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新居

「君は、今自分の何を鍛えるべきだと考えている?」


「魔法です―――僕はまだ、魔法と素手の組み合わせという戦闘スタイルに馴染みきれていない」



 元々泊まっていた宿屋―――そこで待っていたルークの元を訪ねるや否や訊かれた。


 秋臥は素直に暴露。

 すると疑問を持ったようにルークは首を傾げ、目を瞑って数秒何かを考える。



「秋臥くん、君の接近戦闘の技術は既に一定レベルに達している―――以前戦った君から感じたのは、確かなセンスと努力。そんな君に莫大な魔力まで備わっているとすれば、今まで魔法と武術の組み合わせを鍛えてこなかったとは考え難い―――何故、今なんだい?」


「………………訳あって、最近まで魔法の存在すら知る事のない環境で育って来ました。初めて魔法を使ったのは、この前のゴルシア戦が初めて。それまでは魔力を感じる事も無かった」


「訳あって、ねえ………………」



 この世界では、魔法などあって当然のもの。

 それを知らぬとは、些か信じ難い話であろう。


 異世界の事を話すべきかどうか、秋臥は未だ判断しかねている―――クロニクルという組織から、秋臥を見極めるためやって来たルークにその話をして、良いものなのか。



「………………なら、ベディヴィアさんよりもアリスかな。話を通しておくよ。返事には暫くかかるだろうから、それまでは自身鍛錬に励んでおくれ」


「は………はい………………」



 拍子抜け―――ルークが秋臥の話に何の疑いも持たなかったわけではないというのは、秋臥も分かっている。

 それ故、何かしら突かれると思って身構えていたのだ。


 見逃された、必ず何かある。

 イベリスの様に、何処からか異世界の存在を認知しているのか? などと秋臥は思考した。



「アリス・セプトクリム―――僕の育ての父であり師であり、先代剣聖。強いよ」




 ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘




「うわっ………………前住んでたマンションより広いや」


「流石は王族の別荘ですね。夜に騒いでも周りには気づかれなさそうです」



 案内された家は、街の中心にあるエルモアース邸から一km程離れた位置にある、英国を思わせる様な屋敷。

 正面の門を過ぎて庭を抜け、重厚な木製の扉を鍵で開くと中へ。

 キッチンや浴室などは馬車移動の際に使っていた部屋同様、魔石の存在あって元の世界とも見劣りしない技術力。


 寝室には当然の様にキングサイズのベッドと、真っ白の壁に暖かい色の照明。

 ベッド横のサイドテーブルには別にランプとマッチがあった。



「水道のお水は魔石で空間を繋ぎ、この国でも有名な水源から持って来ているそうですよ」


「何というか、皆んなが想像するお金持ちのお屋敷って感じのところだね…………改めて、凄いところ貰っちゃったな…………」



 二人ベッドに並んで座り、屋敷を見て回った感想を。

 秋臥は改めて唖然としているが、変わらず香菜は平然を保っている。



「そういえばこんなに広いと、掃除が大変そうだね…………」


「来週から王都より、侍女の方が五人やって来るそうですよ。なんでも元々は王宮遣えだった方で、屋敷と共に貸してくれるんだとか」


「その話初耳なんだけど…………お給料とかどうしたもんかな…………」


「貸し出しなので、王宮の出費だそうです。秋臥がルークさんと話している間に聞いた話なんですよ」



 自身の思っていたよりも、エルフ族クロニクル加入の功績が重い。

 今度王都に呼ばれる際、何か礼をした方が良いのだろうかなどと考えていると、香菜が時計を見て立ち上がる―――時計は、六時を指していた。



「夕食にしましょう―――台所に暫くの食材を補充しておいてくださったようですよ」


「至れり尽くせりだね」



 キッチンへ向かうと、二人で料理を。

 久々に宿の女将が作った食事でも屋台で買った食事でもなく、互いの手作り料理を食べ、その後は広い風呂に一緒に入り。

 そして寝室で暫く時間が経ってから眠りについた。


 秋臥は慣れない屋敷に緊張して暫く目が冴えていたが、香菜の入眠から四十分程過ぎた頃に遅れて入眠。

 その頃には眠気もあってか、緊張などすっかり忘れていた。




 ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘




「やぁやぁ、主席様が帰ったよ」



 王都、冒険者ギルド本部―――その最上階に位置する普段は鍵のかけられた八つの席が用意された部屋で、ルークの帰還により全ての席が埋まった。


 部屋の通称は、天八星(オクタグラム)―――聖七冠(セブンクラウン)と、それを束ねるクロニクルの総裁のみが立ち入りを許されている。



「さて、ルークも到着した事だ―――今回の報告会を始めようか」



 言った男の名は、ルーベルト・ドリファス。

 毎度この会議の進行を務める屈強な老男であり、クロニクルの総裁。

 この世界で最大の権力を持つ男だ。



「ルーク、今回の報告を」


「では、失礼して―――」



 言って立ち上がるルークに視線が集まる。

 充分に集中を惹きつけると、一度ルーベルトへ会釈をしてから話を始める。



「まず結論を述べるが加臥秋臥、巴山香菜―――両名異世界からの来訪者と見て間違いはないだろう」


「………………やはりか」



 誰もが興味深いと思いながらも無言を貫く中、ルーベルトだけが反応を示す。

 両目を閉じたまま、僅かに険しい表情で。



「エルフの女王、サレンからの報告にもあったと思うが、両名冒険者で言えば(ゴールド)級の実力にも匹敵―――秋臥くんの方は現状(ゴールド)の中でも上位。魔法の扱いに慣れれば、(クラウン)級にも届き得るだろう」


「おい最優さん、冗談だろ? 別世界ってのはルーベルトさんの話じゃあ、争いも探さなきゃ見つかんねえ様な平和な場所だろ? そんな場所で生きて来た奴が、俺たちに届くだと?」


「ああ、その通りだ」



 ルークの言葉に突っかかったのは、聖七冠(セブンクラウン)四位―――拳王、フェンデル・デンリッヒ。

 筋骨隆々大柄の、獣人の男だ。



「彼の戦いの一部始終を、エルフの森に飛ばした目で見たが凄いものだったよ―――掌に魔力を込めて、敵の急所へ的確に叩き込み、長距離の敵へは氷のナイフを同時に二十本ずつ発射。広範囲への攻撃なら、自身を中心に直径一km程、蓮の花の様な形で氷を生み出していたよ」


「………………デタラメじゃねえのか?」


「じゃあ見るかい?」



 フェンデルの言葉に、ルークは一つの魔道具を取り出す。

 (あま)龍目(りゅうがん)―――空に浮かせ、纏う魔力や存在感の一切を消し去った上で対処の様子を録画、公開する事の出来る魔道具だ。


 要は、高性能のカメラとプロジェクターを合体させた様な物。



「再生、前回と同じ位置からで頼むよ」



 自動で浮遊する天の龍目に対してルークが言うと、目の部分から光が放たれ、向かう壁に映像を表情。

 映し出されたのは、エルフの森での秋臥の戦いだ。



「あらら、尋常じゃあないねえ―――これ僕あたり負けちゃうんじゃない?」


「ベティー、貴方が負けるの…………? 実力だけは認めていたのだけれど残念ね」


「マリーちゃん、僕の事認めててくれたの?! じゃあまだ、若い頃には負けるわけには行かないねえ」



 聖七冠(セブンクラウン)二位―――魔導王、マリー・ジェムエル。

 同じく聖七冠(セブンクラウン)の五位―――星墜(せいつい)、ベネティクト・カマンガー。



 二人はあまり驚いていないのか、平然とした様子で言葉を交わす。



「っと、おや? 端に映ってるかわい子ちゃんは…………僕の愛弟子じゃないかい?」



 そう言ってベネティクトが注目したのは茶髪のエルフ、リーニャだ。

 彼は過去、五年に渡りリーニャに銃の扱いを教えていた過去がある。


 使う武器の詳細は違えどそれが銃ならば、それが銃火器だろうが、魔道具の銃だろうが、例外無くベネティクトは名人。

 その話を聞きつけたリーニャが、師事を頼んだのだ。



「リーニャちゃんが戦場を共にするなら、僕は彼らを―――異世界からの客人達を信頼するよ。あの子は少し頭が弱いけれど、人を見る目はあるからね」



 満足した様な顔でベネティクトは言った。

 それとほぼ同じくして、映像は終了―――自動で手元まで戻った天の龍目を仕舞うと、ルークは再度着席。

 入れ替わる様に、ルーベルトが立ち上がった。



「現状手元にある情報は、今ので全てだ。決を取る―――現状彼等を危険分子とするものは挙手を」



 その言葉から五秒ほど待つが、手を挙げるものは皆無。

 全員が今の二人を、安全―――或いは、恐るるに足りぬ存在として判断した。


 この日はこれで解散―――何事もなく、会議は終えられた。

(更新状況とか)

@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)


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