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老い

コロナ、陽性でした。

「糸巻き六条―――針車(はりぐるま )っ!」



 言って放たれた香菜の糸が、針の様な鋭い形を取り的の心臓を貫く。

 針に糸を連想で通す様に何の躊躇いもなく、秋臥に近づく魔物を優先して。



「香菜、自分の防御が疎かだよ」


「すみません…………まだ不慣れなもので」


「いいよ、カバーする」



 香菜の後方から、三匹のゴブリンが迫っていた。

 それを即座に討伐した後言うと、空中に氷のナイフを二十本生成。

 辺り一面に散らばる魔物に向けて、一斉掃射―――それでも敵の数は、一向に減る気配が無い。


 元々魔物達が現れた位置に、現在謎の穴が―――どこに繋がっているのかも分からないソレから、絶え間なく新たな魔物が溢れ出しているのだ。



「魔力の残りは?!」


「私は、まだ余裕があります…………! 秋臥と他の皆様は?」


「まだみんな余裕あるよ。ただ…………長引くとマズイ」



 体力や魔力よりも、この終わりの見えない戦いではメンタルが疲弊する。

 誰か一人の心が折れれば、そこからはドミノ倒し―――絶望が押し寄せ、全滅までが秒読みとなるのだ。



「何か、転機がいる…………」



 そんなことを言っていると秋臥の側を、投げ飛ばされた大岩が通過する。

 大岩のやって来た方向を見ると、そこにはゴブリンに似た巨人、オーガが十体。


 身長五メートル程―――人を容易く食い殺すサイズだ。



「ここは私がやる…………!」



 言うと、大量の魔物達と交戦中であったリリスが飛び出す。

 矢を作り、瞬時にオーガへと標準を定める。



Mels(メルス )Ligeri(ラジェリ )Borm(ボリム )NIer(ニーア )ッ!」



 【Mels(増幅 )】と【Ligeri(穿つ )】と【Borm( 爆発)】の三重命令付与で全てのオーガの頭を破壊。


 魔力の消費が激しく今まで実戦で使う事はなかったが、現在事態は火急―――後先考えるのと同時に、少しでも逆転のきっかけ作りを急ぎたい状況でもあった。



「これでも動揺すら無しか…………魔物共には正気が残っていないのか…………?」


「ええ、多分残っていませんねっ! 群れの中心に炸裂弾を放ってもまるで反応しませんっ!」


「そうか…………姉々、変わらず頼む…………!」


「勿論ですともっ!」



 近くで戦っていたリーニャと軽く会話を交わすと、戦闘続行―――もう一度リリスは、終わりの見えない魔物の群れへと飛び込んでいった。


 どこもかしこも地獄絵図―――積み重なった魔物の死骸を新たな魔物が踏み潰し血が散り、それを被った生きた魔物が次の瞬間には死んでまた新たな死骸と。

 それに一切臆さず、馬鹿の一つ覚えの様に突撃を続ける魔物達は、間違いなく狂気に染まり正気を失っていた―――それを見た秋臥と香菜は、一つ過去を思い出す。


 似た様な人間を、見たことがあると。

 イベリスは何故か、二人がラジェリスに異世界から連れてこられた事を知っていた―――そして、空間を繋ぎ魔物を連れ込む技術がある。


 その二つを加味すれば、二人が辿り着く答えは声に出さずとも一致する―――元居た世界にまで、魔法で影響を及ぼす力がある。



「少し、乱暴しよう…………ッ!」



 秋臥は残る魔力の四分の三を、掌へと圧縮―――地面へ向かい、氷の波として解き放った。


 クレーターが地上に出来たような、衝撃が一目見て分かる形で形成された氷。

 無論香菜やリーニャ、リリスを避けるような形にはなっているが、それ以外の魔物は氷で取り込み、貫き、打ち砕き、一瞬で千から五千まで増えていた魔物達を殲滅した。



「穴も凍らせた………………これでどうだ…………っ」



 大量の魔力使用に体力も大分消耗した秋臥は、少し深い息混じりで様子を伺う―――そして、背筋が凍った。


 穴を中心に氷が砕け始める―――出入り口を塞いでしまったというのに、出来て足止め程度であったというのだ。


 秋臥の脳裏に僅か、諦めの選択肢が浮かぶ―――ここからどうにか、香菜を逃す方法を探し始める。

 まだ氷が完全に砕けるまでに少し時間がかかる。

 ならばその間に残った魔力を身体強化に回して森の外へと皆で逃亡。

 ここにやって来る際使った馬車ならば、大人数でも乗れる―――一度逃げてから、ルークなどこの世界の猛者に救援を要請すればどうとでもなる。


 その考えが脳裏から頭の中心を占めようとした頃―――同じく氷の経過を見ていたリリスが別方向へと視線を向けた。



「解析と分解に時間がかかってしまったわ―――何せ、魔力が使えないだなんて二十万年生きてきて二度しか経験が無いんですもの」


「――――――サレン様っ!」



 巨大樹の最上階から、一人のエルフが空中を歩きながら現れた。


 エルフの族長、サレン・メノスティア―――この世に生まれた初めてのエルフであり、無限の寿命を持つ生物。

 最強のエルフであり、フェンリルと並ぶこの森の守護者であり、この世で聖七冠のマリーと並ぶ魔法の使い手と評される女。


 それが、自力で魔力封じの首輪を破壊して現れたのだ。



「もう終わってしまったのかしら?」



 疑問を唱えたと同時、秋臥の放った氷が砕ける。

 元いた魔物が解放されると同時に、新たな魔物達も穴から現れた―――オーガ百十六体、ベヒモス六十二体、その他竜種がまとめて五十八体と、雑多が千五百三十一体。


 氷で一瞬でも止めた分、詰まっていた魔物が勢いよく放たれた。



「そう、まだなのね―――ならあとは下がっていなさいな」



 サレンの言葉に従い、全員退避―――瞬間、森全体に莫大な魔力が広がる。

 警備として散らばっていたエルフ達を全て避けた上で、今回の戦いで秋臥達全員が消費した魔力総量を遥かに超える、無尽蔵と思えるほどの魔力が。



不可逆の深老い人アブソリュートオールド



 秋臥か連想したのは、ルークの放った目に見えない斬撃。

 穴は突如消滅し、魔物達の全てが一瞬の間も無く骨となった。


 結果だけがそこに置かれたような、全てを完結させる力がそこにはあった。



「終わりね―――これからは戦後処理よ」



 登場から僅か一瞬で、全ての(かた )がついた―――イベリスが宣戦布告前に無力化しておきたい気持ちも分かると思いながらも秋臥は静かに肩の力を抜いて、一つ大きく息を吐いた。

(更新状況とか)

@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)


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