王
「では身分証の提出を………………おっと、これはこれは、金の冒険者様でしたか! あとは…………奥に縛られている者は?」
王都の入場審査にて、門番が尋ねた。
上半身は裸に白衣、下半身は剥き出しの蛇。
そんな異様な風貌の女が縛られているのだ―――気になるのも無理はない。
「野盗です。少々名のある者らしいのでね、生け取りににして陛下への手土産にでもしようかと」
「陛下へ…………? 金の冒険者様とはいえ、陛下への面会というのは難しいと思われますが。もしよければ私から騎士団に送りましょうか?」
「いえ、このあと面会の約束があるのでね」
言うと秋臥は、式典への招待状を門番へと見せる。
門番は目を丸めて驚く―――五日後の式典にて、招待されるのは各国の要人達が殆ど。
金級とはいえ、一般の冒険者が立ち入れる場ではないのだから。
「これは、失礼しましたっ! どうぞお入りください…………っ!」
門番はそそくさと道を開け、秋臥達の荷馬車を通す。
二人が目指すのは、まず王城―――無事到着の知らせをした後、王との面会。
それまで寄り道は無しだ。
「王都ともなると、道が広いですね……っ!」
「ああ。それに並ぶ店も中々だよ。窓は向こうと同じぐらい透明なガラスだし、一軒一軒が大きい。後で時間を見つけて服でも買いに行こうか」
「それは良いアイディアですね。いくら神様の力で便利だとはいえ、この服ばかりというのでは飽きてしまいます」
グリフォンに引かせる荷馬車というのは、街中でもそれなりに注目を集めた。
だが二人はそれも気にせず、王都の街並みを楽しみながら進行―――道も平らで、木のタイヤである荷馬車すら揺れが少ない。
暫く移動して、王城へと到着。
しっかりとした美を纏う造形でありながら、敵襲などを意識した戦闘形態。
この世界が未だ武によって構成された地なのだと再確認させられる様な、そんな城であった。
「こんにちは。式典に招待していただき参りました」
「それはそれは、遠路はるばる良くいらしてくださいました。招待状の提出をお願いします」
「これですね」
王城の衛兵に招待状を見せると、それを確認して返却。
それから腰に付けられた魔石へと魔力を送ると、荷馬車の背後へ回った。
「陛下がお待ちです。馬車の方はこちらで格納しておきますので、お降りください」
「はい、えっと………………これ、どうしたら良いですか?」
「これ…………そちらの女性は捕虜でしょうか?」
「ええ。ナンバーズのNo.2―――メピュラスと名乗っていました。道中襲われたので確保しました」
「ナンバーズ…………?! し、少々お待ちをっ!」
言うと、衛兵は城の中へと駆け込んで行った。
それから五分も待たず、城の中で騒ぎが始まる。
国際指名手配組織ナンバーズの幹部、メピュラスが捕虜として届けられたと。
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「お騒がせしてしまい申し訳ない―――なんせ、今までは影すら踏めなかった相手なものでね。どうか許してほしい」
「いえいえ、お気になさらず。それよりこれから僕たちはどうすれば?」
「それに関しては私がご案内を…………いや、先に自己紹介を済ませようか」
衛兵達がメピュラスを城内の収容所へと運ぶ他所で、銀に輝く鎧を纏った騎士が言う。
鋭い目つきと栗色の毛髪―――どこか威厳の漂う男だ。
「私はベディヴィア・ハーシュマイン―――この国で、国軍騎士団長を務めている者だ。宜しく頼むよ」
「騎士団長様ですか…………それは、随分と立派な方にご案内していただける様ですね」
微笑み、香菜が言った。
ベディヴィアは浅く礼をすると、ではと言い城の方を向いて歩き出す。
二人もそれについて行き、城内に足を立ち入れた。
「僕達は、どこに向かってるんですか…………?」
「陛下はお庭に降りてこられ、そこでの面会をお望みだ。歩いて五分もかからない距離なのだが、長旅で疲れているであろうところには悪いな。少しの辛抱を許してほしい」
「いえ、そんな事は」
城内を進んで行くと、そこには見事な庭園が。
硝子の花で彩られた緑のトンネルを通り抜け、出た先は薔薇の園。
その中心にあるガゼボに、彼女は居た―――側にメイドを三人、騎士を五人置いて茶を飲む女性。
秋臥達を呼び出した、張本人が。
「あら、いらっしゃったのね―――冥国よりやって来た英雄、加臥秋臥と巴山香菜。式典の前にお会いしておきたかったの。会えて嬉しいわ」
「こちらこそ、お目に掛かれて光栄です―――女王陛下」
秋臥は片方の膝と拳を地面についた形で言った。
香菜も同じ様な体制で頭を下げる。
彼女の名はメリュジーナ・ヴァン・サレスティア。
この国のトップ、女王である。
キメラアント編読み終わりました。
(更新状況とか)
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