいるのだ。
「自作の隕石か、童の粘土細工と変わらぬ」
隕石が砕けた。
しっかりと魔力で固定していた、勢いで空中分解したわけではない。
パルステナが何か魔法を行使したのだ―――だが、マリーには何が起きたのか理解出来なかった。
だか攻撃の手を緩める事はせず。
マリーは袖の内に隠していた種を二つ撒く。
それは地面に落ちると即成長―――鎧を着た騎士を形取る気となった。
「神樹兵、行きなさいっ!」
「木偶の坊か、まさに児戯だな」
神樹兵によって生み出される人形は、小さければ小さいほど力が凝縮されており強力。
最小サイズは今出ている、百七十センチ―――それがマリーの左右に現れ、そして捻れた。
腹を中心として、空間ごと体が捻れてから砕けた。
マリーの意思によって行われた事情では、決してない。
「空間の、歪み…………!」
「理解が早いな―――そう、吾れの魔法は空間の支配。天地構わずこの世の全てが、吾が支配下である」
⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘
騎士達は、冷静であった。
突如現れ、ただの人とは比べ物にならぬ身体能力と魔法の質により冒険者達を次々と殺してゆく魔人族や魔物を見てなお、誰一人逃げ出す者が居らぬ程に。
騎士達は知っていた―――己らが過ごした訓練塗れの日々は、いつか実践にて使われる技術を学ぶ時間であった事を。
騎士達は知っていた―――そのいつかは、必ずしもやって来るものであると。
騎士達は知っていた―――その日は、必ずしも唐突である事を。
知っていた彼らは一切の焦りを見せる筈も無く、斯も冷静に隊列を組む。
新たに与えられた力と、誇りである剣を握り、微塵もぶれぬ視野で戦場を睨みながら。
「今まで鍛えた力が無駄にならぬ事、大変悲しく思う―――存分に振え、私が許可しよう」
騎士達の先頭に居るベディヴィアが言った。
目には怒りと決意が―――言葉には責任を乗せて、騎士達を導くのだ。
自身が跨る愛馬の体温と息遣いを感じながら、耳の間より王都の街を見る―――今敵に侵されようとしている、自身の産まれ育った護るべき街を。
「銀骸、使用を許可するッ! なんとしても国民の明日を護るのだッ!!!」
言って手綱を打ち、馬は駆け出す。
街全体に騎士は散り、豪剣を振るい魔を討つ。
銀に輝く鎧を見に纏い、誰かが口々に叫ぶ。
我ら誇り高き銀華の騎士団―――決して折れぬ、不屈の刃。
来年もよろしくお願いします!!!
(更新状況とか)
@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)




