帰還
コロナ、治ってきた!!!
「ごめんなさいね、本来大々的に見送りたいのだけれど…………この後来客の用事が出来てしまって」
「いえ、お構いなく―――族長自ら御足労いただいたんです、これ以上を望むだなんてしませんよ」
本日帰路へ着く―――香菜は未だ目を覚ましてはいないが、肉体の回復はサレンの生命魔法による傷を負う前までの若返りで一切が完治。
若返りの代償として増幅した疲労によって目は覚ましていないが、それも時間の問題だ。
「リリス、また森をよろしくお願いしますよっ! 私もこれからはたまに見に来ますので、次来るときには貴女の家に泊めてくださいねっ!」
「ああ、姉々がいつでも来れる様に客間を用意しておこう」
言われたリーニャは嬉しそうに、リリスへと抱きつく。
「姉々っ?! よしてくれ、族長や秋臥が見ているっ…………!」
「良いではないですか〜っ! 全く、リリスの恥ずかしがりは昔から変わりませんねっ!」
残念がりながらもリーニャが離れると、一つ咳払いをして仕切り直す様にしてから、秋臥の方へと。
手を伸ばせば届く距離まで行くと、片膝をついて深く頭を下げた。
「この度の戦いへの御尽力に感謝する―――それと同時に、これまでの無礼全てに詫びよう。貴殿にはサレン様に対してのものと同等の、最大限の敬意を払いたい。この森を、全てのエルフを救ってくれた事―――そして戦時、愚かな私を叱り見本を示してくれた事に対する恩は決して忘れぬぞ…………!!!」
「なら僕達で護り救ったこの森を、きっと強い国としてくれ―――僕もいつかまた来る。そのとき、強い国を見せてくれ」
「ああ、必ずッ!」
片膝を着き同じ方向の右手を胸に添えるエルフ族の最敬礼。
それをリリスが初めて、サレン以外に向けた。
エルフの歴史上、過去これを人間に行った例は一度たりともない。
異例であり、偉業である―――人とエルフの間にある大きな遺恨を埋める、歴史の一歩である。
⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘
「んっ、ここは………………」
「森を出て馬車の中だよ―――おはよう、香菜」
馬車で走り出して二日―――ようやく香菜が目を覚ました。
起き上がるまでの動きを見て倦怠感こそある様だが、身体機能に異常は無いと感じた秋臥はベッド傍の席を立ち上がる。
「スープを作ってあるんだ、今温めて持ってくるよ」
「すみません…………ありがとうございます」
「いいよ、待ってて」
言うと秋臥は部屋から出て行った―――そして数秒後、騒がしい足音と共に扉が開く。
リーニャだ。
「起きましたねっ、香菜ちゃんっ!」
「………………おはよう、ございます?」
寝起き直後に対しては高すぎるテンションと、抱き付かれた事に戸惑いつつ挨拶を。
室内にかけられた時計を見ると針は十二時丁度を指している。
今が昼なのか夜なのかは、部屋の中では分からない。
「ボロボロになってしまって、心配してましたよ………………香菜ちゃん、もう少し自分を労わってあげてください…………自分を大切にしてあげてください…………引いて逃げる事を覚えてください…………本当に、心配したんですから…………っ!」
「どうして、そんなに…………?」
リーニャが泣いていた。
自身の体に適さない力を使い砕けた手や足を、糸で操り無理矢理動かしてまで戦闘を続行していた香菜のために怒り悲しみ。
香菜は、それが分からなかった。
秋臥に叱られるならば分かるのだ―――だが、何故リーニャがそれを言っているのか。
僅かな時間仕事を共にした程度のリーニャが何故それを言うのか。
香菜には、まだ足りぬ言葉がそこにはあった。
「何故って私達、お友達ではありませんか…………っ! 数日ながら共に旅をして共に食事をして、お喋りして共に戦った、お友達ではありませんかっ!」
「お友達、そうなんですね…………そうですか、私達はお友達ですか…………」
友達ーーー同等の相手として親しく交わっている人。友人。
言葉としての意味は無論周知―――されど、実感は初めてであった。
香菜はその言葉を何度も咀嚼して、飲み込む。
自らの知識ではなく、もっと上等な経験として、それを飲み込んだ。
「お友達…………リーニャさん、ご心配をおかけしました」
「ええっ、本当ですよ全く…………っ!」
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エルモアース領、冒険者ギルド二階の一室。
屋敷が建つまでの間この場所を執務室とするラクルスと、もう一人。
「俺としちゃあ有り難えよ―――今のところ街の警備費に銅貨一枚も掛ける必要がねえし、そもそも今の状況が白金貨千枚かけるよりも安全だしよ―――だが、聖女セリシアが帰ってから暫く経ったが剣聖さんよ、テメェはいつ帰んだ?」
「もう少しだよ―――きっと彼は、秋臥くんは僕の力を必要とする。それを少し助けたら、僕は帰るよ」
「助けたら、なァ…………」
訝しむように、ラクルスは言う。
目の前のテーブルに敷かれた一枚の書類を指で叩きながら、視線だけは相手へ。
剣聖―――ルーク・セクトプリムへと向けて。
「聖七冠の一位―――冒険者のトップであり世界最強の生物。テメェ程の人物をクロニクルが、手助け一つのためにここまで長居させるか?」
「何が言いたい?」
ルークの表情には焦りも不安もない。
ただ淡々と返事を返す―――余裕と、少しの好奇心を持って。
「今回の仕事、奴らはやり遂げて帰ってくるだろうよ―――そうすれば俺はクロニクル、ひいてはこの国や世界全体においても上位の発言力を持つ権力者へとなる。エルフのクロニクル加入ってのは、それだけの価値がある功績だからな」
エルフの族長サレンは、世界でも数少ないルークと並んで評価される存在。
それが今までどこの組織にも加入せず、ただ差別され虐げられる同胞を森で護っていた。
これがどれ程に異常な事態か―――差別主義の無能な貴族を抱える国々が、どれ程不安に思っていたか。
計り知れたものではない。
「アイツはこの領地を取り戻してくれた恩人であり、俺のダチだ――――――たとえクロニクルだろうと、もし秋臥を騙し利用するようなマネしやがったらタダじゃァおかねえと上に伝えろッ!!!」
「………………ああ、必ず」
そう言って部屋から立ち上がったルーク―――瞬間、扉が勢い良く開かれた。
「只今戻りました、ラクルス様っ!」
先頭をリーニャとして、秋臥と香菜を連れて三人。
エルフの森より、帰還した。
次回からは新章です。
章の名前は…………保留です。
(更新状況とか)
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