魔剣使い
体温40度の人間が書いた小説です
以前ならばツヴァイヘンダーなど、重くてろくに振り回せたものではなかっただろう。
しかし今は違う―――昔程の戦闘技術や勘、反応速度が残っていない秋臥が、唯一過去に勝る点が身体能力だ。
魔力によって強化された筋力は、身の丈ほどのあるツヴァイヘンダーを、指揮棒の様に軽々と振るう事を可能とした。
効果のわからない終失の魔剣の攻撃に当たらず、こちらの攻撃のみを通すならば、程々の距離をとりながらの戦闘と、潜り込まれた際には刃を持ち対応する事の出来るツヴァイヘンダーこそが最適。
その秋臥の考えは見事的中し現在、イベリスによる攻撃はただの一度たりとも秋臥に届いてはいない。
「よく頑張る―――だけど、そろそろつらいんじゃないかい?」
「この程度…………!」
身を回転させて、遠心力と秋臥の体重、そしてツヴァイヘンダー元来の破壊力を全て乗せた振り下ろしを放つ―――が、イベリスは終失の魔剣とは別にもう一本、法防の魔剣を持ち半透明のドーム状の結界を展開。
自身の攻撃の際には解除するが、基本的には無欠と言わんばかりの強度―――未知と確固たる盾の組み合わせに秋臥は、攻めあぐねていた。
「―――逆垂氷柱」
言うと、地面から氷の柱が四本。
ドーム内に現れイベリスを囲むと、秋臥は即座に次のステップへ。
「氷夢枕魂…………!」
氷の柱からそれぞれ勢いよく、氷の杭が飛び出した。
柱の中心に立つイベリスの体を貫通―――次の瞬間、そのイベリスは霧と消えた。
「幻牢の魔剣」
「…………ッ!」
突如背後に現れたイベリス。
瞬時に氷の壁を生成―――終失の魔剣が、生成も終わらぬ間に壁へと食い込む。
一秒でも遅ければ秋臥の首は飛んでいただろう―――しかし、好機である。
ツヴァイヘンダーを地面へ突き刺し、素手へと移行―――終失の魔剣を壁で封じている間に、ケリをつける算段だ。
「深光の魔剣―――終失がダメならば別の魔剣を使うまでだよ……!」
「光かっ!」
終失の魔剣の代わりに持ち出された、深光の魔剣―――剣の全体が光に包まれており、直視すれば目が眩む。
間合いが上手く読み取れないが、大体の予想は可能―――イベリスの腕の動きを見れば、軌道予測とて容易だ。
秋臥はツヴァイヘンダーを使っていたときよりも深い位置でイベリスと衝突―――掌に魔力を込めて、掌底での叩き落としを基本とした防御体制での息をつく間もない高速戦闘を行う。
魔剣には触れず、叩き落とすのは腕。
もはや互いに間を開く事はせず、気を抜けぬストレスと身体の疲れのピークを、どちらが先に迎えるかの戦いとなっていた。
「クイズ―――僕が魔剣をちょこちょこ切り替えれるのは、なーんでだ」
「………………は?」
そう言うイベリスは現在、左手に深光の魔剣、右手は空。
魔剣切り替えれるのは、リリスが持っている様な収納の魔道具でも使っているのかと思っていた―――だが、違ったら? 秋臥の脳内にそんな思いと共に、一つ答えは出ていた。
魔剣を出し入れしているのは物によってではない―――魔剣自体が、現れては消えてを繰り返している。
つまり、一度封じた魔剣とて消してから再度手元に出してしまえば意味がない――――――。
「終失の魔剣―――さあ、終わらせようか」
「…………ああ、ノってやるよ」
深光の魔剣は消えていない―――効果のわからない魔剣二本。
終失の代わりに出したのだ、深光とて下手ななまくらではない事は明確。
その様な危機、切迫した場面に至った秋臥の集中力は、この世界に来てからの最高へと至った。
だからこそ気づく―――遠方より飛来する、異物に。
断末魔を上げながら落下して来る、ベヒモスに。
「危なあああああああああああああああああいっ!」
リーニャの叫び声と轟音と共に、ベヒモスの死骸が秋臥とイベリスの間へと落下。
一寸先も見えぬほどの土煙が舞い上がる。
存在に気づきはしていたものの、流石の衝撃に集中の途切れてしまった秋臥は一度元居た一からバックステップで距離を取る。
「っと、戦いを中断してしまいすみませんっ! トドメの新技が思ったより勢いづいてしまい…………」
「いや、危ないところだった…………ありがとう、リリスさん」
腕の疲労に気づく秋臥。
攻撃の最中には気づかなかったが、全身に随分と疲労が溜まっている。
もし戦いを続けていれば、確実に負けていただろう。
「なんだ、ただ一人に負けてしまったのか…………これだから魔物は、頼り甲斐がない」
ベヒモスの死骸の上にのぼり、一つため息をこぼしてから言うイベリス。
少し不機嫌そうな表情で、皆を見下ろしている。
「まあ、手始めとしては上々だろう―――エルフの兵の六割壊滅、今日はコレで諦めることにするよ」
「お前、また逃げる気が…………!」
「違うよ秋臥くん。逃げるんじゃなくて見逃すんだ―――君たちは、僕に感謝をしないと」
二つの魔剣を消すイベリス―――そして新たに出した一本は、刀であった。
「最後に、土産を置いていこう――――――」
足元の、ベヒモスを突き刺す―――瞬間、煙の詰まった風船でも割った様な発煙。
イベリスの魔力が消えると同時に、他の魔力が―――強いものでは、決してない。
しかし、多い。
一つや二つの魔力ではない―――その反応、煙の奥に見える影。
瞬時に分かるだけでも、千を超える。
「――――――魔物ッ!」
一つ唾を飲み、叫ぶ秋臥。
瞬時に魔力を凝縮した後に、放出。
巨大な氷で、煙の先にいる魔物達を飲み込んだ―――しかし、ヒビ。
千を超える魔物達の怪力に耐えられず、内側から砕けたのだ。
「秋臥殿、お下がりをっ!」
リーニャの声と共に、五発の魔力弾が放たれた。
割れて秋臥の方へと飛んだ大きな氷に命中して砕くと同時に、香菜の糸が秋臥を少し魔物達から離れた距離へと。
第二ラウンド、開始だ。
高熱に同情してくださる方、ありがとう。
(更新状況とか)
@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)




