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空獅子

 グリフォン、最低でも十体以上の群れで行動する魔物。

 鷲の頭と獅子の体を持つ巨大生物であり、人間の元に姿を表すのは極めて稀。

 そのケースのほとんどは群れから逸れた、或いは追放された不適合者か、意図して人を襲う凶暴な個体。

 今回の依頼にあるグリフォンも例に漏れず単体の発見であり、場所も街からそう遠くない。


 秋臥はグリフォンを対魔物―――人型以外の並外れた力を持つ敵との戦闘に対する際の鍛錬相手にと選んだのだ。


 討伐依頼を達成すれば、金級以上の縛りもあって報酬も多い。

 生活の足しにすれば、また暫くは安定して暮らせる程度はあるのだ。


 秋臥がやって来た場所は、街から三十キロメートル程度離れた地点にある岩山。

 ここに群生している、薬となるキノコを取りに来た若く、正義感の強い冒険者が偶然グリフォンを発見し、ギルドに討伐依頼の申請を自らしたのだという。



「グリフォン、早速発見かな…………」



 秋臥は岩山の中間地点から、少し先の地点を見上げる。

 百メートル程離れた位置、特に大きな岩の上―――その魔物は立っていた


 魔力を多く含んだ生物を好んで捕食し、確認されているだけでも年間四千人以上の人類を殺している。

 頭は鷲で、体は獅子―――その鋭い眼光は、既に秋臥の存在を捕らえていた。



「「魔弓(まきゅう)青羽将(あおばしょう)――――――」



 以前失敗した、その技の名を唱える―――香菜の作った糸を弦として、しなる氷の矢を形成。

 今回は思いつきではない。

 あれからしっかりと形成の練習をして、そのフォルムを滑らかに―――実際の弓矢にも触れ続け、解像度を高く。


 その甲斐あって出来上がったのは、シンプルな見た目の歴とした、弓であった。


 同じく氷で一本の矢を形成すると、弓にセット。

 指先から魔力を込めながら弦を引く。



「すまないが、狩らせてもらう………………」



 弦が弾けるような音を鳴らして、矢射ち出した。

 だが直撃の瞬間―――グリフォンは飛翔。

 その獅子の体に生えた翼で、宙を飛んで見せたのだ。



「グリフォンだし、そりゃ飛ぶか………………もう一回…………!」



 今度は矢を三本作り出し、弓にセット。

 またも魔力を込めながら弦を引き射ち出すが、結果は空中で回避されるだけ―――そう変わる事もなかった。



「っ…………仕方ない」



 氷の弓を投げ捨てる。

 代わりに氷で、特殊な剣を作り出した―――二つ、巨大な鏃を組み合わせたような両剣の薙刀。



「――――――蒼燕剣(そうえんけん )っ!」



 名を唱え、魔法で作り出した形だけの剣に確かな魔力を込める。

 その蒼燕剣に込められた魔力に誘われて、グリフォンも目の色を変えた―――回避に飛翔した位置から更に上空へと羽ばたき移動すると、自身の爪に魔力を込める。


 グリフォンの最も有名とされる攻撃手段の一つは、単純な突撃攻撃だ。

 その、魔力で鉄以上に強化された爪を持ってして、車両以上の体重で敵へと突っ込むのだ。

 基本的に標的となってしまった者は、見るも無惨な結末を迎え、グリフォンの嘴で死骸を啄まれる事となるだろう。


 だが、今回は違った―――グリフォンが突撃を開始―――天翔るペガサスの様な体制で、爪を構えた状態。


 秋臥は蒼燕剣の中心、柄の部分を持ち回転させる―――互いに離れた刃による遠心力もあって、回転は加速。


 遠心力によって生まれた高速の回転はやがて重さを帯び、破壊力を帯びる。


 それを完璧なタイミング、角度、力で、グリフォンの爪に当てたならば、攻撃の停止もおかしくはない。


 それどころか、前足の爪にヒビを入れてしまおうと―――決して、おかしくはないのだ。



「重いな………………」



 秋臥は呟く。

 攻撃は止めたが、完全に威力を殺したわけではなく―――突撃を受けた秋臥は、元居た位置より十メートル程踏ん張りながらの後退を強いられた。


 蒼燕剣を回転させてグリフォンを弾き、一度距離を作る。

 それから再度遠心力を利用して回転を加速させ、充分な力を作り出すと、空中にて出方を観察しているグリフォンに向かい歩き出す。


 届く距離ではないものの、一度離した距離を威嚇として詰める。

 敵の次の手を、無理矢理にでも引き出す為に。


 咆哮―――グリフォンが、空気の震える様な大音量で声を上げた。

 そして、一度大きく羽ばたき。

 強烈な風が吹き荒れると同時に、爪同様魔力で強化した羽根を飛ばした。


 だが露払い―――回転する蒼燕剣によって容易く弾かれると、グリフォンが僅かに目を細める。


 今の羽ばたきの目的は、羽根を飛ばす事だけではない―――それで仕留められなかった場合に使う攻撃の布石。

 やる事は、初手と大して変わらない。

 単純に助走距離を伸ばし、攻撃に使う身体の箇所を変えただけ。


 爪から、嘴へ―――その硬度は、魔力の強化なくしてダイヤモンドに匹敵するとされ、貴族達の間では高値で取引されている。


 ならば何故それを最初から使わないのか―――グリフォンにも、矜持があるからだ。

 その嘴を使うのは、己が餌ではなく脅威として認めた敵に対してのみ。


 対等とした敵にのみ、その嘴を武器と使うのだ。



「人よ―――一つ頼まれてはくれないか」


「喋れたのか…………話を聞かない限り、頷けやしないよ」


「ああ、そうだろう―――今より放つ渾身の一撃、もし耐え抜いたならば、私の主となりこの身使ってくれぬか?」


「主? そうだな………………受けてから決めるよ」



 秋臥は少し考えてから応えた。

 蒼燕剣の回転を止める事は無く、先程の倍は力を溜めている―――グリフォンも魔力を爪だでは無く、羽ばたく翼にまで込めた。


 示し合わせた様に、互いの準備が完全に整った瞬間突撃を開始―――翼に込められた魔力により、初速から先ほどまでとは比べ物にならない。

 爪も纏う魔力によりグレーから黒へと変色。

 完全な全力の姿となっている。


 グリフォンの巨体が、約二百メートルの距離を五秒で駆け抜ける。

 秋臥は二度目の後退は許されまいと自身の足を氷で固定して、その場でただ一瞬―――全力の踏ん張りを効かせるために。


 交差―――両名共に己の武器を振るい、自然と時代劇に見る一撃の撃ち合いと同じ様な、背を向け合う姿に。


 秋臥の腕には僅かか擦った程度だが、確かに爪の傷跡が―――そして武器は、刃の直前で折れていた。



「連れて行くよ―――丁度家をもらって、広すぎると思っていたんだ」


「そうか、感謝する。人よ―――いや、主よ。名を聞きたい」


「加臥秋臥。これから、よろしく頼むよ」



 折れた刃は、グリフォンの腹に突き刺さっていた。

 全力の突撃をそらし、秋臥の身を護り、その上で反撃まで果たしたのだ。

 充分に、攻撃を耐え抜いたと言っても過言ではないだろう。

(更新状況とか)

@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)


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