従魔
「こちらが従魔登録ですね。半年に一度の診断をお忘れなく、しっかり手綱を握った行動を心掛けてください!」
「はい、ありがとうございます」
魔物の体に居場所発見用の魔石を埋め込み、その対となる魔石二つをそれぞれ、ギルドと従魔の持ち主が保持。
晴れてギルドの監視下というわけだ。
「グリフォン…………なんか、固有名詞とかある? 名前を種族で呼び続けるのも悪いし」
「名―――以前の主には、グリフォンと名乗ったのでそのまま呼ばれていた。この際だ、名を付けてはくれぬか?」
「じゃあ考えてみるよ」
即興では悪いと、話は一度持ち帰る事に。
魔物の体は随分と便利に出来ている様で、息を吸っているだけで空中に漂う魔力を吸収して傷が治るそう。
先程秋臥が作った傷口も既に血は止まっており、肉が絞まり治癒し始めている。
グリフォン曰く、完治するまでには一晩程度で充分らしい。
「お帰りなさい、秋臥―――こちらの鳥………………猫………………? ペット? ふわふわですね」
玄関先、帰宅を感じ取って出迎えに来た香菜が疑問符を浮かべて言う。
グリフォンの噂や存在自体は知っているが、実物を見たのは当然初めてなのだ。
「この前言ってたグリフォンだよ。流れで従魔になってもらったんだ―――香菜の長距離移動なんかで助けになってくれると思ってね。馬車なんかも引いてくれるって」
「馬車ですか、それはいいですね。移動中馬を襲われるなんて事もあるらしいですがこの子なら大丈夫でしょうし」
香菜がグリフォンの足を触りながら言う。
筋肉質で、軽く放った蹴りでも魔力を纏っていなければ人の身が弾け飛ぶ様な力を秘めた足―――並の胆力では、近づくのも恐れるだろう。
「主よ、この女性は…………?」
「香菜、僕の彼女だよ」
「彼女…………妻君ということか。ならば二人目の主という認識で良いのであるか?」
「ああ。というか、基本的には僕よりも香菜についてて欲しいんだ。頼める?」
「無論だ」
応えると、グリフォンは香菜の真横へ移動する。
それから身を伏すと、何かを待つ様に目を閉じた。
「水浴びはしている、不潔ではない筈だ」
「乗ってみてってさ」
「良いのですか? それでは失礼します…………」
香菜がグリフォンの背へと飛び乗ると、毛は柔らかくその奥の肉はしっかりと引き締まって。
質の良いソファーの様な座り心地であった。
座る位置が安定した事を確認すると、グリフォンはゆっくりと立ち上がって羽ばたき、空中への上昇を開始。
それに合わせて秋臥も自身の足元に氷の円盤を作ると、それを浮かせて上昇する。
「グリフォン、この塀の内側だけでお願いね」
「了解した―――妻君よ、しっかり背に捕まっていて欲しい。どれ程の速度を出して良いのか、試したいのだ」
「ええ、分かりました。痛かったら言ってくださいね」
地上から十メートル程の高さに至ると、グリフォンはゆっくりと移動を開始。
意外にも、背に風は無かった―――車の中に居るような、景色だけが移動している感覚である。
「快適ですね………………」
「風除けの魔法だ―――私の眼前に風の膜を作り、背には風を通さない」
少しずつ加速―――揺れが少ないようにと注意しながらの飛行だが、速度を増すにつれ、推進力によって安定感が増し始める。
敷地から出ないようにと大きく曲がる際の減速では背の香菜にも若干の負担がかかるものの、それでもまだ快適と言い張れるレベルだ。
「グリフォンさん、鞍を発注したら着けて貰えますか?」
「少しでも快適になるならば着けよう。その程度で動きの鈍る私では無い」
二人の様子を氷の円盤で並走しながら見ていた秋臥が、少し距離を取る。
今日だけで三十キロメートルの距離を身体強化をした状態で走り抜け、その後グリフォンと戦闘。
帰りも傷を負っているグリフォンに乗る事は無く身体強化のみで走り抜け、今も氷の円盤で飛び回った。
そろそろ魔力が、戦闘に支障が出る量を下回ってしまうのだ。
地上に降り立つと、庭の椅子に腰掛けて空を見上げる。
そこでは減速したグリフォンの背から香菜が手を振っていた。
秋臥も手を振り返す。
午前中の戦闘が嘘のような、和やかな時間―――秋臥は少し辺りを探してメイドを見つけると、自分と香菜の分の飲み物を頼む。
グリフォンは何を飲むのだろうと考えながら、ただ空を眺めていた。
時折日常回が欲しくなる。
私の悪い癖
(更新状況とか)
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