怪物達の宴
メリクリ!!!
「やあ諸君―――そう警戒するな。ここの敵は僕一人。世界最高峰の君達がそんなに怯えていては、クロニクルの沽券にかかわるだろう?」
「怯える、敵にかい? 馬鹿言っちゃあいけない―――僕達は恐れ知らずの冒険者の、最上の七人だよ」
ホールに降りて来て、宙に立ち皆を見下すイベリスの言葉に返すベネティクト。
現状自分達の戦力と、敵の持つ伏兵の可能性と個人の戦力―――それらを比べ思考しながら、一切の油断を見せずにいた。
ホールの中心に居るルークは、女王メリュジーナの守護により動けない。
戦力としてみればサレンなど申し分ないが、戦いに出すため、紅炎による護りを解くのは危険―――動かせない駒だ。
「俺は一つだけよ、怖いもんがあるぜ」
静観していたファンデルが言う―――その鋭い犬歯を剥き出して笑いながら、三白眼をしっかりとイベリスへ向けて。
「城壊しすぎて叱られんのが、怖えのなんのつってな」
瞬間、跳躍―――攻撃の軌道を隠すつもりもなく、ただ殴るという予定が透けて見える様に拳を大きく振り上げた。
「拳王がまさか、ただの馬鹿力なんて冗談よしてくれよ?」
「悪かったな、その通りだッ!」
思いっきり、拳を振り抜いた。
イベリスは魔剣を出して防御―――魔力を多く孕んだ魔剣は、それだけで高純度のダイヤモンドにも届きうる耐久力を持つ。
「ぶっとべッ!!!」
ファンデルの拳は容易く魔剣を砕き、奥のイベリスにまで届いた。
腹を抉る様に拳はめり込み、より上空へとイベリスを放つ―――体にも大量の魔力で防御を施しているとはいえど、無傷で済むような一撃ではなかった。
「―――紅炎」
「炎呑の魔剣」
殴り飛ばされた先、待ち構える様に放たれた一万度の炎―――それを炎呑の魔剣を出し吸収してから、空中での体勢を整える。
足場は魔力を固めて宙に浮かせる事で確保―――魔力操作のなかでも高難易度の技術。
瞬間―――ホールの内部より放たれた三発の魔力弾が出来たての足場を砕いた。
「―――神樹兵」
「擬似的な神樹の作製…………?!」
マリーが言うと、城の周りに巨大な樹木が二本生え、即座に姿を変える。
それぞれ樹木から、木の巨人へと―――イベリス目掛けて、二体同時に拳を振るった。
互いの巨大な拳がぶつかり合い、衝撃波が広がる。
イベリスを押しつぶす様に合わさった箇所を擦り合わせると、ゆっくりと拳を引く―――そのとき、巨人の腕が二体同時に発火した。
炎の魔力は紛れなく、マリーの放つ紅炎と同じものである。
「炎呑―――解」
左手に法防の魔剣、右手に炎呑の魔剣。
どう防御し、どう脱出したかは、推理するまでもなく明らかであった。
「少し長引くかな………………」
落下しながら呟くイベリス―――地上へ目を向けると、既に魔物の大半は討伐されていた。
それもその筈、ここは王都である。
騎士や冒険者の数と質は他の街とは比べ物にならず―――中途半端な魔物では、場合によっては死傷者すら出ない。
「空傷の魔剣―――ほら、追加だよ!」
落ちる中、新たに出した魔剣で空振る―――すると、空間に切れ目が。
そこから新たに、無数の魔物が溢れ出そうとしている。
「させない…………っ!」
「もう戻って来たのかい?」
空間に作った切れ目を、地上より生える氷が封じた。
その氷を駆け上って来た秋臥が落下し続けるイベリスへ向かい、蒼燕剣を回転させながら跳び降りる。
「随分と急いで駆け回ったね―――でも、まだ君じゃあ役不足だよ」
蒼燕剣で仕掛ける秋臥を蹴り飛ばし、今度こそ空中での体勢を整える。
――――――だがその秋臥へと向けた一瞬が、獣の接近を許した。
「気ぃ、抜いてんじゃねえッ!!!」
「法防の―――ッ!」
今度は魔剣による防御すら間に合わず、威力そのままでファンデルの拳を受けた。
魔物の襲撃に荒れる街中へ真っ直ぐ殴り飛ばされたイベリスは、五つの民家をクッションとして漸く勢いを殺すと回帰の魔剣で体を斬り、今の一撃により肉が弾け、臓腑の露出した体を回復させる。
「魔力の壁がまるで意味をなさないとはね…………」
独り言を溢す―――市民の避難は既に住んでおり、皆地下都市へと逃げ込んだ後。
これにより市街地も、戦場と化す。
「―――もう、手加減は不要ね」
箒に乗って、マリーが城より降りて来る。
彼女は普段と変わらずどこか眠そうな顔をしながら、静かに人差し指を立てて見せる。
指先には、小さな水滴が浮かんでいた。
「―――島呑み」
言うと同時に、水滴が増大。
巨大な波となり、王都の街ごとイベリスを呑み込んだ。
「―――疾風神雷」
雷が降り注ぐ―――止まず、止まず、波の広がる範囲全てに満遍なく降り注ぐ。
「―――一この中でも狙えるわよね? ベティー」
「ああ、勿論さ」
遅れて城より降りて来たベネティクトが、ただ一発撃つ。
魔力弾は一見普通―――だが空中にて散開。
弾けて広がり、弾丸から細かな粒子へと姿を変えた。
「マリーちゃん―――これも男の子の浪漫の一つだとは思わないかい?」
「どうでもいいけど、もう帰って寝たいわ…………」
粒子のうち一つが地面へと着弾した瞬間、爆発―――他の粒子も連鎖爆発を起こし、雷に勝るとも劣らん爆音を鳴らして広範囲に響いた。
程なくして雷を止ませて、水は街の外へと流す。
イベリスの姿はどこにもなく、死体すら残らず消し炭になったと判断された。
(更新状況とか)
@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)




