貴族
何が起こっているのか、秋臥は理解出来なかった。
目の前で倒れる一人を皮切りに、次々と騎士が倒れて行く。
唯一分かる事と言えば、それの原因が彼女―――香菜だという事ぐらいだろう。
『ヌシよ、解説してしんぜようか?』
「この声…………神様…………?」
『おお、大正解じゃっ!』
突如、秋臥の脳内に苛立つ様な陽気な声が響いた。
若干の頭痛を伴うソレに意識を向けると、神は勝手に解説を始める。
『アレは、ヌシもご存じよく言う魔法―――ヌシらの体に力と、本能に使い方を刻んでおいた。言うたじゃろ? ヌシらに、この世界で生きる力を与えると』
「魔法…………じゃあ、僕にも出来るんですね…………?」
『元々、ヌシに託す為に用意した力じゃ。あの娘と内容は違えど、ヌシに合う魔法を仕立てた―――必要となったとき、目覚める筈じゃよ』
それを言い終えると、声がぷつんと途絶えた。
ほぼ同時―――側に人影が戻る。
終わったのだろう―――躊躇い無き殺戮が、圧倒的な殲滅が。
「戻りました―――秋臥、私を護って頂けるのは嬉しいのですが、そのせいで秋臥が傷つくのは私本意ではございません…………」
「僕も、香菜が傷つくところは見たくないよ」
身を挺して馬車から香菜を護った事に対してだろう。
戻った香菜に言って返して立ち上がり、辺りを見渡すと死屍累々。
死体への耐性が多少あれど、大量に首の取れた死体が転がっている光景には秋臥も少し驚いた。
「香菜、今のは――――――」
「魔法、でございますよね? あの神とやらの声は私にも聞こえておりました―――ファンタジー染みて、にわかに信じ難い話ですが、こうも実際に使えては信じるしかありませんね」
「そうだね――――――さて、この中に生存者は?」
「無論、残しております―――馬車の中一名と、運転手は無傷です」
「ありがとう、香菜」
香菜から騎士の死体の山へ目を向けると、確かに一人動く影が見えた―――そして、馬車からも壁を殴る音が聞こえる。
「何が起きたのだ…………ラクルス様、ご無事ですか…………っ!」
「こっち気にすんなぁ! 自力で出るっ!」
運転手の声に反応すると、横転した馬車の扉が吹き飛んだ―――そして、中から一本腕が伸びた。
「おらよっとッ!」
掛け声と共に、腕に力を込めて飛び出す。
現れたのは深いワインの様な赤色の髪を一つに縛って、前髪を一本細く垂らした目つきの悪い男。
少し辺りを見渡すと、足場にしていた倒れた馬車よりぴょいと飛び降りる。
「加勢は、アンタ達か?」
「達って言うか…………まあ、ハイ」
男に訊ねられた秋臥は、咄嗟に自身と香菜のどちらが今強いのかを明かさずに応えた。
ここは全くの未知の土地、異世界だ―――こちらが情報不足ならば、相手に対してもなるべく情報を明かさないほうが良いと判断した。
「そうか、恩に着る―――アンタら、ここいらじゃ見ねえ顔だな。エルモアース領になんの様だ?」
「生体調査です。知り合いの学者が変な鳥を見たと言うので、僕も生物学者の端くれとして目で見るしかないとここへ」
咄嗟の嘘―――神に言われて来たとは言えぬ。
少し無理があったか、この世界に鳥はいるのかなどと考えるも、異世界初の人間とのまともな交流など多少の賭けなしで乗り切れるものではないと半ば諦め。
「変な鳥ぃ? んなもん聞いたことはねえな…………まあ良いか」
投げ出す様に言う男だが、鳥の存在は確認。
生態系にそう大きな違いは無いのかと考えながらも、この程度の知識をこの世界の常識として覚えさせてくれなかった神の適当さ加減に若干の呆れ。
今回上手く行ったから良かったものの、場合によっては最初からこの仕事が詰んでいたのでは無いかと身震いする。
「それよりアンタら、相当腕が立つな? それを見込んで人つ仕事を頼みたいんだが、いいか?」
「仕事、ですか…………? 一応話だけならば」
「助かる―――じゃあ内容だが、俺の護衛だ」
「拘束時間と規模、報酬はどの程度ですか?」
「まずは二日、相手はここら一体の領主予定の男だ。屋敷の兵の一部を相手取るが、今の追手を殺れるなら問題はねえよ―――報酬は予定通りで白金貨二十枚。一日延長する度に同額の上乗せを約束する」
神からの情報として、白金貨一枚が元の世界の十万円。
二日で二百万―――そして、三日目もあるなら四百万。
話がうま過ぎると秋臥は疑った。
そしてその懐疑は、男も見抜いていた。
「その代金払って今日、今しがた出会った僕達を雇う、貴方のメリットを聞いても? 失礼は承知ですが、信用のない人間に大金払うボランティア精神がある様には見えない」
「そうなるよな…………仕方ねえ、名乗りがまだだったな」
一つ諦めた様に、男はため息を。
そして、首にかけた金のチェーンへと手を伸ばす。
胸元まで伸びるチェーンを引くと、土で汚れた白シャツの裏側より、赤い宝石のブレスレットが出て来た。
「父より授かった、当主の証だ―――俺の名はラクルス・エルモアース。俺がお前ら信用のない腕利きを雇ってまで突入したいエルモアース家の、頭張ってるもんだ」
⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘
「さて、初戦は小娘の方か―――少し想定外だったが、それもまた良しかの」
世界の外側、神が二人を覗いていた―――秋臥の魂を拾うために一度訪れた世界から盗んだビーズクッションに横たわり、同じく盗んだスナック菓子を齧りながら。
「しかし此奴ら、何の因果か珍しい経歴を持っておるの………………暫く道も安泰であろうし、過去でも探ろうか」
秋臥達を覗く世界の窓とは別に、もう一つの窓を展開する。
その窓の先は、秋臥が元々居た世界のとある宗教団体―――今となっては数十人規模まで縮小してしまったものの、かつては十万を超える信者数を誇っていた、大型の新興宗教である。
「本当に、嫌な縁じゃ…………此奴らには、少し悪い事をしたな」
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