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天然育ちの嗅覚

 案外容易く終えた交渉に安堵しながらも、案内された家へ―――外からの見掛けは普通の民家と言って遜色ないものであったが、中は酷いもの。


 蜘蛛の巣が張られ、一歩進めば埃が舞い、屋根は穴がチラホラと。

 息を吸えば喉を痛めるし、雨が降れば雨漏りも酷いだろう。


 ここで寝るならば、表で寝たほうがマシだと思えるレベルの設備―――だが、リーニャはそれを一切気にせず。


 リリスに許可を取って玄関の扉をナイフで少し削ると、そこに馬車の壁から外してきた宝石を嵌め込む。


 微かな魔力―――家の中から、埃の混じらない綺麗な空気が流れた。



「空間魔法の込められた魔石ですっ! これを入り口に嵌めておけば、どんな家だろうと綺麗な内装にっ!」



 親指を立てて、リーニャは言った。

 入り口を開いてみると、そこに広がっていたのは馬車と同じ内装―――各々の部屋が用意された、外からの見掛けとは一致しない間取りの空間。



「捕虜などを捕らえて宝石を外しておけば、脱出不可能の牢獄としても使えたりするのでしょうか…………?」


「香菜、発想か怖いよ」


「意地悪なことを…………秋臥だって、考えたでしょう?」



 その言葉を否定し切れず、思わず視線を逸らす秋臥。


 その反応を面白がったのか微笑むと、香菜は誰よりも先に家の中へと入っていった。



「少し休ませていただきます―――今日は、少し疲れてしまって…………」


「そう? じゃあゆっくり休んで」



 ここ数日、快適な部屋だったとはいえほぼ部屋の中で密閉状態。

 馬の操縦という仕事もできないので、気疲れしてしまったのだろうと察した秋臥は、特に理由を探ることもなく香菜を見送る。


 さてと自分は外へ向かおうとすると、軽く肩を叩かれた―――リーニャだ。



「秋臥殿、どこかへ行かれるのですかっ?」


「リリスさんを探そうと―――少し、聞きたいことがありまして」


「リリスなら、恐らく少し東へ行った湖の側にいますよっ! それと秋臥殿、私は既に貴方を認めています―――ので、出来れが気安くタメ口で話していただきたいっ!」


「…………じゃあ、そうするよ」



 リーニャは機嫌良く、満面の笑みを。

 秋臥の中でリーニャの印象は、初対面時の敵対心を剥き出しにした態度が強く残っていた。

 だがここ数日で印象は一変―――あれは警戒時の態度。


 今はこのようなアホっぽい態度だが、場面によっての頭の切り替え幅が広いのだと理解した。



「秋臥殿は気安い話し方のが似合う気がしますよっ? 普段の様子は良く言えば丁寧なのですが、その…………少し、壁というか怖さを感じます」


「そう? そんなつもりはないんだけどね」



 嘘である。

 意識して、壁として敬語を使っていた―――思ったよりも見透かすタイプであったかと思いながら、僅かに警戒心を。


 リーニャは人との距離が近いタイプで、気を許しやすい。

 故に、隙を見せ易い相手だ。


 その反面、初対面のときのような一面も持ち合わせる―――あまり、油断してはいけないと心に刻む。



「それと、よく観察されているような感覚を受けますねっ! ――――――っと、リリスを探しに行くのでしたね。私も少し休みます、秋臥殿はお気をつけてっ!」



 一方的に話を終えると、リーニャも家の中へと入っていった。


 最後の一言、秋臥は背筋が凍るような感覚を得た。

 昔からの悪癖―――まだ、無意識下で治っていなかったのかと一つため息をこぼす。



「怖いなぁ………………」



 漏らすと、家を後にした―――リリスの居場所はリーニャから聞いた。

 東の湖辺り。


 それを信じて、町を見ながらゆっくりと向かう。




 ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘




「…………客人か?」


「どうも、さっきぶりで」



 リーニャの予想通り、リリスは湖のすぐ側にある森の中に居た。


 木の弓と数束の矢を側へ置いて、岩に座り込み止んでいる様子。

 近くの木に数本の矢が刺さっていたので、鍛錬中というのは明らかであった。



「貴殿の名は…………なんであったか? すまない、ここ最近物忘れが多くてな」


「いいよ―――僕は秋臥。改めてよろしく」


「秋臥か、今度は忘れないでおこう―――お前、さっきまでと話し方が変わったか………?」


「リーニャさんにね、こっちの方がいいって言われて」


姉々(ねえね)が…………私も同意だな。そちらの方が似合ってる」



 リリスは小さく笑う―――彼女はリーニャと血が繋がっていないながらも、姉妹のように育てられ慕っている。


 故に、リーニャの連れてきた秋臥の事も僅かに信頼し始めているのだ。



「さて、秋臥―――ここに来たのはお喋りをするためではないな?」


「ああ、一つ頼みがあってね」


「頼み…………? なんだ、先程事情があったとはいえ攻撃してしまった詫びだ―――なんでも聞こう」



 なんでも―――秋臥と同じ年齢の男子からすれば、素晴らしい響きだろう。


 だがそんなおふざけをしているような場合ではない―――秋臥には、とある疑念があった。



「そんな大袈裟な事じゃないですよ―――でも、それじゃあ有り難く。僕に弓を教えてくれませんか?」

 


読んでくださりありがとうございます!

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(更新状況とか)

@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)


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