月下の狂刃
初日だから2話分投稿!
『さて、無事到着したみたいじゃな―――この世界の常識は最低限ヌシらの頭に入れておいた。異世界すたーたーせっとは近くの真っ白の箱に入れておいたので、必ず見る様に―――そうしたら、暫くは自由時間じゃ!』
どこからか、神様の声が聞こえる―――確かに、二人の足元には立方体の白い箱が。
側面の窪みに指を掛けて開くと、中には二人分の着替えと銭袋。
この世界の貨幣であり、秋臥と香菜の二人が一ヵ月 月ほど安定して過ごせる金額である。
「辺りに人は居ませんが…………しかし念のために、そこの木陰で着替えましょうか」
「ああ、それがいいな」
今の制服姿では、この世界で嫌に目立つ。
神様によって頭に詰め込まれたこの世界でのある程度の知識に則って、二人は即座に着替え。
秋臥は服は変わらず白シャツだが、ズボンは制服から、黒く質の悪いコックズボンの様な物へと。
だがそれは外からの見た目に限り、内は上質なシルクの様な肌触りの良い物だった。
「僕は着替え終わったよ、そっちはどう?」
「慣れない服ですが、こちらもすぐに―――このセンスはあの神とやらの趣味でしょうか…………」
木陰から出て来た香菜は、黒いワンピース。
特出する点を挙げるとすれば、フリルが多い。
「この様な服を何と言いましたか…………」
「確か………ゴスロリ? 神様の趣味出てるね」
この世界に適した服と言って良いのかは分からないが、フリル多い筈のこの服も以前の制服より格段に動きやすい。
神が何か仕掛けをしたのだろうと解釈した二人は、改めて服の話題からこれからの行動を話し合う。
「制服をあの箱に片付けたら、新しくバックが出て来たよ―――中見たら暫く分の食料あるから、当分は飢え死になんてしない」
「良かったです―――行先ですが、少し先に大きな街の影が見えました。ある程度安定した食料があるのならば辿り着ける距離でしょう」
「じゃあ決定だね」
どれ程歩けば良いのか―――普段歩く距離など家から学校の長くて二〜三キロメートル。
そして今目指すは、何も障害物の無い平原で遠く影が見える程度の街。
一介の高校生二人が目指すには、少々遠い距離―――それが、二人の旅の始まりであった。
⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘
「今日はここで休もうか―――野宿で悪いけど、悪くない場所だし」
「秋臥が居るならば、私は肥溜めの中だろうと文句など言いませんよ」
「心強いね。けど肥溜めは僕が嫌かな」
二時間ほど歩くと、流石に足が疲れ始めた。
元々出発の時間も旅出には遅く、それでも出来る限り歩いたが陽が落ちたので夜間の移動は危険と判断。
街まで続く道の端に一度腰を据えて、石を積んで簡単な焚き火を。
薪は辺りにいくらでも乾燥した枝が落ちていた。
元々秋臥にキャンプの知識、火おこしの知識などないものの、神様がこの世界の常識として植え付けた情報の内にはそれを補う知識が充分に含まれていた。
「朝には露など出ると思いますが、どう致しましょう…………?」
「テントなんて無いしね……………………ん?」
悩んでいると、秋臥の耳が少し遠くからの足音を捉えた。
ほぼ同時に香菜も確認。
目を向けると遠方より、幾つか灯りが近づいて来るのが見えた。
人の足の速度では無い―――馬である。
「香菜、気をつけて…………夜中の走行速度じゃない」
「ええ、元の世界ならお縄の速さです」
迫る足音―――そして、共に迫る灯りに照らされた鉄の鎧。
元の近代世界では基本目にする事のない、騎士の甲冑。
「なっ…………退けッ!」
馬の後、黒く重厚感のある馬車を操る騎士が、二人へ向かい叫んだ
その後方、更に馬の足音。
血に濡れた剣を握る者、剣を腰の鞘に収めて松明を握る者。
交わり馬車を追っている。
「香菜っ!」
恐らく、秋臥の点けた焚き火の灯りで道を誤認したのだろう。
馬車は二人は向かい突っ込んで来た。
それを見た秋臥は香菜を真っ先に救出―――突き飛ばすのではなく、飛んで香菜を抱き抱えると、自身の体を下にして地面に激突。
即座に覆いかぶさる様な体制へ移動して香菜を護った。
「秋臥っ、お怪我はございませんか?!」
「ああ、大丈夫………それより馬車は…………?」
言われた香菜が目を向けると、馬車は横転していた。
「今だ、中から引き摺り出せッ!」「誰か居るぞ……! 関係ないヤツに見られた!」「そんなの勝手に処理しとけッ!」
馬車を取り囲む騎士達が、矢継ぎ早に言う。
関係ないヤツ―――この状況、馬車に無関係なのは秋臥達だけだ。
それを、処理すると言った。
数居る中、一つの甲冑が秋臥達へ歩み寄る―――かちゃかちゃと関節部の金具を鳴らして、剣を抜き、狙いは明らかである。
「問おう、貴殿らは何者だ?」
「僕達は、ただの旅人です…………そこの馬車には、何も関係ないです………!」
「そうか、ならば己の不運を呪え―――名も知らぬ旅人よ、貴様らを心より哀れもう」
空へ掲げられた剣の刀身が、月明かりに輝く。
それは理不尽な断罪の剣―――香菜を背に両手を広げ、秋臥は真っ直ぐ騎士を睨む。
だがそれも虚しく、刃は振り下ろされた――――――。
「――――――あ?」
次の瞬間、騎士の間抜けな声と共に剣を握りる腕が消えた。
秋臥が視線だけで探ると、騎士の背後に剣を握ったまま落ちている。
腕の断面から溢れる鮮血―――鎧の中に詰まった様な肉は、肘関節が見えている。
この状況、理解出来ている者は居なかった―――ただ、一人を除いて。
「息をする様に分かるのです―――コレが、私の意のままに動くのだろうと」
秋臥の背後で、香菜が立ち上がる。
しゃがみ込んで地面に重なっていたスカートが伸びて広がる。
「分かるのです―――私は今、かつてない程に昂って居るのだと」
香菜が秋臥の前へ歩み出る。
その手には、一本の糸が垂れていた―――鮮血を滴らせる、ピアノ線の様な糸が。
「私は今より貴方を殺します―――そして、貴方の仲間を殺します。恨むならば、秋臥へ剣を振るったご自身をお恨みください」
香菜の指先より無数の糸が伸びる―――糸は意志を持ったように動き両手それぞれ五本ずつ捻れ一本の糸へと。
そして瞬きの前、香菜は騎士の首周りに抱きつく様な動きを見せた。
だが、それもつかの間―――すぐに香菜は騎士から離れると、振り返っていつも通りの微笑みを秋臥に見せた。
「すぐに終わらせますので、少し待っていてくださね」
騎士が倒れた―――音を立てて、力無く。
首が転がった。
抱きついた様に見えた一瞬で、首に糸を回して切断したのだ。
脈絡もなく現れた糸で、関節部で護は弱いとはいえ、それでも鎧に護られた首を。
「退屈も感じぬ間に、終わらせますので」
読んでくださりありがとうございます!
もし面白いと思ってくださった方は、レビューや感想、ブクマなどもらえると嬉しいです!
Twitterでは、#ヤンデレ純愛をつけて貰えると発見しやすく助かります。
(更新状況とか)
@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)