再来の襲撃者
城のホールに世界中より集まった、三千人の招待客―――クロニクルに属する百四十国の王や大臣や、エルフ同様世界政府の庇護下に含まれる各種属の代表達。
それらの視線はホールの中心に居る、白い隊服を着た七人に寄せられていた。
聖七冠―――クロニクルの管理する組織の一つ、冒険者ギルド。
それらの頂点であり、この世界の守護者たる七人が、一堂に会しているのである。
第七位、聖女―――セリシア。
この世界最大の宗教組織であるトラオムにより正式に聖女認定された二十一の女であり、秋臥達とも顔見知りの中。
異世界の存在もラジェリス直々に伝えられている、秋臥達の理解者である。
第六位、守護者―――ドラグ。
高さ二メートルを超える全身に褐色の鱗を纏った竜人であり、土竜の力で作り出す防壁は隕石の直撃ですら傷一つ付かずに人々を護り抜く。
第五位、星墜―――ベネティクト・カマンガー。
人と有翼人のハーフであり、翼は無く、鳥特有の超視力だけを受け継いだ存在。
その視力と、魔力によって底上げされた五感を用いて、武器の性能と遮蔽物の量によっては十キロメートル先の敵を瞬時に撃ち抜く技術を持つ。
第四位、拳王―――フェンデル・デンリッヒ。
筋骨隆々の姿からは想像もつかぬ元奴隷であり、獣人の男。
奴隷時代、見せ物として入れられたコロシアムにて己が拳のみを武器とし十年間無敗のチャンピョンであった。
第三位、冥王―――メイス。
代々墓守を務める一族の十代目当主である、陰気な男。
未だ十代でありながら、千を超える死霊を操り死霊術師の頂点に立つ者。
第二位、魔導王―――マリー・ジェムエル。
十八歳の根暗な女であり、世界最高峰の魔術師。
一度目にした魔法を完全再現出来るという固有魔法を持ち、冒険者登録から聖七冠加入までの最速記録を保持している。
第一位、剣聖―――ルーク・セクトプリム。
先代剣聖よりこの座を受け継ぎ、他聖七冠からも特出した力を持つ男。
まともに相手取るならば世界の総戦力を用意しろとまで言われる、文句なしの怪物である。
ホールの中心に用意された舞台を背後に立つルークを面として、他六人は左右に列を成す―――その中には赤いカーペットが引かれており、世界に於いて最も安全な一本道となっている。
「始まりますね」
「ああ、もう来る」
来賓達に混じり立つ秋臥と香菜が、ホールの入り口に目を向ける。
少し奥から、メリュジーナがやって来た―――純白のドレスに身を包み、厳かな雰囲気を広めながら。
姿が見え始めると同時、ホールに配置されたクロニクルのオーケストラが演奏を開始。
穏やかな曲調である。
メリュジーナは聖七冠に左右囲まれたレッドカーペットを歩み、ルークの前で停止。
次に現れたのは、メリュジーナと似た白いドレスに身を包むエルフの族長―――サレン・メノスティアだ。
その幼い容姿と金色の髪に純白の衣装と、妖精に見紛う姿で歩を進めメリュジーナの真横に並ぶ。
二人を目の前にしたルークは一度礼をすると、回れ右して舞台の方を向く。
それから静かな歩みで舞台上への短い階段を登り始め、メリュジーナとサレンも後続。
舞台の中心に着くと三人それぞれ向き合うように立ち、儀式を開始する。
「我が刃の元―――永劫の別懇を誓うのならば、その証を示したまえ」
言い、ルークは腰の剣を―――代々剣聖に受け継がれ、神剣とまで言われる剣を抜く。
それを片手で真っ直ぐに構えると、他二人がその上で手を重ねる。
それから重ねた手を真下の剣に乗せると、素手で剥き出しの刃を包む。
神剣は刃に触れた者が行使、或いは纏う魔法の一切を消滅させる特性を持つ―――つまり、今の二人は防御の魔法を持たずに、魔法攻撃すら叶わぬ無力な状態。
「今この瞬間よりエルフ族のクロニクルとし、世界を平和へと導くかけがえのない一員と見なす―――我ら同胞として、苦あれば救い楽あれば分かち合い、共により良き明日を目指そう」
ルークが宣言すると、オーケストラの曲調は穏やかなものから明るいものへと―――そして儀式を見守る者たちは、一斉に拍手を送った。
メリュジーナとサレンは剣から手を外し、舞台の外へ揃って礼を。
ルークも納剣してから礼をし、これにて儀式も終了。
そう思い、ホールを護る騎士達が安心したとほぼ同時であった―――聖七冠のマリーが、上空より飛来する魔力を察知した。
「―――紅炎」
マリーが呟くと、ルーク、メリュジーナ、サレンの居る舞台が炎に包まれた。
そして、天井を突き破り攻撃―――超高密度の魔力が、光の柱の様な姿で降り注いだのだ。
「ベティー」
「任せなさい」
マリーからバトンタッチする様に、ベネティクトが応え舞台側へ。
光が止むと、天井に空いた穴から遥か上空に居る敵に向かい、リボルバーを構え発砲する。
その間ドラグが、壁や床の形状を変化させて来賓達の避難経路を確保―――避難には冥王メイスと守護者ドラグが付き添う。
「マリーちゃん、フェンデル、僕の三人で応戦―――来賓の避難時間確保と、女王達を護るよ」
「ええ」
「応ッ!」
ルークは、紅炎によって包まれた舞台の中。
もしもの場合に備え、メリュジーナとサレンの護衛である。
「手伝います」
「おお、秋臥くんかい―――これは頼りになる戦力だ。君は外を頼む」
「了解!」
香菜を他の来賓達と行かせた後、秋臥はベネティクトの指揮に従い天井に空いた大穴より外へ。
目にした光景は、地獄であった。
「ッ…………王都中に魔物が広まってる!」
多く魔力を込めた氷の杭を二十個生成―――それを王都中に等間隔で飛ばし、一秒に一回魔力を放つレーダーの様にする。
「まずは、魔物の密集地からっ…………!」
王都の中で、最も人と魔物の多い地点へ向かい跳ぶ―――敵は雑魚のゴブリンから、竜種まで勢揃いだ。
「あらら、行っちゃったか」
上空により、秋臥を見送る男が一人―――事前に王都全体が警戒していた存在、イベリスである。
(更新状況とか)
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