死神
この話が投稿されていると言うことは、私はもう起きてはいないでしょう。
「そこ、踏み込みが深過ぎるよ。常に半歩即座に引ける体制を保って―――そうすれば敵の渾身の一撃を浅傷で済ませられる。貴方は逆に慎重すぎる。もう少し思い切って一歩―――見た所咄嗟の動きは悪くないから、もう少し展開に身を任せてもいい」
秋臥が騎士達の動きを見て回る。
一対一で手合わせをさせて、その動きを一々指摘―――ちょっとした癖や身につけた常套というのは素振りではなく、戦いの中に見えるからだ。
「歳の割に、随分と手慣れているな」
暫く様子を見ていたベディヴィアが言う。
事実教える秋臥は肩の力が抜けて、騎士達の動きがよく見えている。
細かな欠点を見逃さず、丁寧な教育だ。
「昔百人程度でしたが、教える仕事をしていまして―――要領を少しずつ思い出してる所ですよ」
「経験者か。何を教えていたんだ?」
「武と暴と律です―――大型はここと変わりませんよ。ただ、もう少し厳しかった」
「厳しい…………ここよりか?」
「………………まあ、そうですね。ここにはここの規則やしきたりなんかがあるでしょうから深く首は突っ込みませんが、もしあの教室を完全再現するならば…………現状は、怠慢と言わざるを得ないでしょう」
それを聞いたベディヴィアが、ぴくりと眉を動かす。
なんとも聞き捨てならない事を耳に入れてしまったのだ―――自身の育てるこの騎士達を、目の前の歳二十にも見たぬ少年が怠慢と言って退けた。
それはこの国全ての命を背負う騎士団長としては衝撃であり、屈辱の言葉なのだから。
「お前ならば、騎士達をどう育てる?」
「剣になんの細工もしないなど認めないでしょう。紐なんかで腕と繋いで、仮に手を離してしまった刹那で敵を斬れる―――出来ずとも、目隠し程度にと、無駄な一瞬を作らぬ様に仕込みます」
「確かに、この場所には合わぬな。剣は騎士の誇り―――それに細工など、断じて許されたものではない………………どうした、不満そうな顔だな」
「僕が思うに、剣は所詮剣です。敵を斬る道具に過ぎない―――誇りを国とし民としてはいけないのか。そのために、剣を剣に過ぎぬと割り切れぬものかと思ってしまうのです」
「………………それも、一理あるのだろう」
納得した様に言う。
秋臥の言葉に対する怒りなどは無く、あくまで正論として受け止めて。
「騎士とて人間―――心があり、国を護る道具に徹し切れぬと言うのが不服ながら現実だ。人が人のためにと命を賭すというのは、並の話ではない―――それを職務として常日頃となれば、その苦はいずれ身を滅ぼすだろう」
腰の剣に手を当てる―――鞘に施された国花ラトシアの金細工は、騎士団長の証。
一身に国を背負う、重圧の証である。
「我々騎士が剣に持つのは誇り―――そして、依存だ。常に誇りを側に起き、人のためでは無く己が誇りのために民を護る。そう思い込んでいるのだ。それを汚してしまえば、心はたちまち崩れるだろう」
「まあ、分からないわけではありません―――もし良ければ剣に手を出さず、他を少し足しても?」
「他…………? 何をするつもりだ」
「ここの人達は皆、律儀が過ぎる―――だから少し、枷を外そうかと」
⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘
王都にて、妙な噂が流れていた―――死神が現れたと。
既に金級が一人やられており、かろうじて五体満足であるものの全身に酷い凍傷を負った。
街の西北部でも死神にやられたであろう十人の死体が見つかっており、内一人は生きて捕らえられた後、腹部に開いた傷からじわじわと血が流れ死んでいったとされ、他九人は即死。
現状大勢の冒険者が自主的に操作を進め、己が死神の討伐者にならんとしている。
死神の正体については様々な説が錯綜しており、新手の魔物説や犯罪ギルドの荒くれ者説。
中では無名の冠級冒険者説まである。
その正体は、金級冒険者がやられた際にその現場に居合わせた者達と、ギルド上澄み―――聖七冠の面々のみぞ知る。
実際にその死神の姿を見ていた者達は真実を発したが、その声は現状を面白がる者達によって踏み潰された。
事が起きて僅か数日にも関わらず、話題は嵐の様に王都を飲み込んだ。
最近生活リズム整い過ぎてキモい
(更新状況とか)
@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)




