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ハネムーン

「ヌシらには礼を言わねばならぬな―――元々の依頼とは別件で世界を救わせた」



 樽ごと持ち上げ酒を飲みながらラジェリスは言う。

 その態度は礼をしているとは思えない不遜さであるが、それを特に責める物などは一人もいない。

 何を言っても変わるものではないと、皆薄っすら察しているのだ。



「儂もケチな女神ではない―――何か報酬でも支払おうと思っての。それはもう女神な報酬を用意したのじゃ」


「女神な報酬…………永遠の命でも?」


「永遠の命ぃ? 秋臥、ヌシも案外馬鹿じゃの」



 煽る様に笑いながら言うラジェリスに、秋臥が拳を固める。

 それを宥めようとする香菜を他所に、ラジェリスは酒樽を一口で飲み干してからため息を吐いた。



「女神の使徒に寿命なんぞあるかアホよのお。ヌシら元々不老不死じゃよ。勿論外傷やらは死ぬがの―――お?」



 瞬間――ラジェリスの首より下が氷漬けとなった。

 女神とて脱出は困難―――そこに近づくと、秋臥と香菜は声を合わせて叫んだ。



「そう言う大切な事は、最初に言え!」


「そう言う大切な事は、最初に言って下さいっ!」


「あれっ、儂言っとらんかったか…………? あの、これマジで出れないんじゃが…………儂女神史上一番のピンチなんじゃが、おーい、女神ピンチなんじゃが、解放する気とかは――――――」



 冷や汗を流すラジェリスに対して、二人はやんややんやと責め立てる。

 他にも何か言ってない前提情報があるかもしれないと、必死になって。



「なあ剣聖様よ―――さっきの話、覚えてるか?」


「僕も今同じ事を考えていたよ―――どうやら秋臥君にも、普通の若者らしい所はあるみたいだね」



 騒ぎ立てる秋臥達を見て、スアレーとルークは笑う。

 戦いの場とはまた別の必死な様子は、秋臥に普通の若者らしい一面が残っている何よりの証拠。

 それが微笑ましいのだ。



「さて、女神様を助けてくるよ――――――秋臥君、今はまず報酬の内容を聞くべきなんじゃないのかい?」


「っ…………まあ、そうですね………………一度解きます」



 聞き分けた秋臥は氷を溶かし。

 安心した様子で襟を直しながら、一度咳払いをした後にラジェリスは話を再開する。



「さて、報酬じゃか―――暫く、休息をと思っての。その後はバグアイテムの捜索なんかに出てもらおうと思っておるが、昨日の今日で出動では気が休まらんじゃろう」


「休息とはまた急ですね…………既に秋臥は多人類軍(モアレヒストリー)の講師として、私はその付き添いとして世界を回る支度は出来ていますのに」


「旅行にして仕舞えばよかろう」


「私達が休んでいる間、誰がバグアイテムの回収を?」


「最近とてヌシら回収に回っとらんじゃろ―――ここ数ヶ月は、サレンに回らせておるわ」


「サレンさん…………あの人はエルフ族を仕切る仕事があるのでは?」


「何、奴を侮っては行かんぞ―――見よ! あの余裕に満ち溢れた表情を!」



 そのフリで、二人はサレンへと目を向けた。

 その表情は、この兼業が更に続くのかとでも言いたげな絶望に塗れている。



「サレンさん、休んでください」



 歩み寄った秋臥が言う。

 共に寄り、サレンの手を取った香菜も頷く。


 エルフ故に超高齢と反した幼い見た目のせいか、絶望塗れのその表情は、なんとも心揺さぶられるもの。

 二人が手を差し伸べられずにはいられないものであった。



「貴方達が当初の使命以上の仕事をしたのは事実………だから、私の事など気にしなくても良いのよ」


「いい馬車を持ってます。だから、休みなら移動中でも良いんです―――なあラジェリス、休みよりも欲しいものがあるんだ」


「ほう? ヨシ、この儂が聞いてしんぜよう」



 秋臥は残った料理から、パエリアを取る。

 その中の貝をスプーンで掬って見せると、皆がその考えを理解する。



「向こうの世界でもこっちでも、香菜と海に行ったことが無かったんだ―――いい回収先はあるか?」


「成程の―――であれば良い場所がある。海の側での回収任務、任せるぞ」



 約束は締結され、任務は発行された。

 戦闘時の様に急ぎ地を駆ける事もなく、ゆっくりと馬車で目的地を目指す旅。

 ハネムーンの様な、二人の旅行が決定した。

 


 

次回、最終回です。



(更新状況とか)

@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)


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