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持ち物検査

昔、幼稚園の持ち物検査でゴーオンジャーのオモチャを没収されました。

「魔力封じの首輪だ…………奴隷などに装着する物だが、まさかサレン様の首にかけられよう日が来るとは…………エルフ族最大の失態だ…………っ!」


「悪い、警戒不足だった…………」



 秋臥とリリスの二人はリリスを元の部屋へと送り届けた後、巨大樹の三回で他の立ち入り一切を禁じて情報の共有を。


 奴隷への首輪をエルフ族の長に装着する。

 それがどれほど重大な事かは、歴史をラクルスから聞き齧った程度の秋臥でも良く理解できる。

 愛国者の前で国旗に小便をするが如き暴挙―――エルフの民であるリリスとしては、怒りで震える拳を抑えることもままならないであろう。



「そうだ、貴様がッ! …………いや、サレン様が気づけなかったのだ、すまない…………何か姑息な手段でも用いたのだろう…………ッ!」


「敵の攻撃手段は未知数だ…………より一層の警戒を誓おう」



 怒りで血が煮えたぎりそうな今、リリスはよく冷静を保っている方だ。


 エルフ族としての恥と怒り、そして族長のサレンというエルフ族最高戦力の魔力封印の大損害。


 エルフとして戦士として、正気を失うには充分な材料が揃っているのだから。



「秋臥、敵の容姿をもう一度聞いても良いか? サレン様に変わり、私が兵の指揮を取るのでな―――正しく認識しておきたい」


「整った、女のような顔をした男。白い、僕が着てるようなシャツの上に黒いセーターを来て、ズボンもこれと似てる」



 言って、自身の履く黒いズボンを摘んで見せる。



「よく居るありふれた格好だな。後は…………眼鏡と銀のピアスだったな。ピアスの特徴は分かるか?」


「羽か葉のような形をしてる。それを両耳からチェーンで垂らしてた」


「羽か葉…………了解した、私はこれから兵の元へと向かう。お前も来るか?」


「エルフ以外が居ても、今は連れてきたリリスへの不審を煽るだけだよ。一度香菜の元に戻って状況を伝えるよ」


「得策だな。ではまた後でな」


「ああ―――っと、そういえば一つ頼みがあるんだけどさ、弓を見せてくれない?」



 別れようとする直前、ふと忘れていた重要事項を思い出す。

 既に席から立ち上がったリリスは、少し不思議そうな表情。



「弓か? 別に良いが、どうした…………?」


「いや、そっちじゃなくてさ」



 ブレスレット型の収納魔道具から、リリスは訓練に使っていた木の弓を取り出すが、秋臥はそれを手で静止。

 人差し指で一度テーブルを小突くと、リリスに弓の訓練という大義名分で近寄った理由を、本来の狙いを曝け出す。



「初めて会ったあのとき使っていた、黒い弓―――アレを見せるんだ」


「っ…………すまないが、断る」


「それが罷り通ると思ってるのか?」


「嫌に、高圧的ではないか………………」



 あの弓は、リリスにとって伝家の宝刀であり地雷。

 本来見たものを生かしておくのすらリスク―――にも関わらず、再度人目に晒すなどあってはならないのだ。



「もう話がないなら行かせてもらうぞ…………悪いな、期待に添えず」


「行けるなら、お好きに」



 眉を顰めた表情で、リリスは木のエレベーターの上に立つ。

 帰りならば、上に乗っただけで魔力が反応して稼働を開始する―――にも関わらず、反応無し。

 そこにあるのは、足元から漏れ出す冷気であった。



「逃げられちゃあ困る、少し止めさせて貰ったよ」


「……………いずれ、償いは受けるッ」



 言うと、リリスは魔石を一つ取り出して壁へと投げる。

 当たると同時に、光を放ち爆発。


 壁に穴を開けると、そこから飛び降りて消えて行った。


 秋臥はエルフの森へ来た初日、初めてあの弓を見た瞬間から、感じ取っていた。

 妙な魔力―――ゴルシアの使った黒い液体と同じような、この世界とはズレた力。


 バグアイテムの気配を。



「逃げられたか………………まあ、どうせまたすぐに会うな」



 壁の穴から外を見下ろしながら呟くと、秋臥は木のエレベーターを固定していた氷に魔力を流し、小粒程の大きさに砕く。


 その程度なら、あとは樹木にかけられた魔法が氷をエネルギーとして吸収。

 葉を増やして終わりだ。


 秋臥も壁の穴から飛び降りると、借りた家へ繋がる帰路へ着く。

 今日は昼まで寝てしまおうなどと考え、上る朝日を眺めながら。




 ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘




「…………秋臥、先程から行っているソレにはいったい何の意味が?」


「感覚を鋭く、反射を冴えさせた上で、薄皮一枚の感覚を研ぎ澄ます―――昔トラオムで教えてたときによくやらせてたんだ」



 晩の騒ぎから半日が過ぎた頃、秋臥は妙な鍛錬に打ち込んでいた。

 毛糸を掌や腕で転がし続ける。

 表面の僅かに立った糸の一本一本に意識を回し、感覚を極限まで研ぎ澄ます。


 三日後の戦いに対する準備としてこの鍛錬は、氷の形成に於ける手元の感覚や、接近戦での反応速度の回帰など、戦闘の距離に関わらず必須事項であった。



「毛糸玉、もう一つありますか?」


「あるよ。前に香菜が欲しいって言ってたし、すぐそこの店に売ってたから。取り敢えず赤青黄の三色買っておいた」


「私が、ですか…………?」



 指差されたバックから毛糸玉を一つ取り出すと、それを秋臥が座るソファーの前にあるテーブルに。

 自身がそれを求めた記憶が無く、不思議そうに首を傾げる。



「こっち来る前―――向こうじゃ十月で寒くなり始める時期だからマフラーでも編みたいってさ」


「こちらへ来る前…………そうでしたね。短い間に色々あったせいで、忘れてしまっていました。ありがとうございます」


「僕も毛糸玉売ってるのを見て思い出しただけだよ」



 気恥ずかしそうに言う秋臥を見て微笑みながら、香菜は紅茶を二杯。

 それもテーブルに置くと、秋臥の隣に座って先に置いた毛糸玉を手に取る。



「それ、どうやるんですか? 私にも教えてください」


「やるの? それじゃあまずは簡単な掌から―――」



 鍛錬とは名ばかりの、惚気た空間。


 しかし香菜は言葉に出さずとも、秋臥の不安と方針を感じ取っていた。

 この世界へ来て既に一度の惨敗と、一度の逃亡を許し、それ以外にも戦闘後の気絶やナンバーズのライオットに対して、人を守りながら戦うというには力が足りず、リーニャに助けられた。

 短期間に重なる無力感―――秋臥はそれにはらわた煮えくり帰っているのだ。


 激しい自戒の念に身を焼き、過去苛烈であった頃への回帰を果たそうとしている。

 トラオムにて最高指揮官兼教育長をしていた頃の自分へと戻ろうと、焦っているのだ。


 それを理解している香菜も、また焦っている。

 あの頃への回帰などさせてはいけない―――アレは求めるべきではない、悪夢の日々なのだから。

読んでくださりありがとうございます!

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(更新状況とか)

@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)


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