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雛姫

クリスマスどうだった?

ぼかあぼっちさ

「さあて、事後処理なんだけど………………やり過ぎちゃった。マリーちゃん、頼める…………?」



 ベネティクトが戦いの痕跡を見渡して言う―――波に呑まれ、雷に打たれ、爆発によってとどめを刺された王都の街。

 家々の残骸はもはや原型を留めておらず、波で一一箇所に纏められたその姿はなめろうの様であった。



「…………私も少しやりすぎたわ。面倒だけれど、これはストックするわけにはいかないわね」



 忌々しそうに、ため息を一つ。

 それから更地となった街へと手を伸ばすと、少しずつ魔力を街全体へと広げる。



構造理解(スキャン)構成過程(プロセス)要素補填(エレメント)―――戻りなさい」



 言った瞬間街の残骸が浮き、動き出す―――数分前までの姿を形作る様にそれぞれがそれぞれの元の位置へと移動。

 破壊された繋ぎ目を再構成し、木っ端微塵と消えた部分は魔法で補填。

 高速で修復作業は進み、十分程度で壊滅した王都は元の姿を取り戻した。



「さあ、終わりよ…………私は帰って眠るわ」


「お疲れ様、マリーちゃん。あとは僕達で――――――」



 言いかけたとき、街全体にプレッシャーが迸る。

 その正体は、巨大な魔力の塊―――脈打つ様に広がるそれの源流は、街上空に浮かんでいた。



「あれは………………卵?」


「マズイ、マリーちゃん結界を!!!」



 宙に浮く卵の底、広がるヒビにいち早く気づいたベネティクトが言うと同時にマリーが王都を被う結界を展開。


 卵のヒビはすぐに広がって行き、割れた―――中から現れたのは三つ目の巨人であった。


 その体躯は王都を覆い隠す程。

 掌だけで王城に匹敵する様なそれは、不幸なことに双子。


 宙に浮かび、仮面を被った様な目だけ見えるその顔を地上へ向け、二体手を繋いでいる。



「ベティー…………魔力はどれぐらい残っているの?」


「良くて四割…………と言っても、満タンでもアレの相手はしたくないなあ」



 言っていると、遅れてフェンディルがやって来た。

 イベリスを殴り飛ばしたあと、街中の魔物を倒して回っていたのだ。



「おい、なんだアレは…………」


「私から言えることとすれば、分からないという一点のみ………………どの文献でも見たことのない怪物だわ」


「だろうね」



 その一声に、皆振り向く―――今しがた殺した筈の者が、平気な顔してそこに立つ。

 額より血を流しながら、足を引き摺りながら―――楽しそうに笑いながらそこに居た。



「彼女達は人の呪い、名を雛姫(ひなひめ)と言う―――不快、不純を練り合わせ、力を持たせた姿さ。ここで使うつもりなんてなかったんだけれどね」



 言うと、イベリスはまたも宙へ浮き上がる―――手には今まで出したどの魔剣とも違う、巨人達と同等かそれ以上の魔力を孕んだ鉾を持っていた。



地逆鉾(どまのさかほこ)―――終世を司るこの魔剣の力の一端、今見せるには本当に惜しいよ」



 別世界に対の存在、天逆鉾(あめのさかほこ)を持つ神器―――それをイベリスは握っている。

 人の快、不快を力とし、事と次第によっては一振りで世に終焉をもたらさんとする歴とした、バグアイテム。



「第二フェーズも完了した。僕は帰るとするが彼女達は残しておこう―――諸君精々、奮闘したまえ」



 言い終えるとドロンと、姿を消した―――残された巨人、雛暇は変わらずそこにあるのみ。

 三つ目の瞼も閉じたまま、何を思うかも分からぬ置き物である。



「アレ、どうしよっか…………」


「この局面で出したなら敵よ―――紅炎(プロミネンス)



 マリーの持つ魔法の中でも、瞬間最大火力最高の炎を惜しげなく放つ。

 範囲は結界の外、目に見える限り―――雛姫の体躯すら、容易く包み込んだ。



「嘘、これで消えないの………………? そんなの私、知らないわ…………」



 戸惑い呟く。

 紅炎(プロミネンス)の炎は、焼くと言うよりも消すという特性を持つ。

 触れた物はその超高温に耐えきれず、消滅―――それがマリーの持つ魔法である筈なのだ。


 にも関わらず目の前の雛姫は、炎に包まれている。

 消滅せず、燃えず―――炎の中にあり続けるのだ。



「おい、敵さんなんかするつもりだぞ………………」



 フェンディルが言う通り、雛姫の顔の口部分―――画面の様になっていた筈の箇所が、二体揃って裂け始める。


 裂けて口を作り、目一杯開く―――その様は、咆哮を放つ獣が如く。



「マリー、結界増やせッ!!!」


「ええ………………!」



 獣人として、ファンデルの獣の勘が光った―――彼の言う通り、マリーは結界を五重に展開。


 その瞬間―――世界の歴代最高火力が塗り変わった。


 ただ二体が無造作に放った咆哮―――それが結界を全て破り、僅か余波で再び王都の景観を破壊し尽くしたのだ。


 ベネティクト、マリー、ファンデルは、その衝撃によりそれぞれ別方向へと吹き飛ばされた。

 皆一切のダメージを負わずに着地するものの、問題はそこではない。

 聖七冠(セブンクラウン)の張った結界が、破られる―――それ即ち、防げるもののない攻撃も同然ということなのだ。



 終末の双子、雛姫―――彼女達の裂けた口が僅かに、少女の様な笑みに見えた。

 

(更新状況とか)

@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)


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