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足並みを揃え

「神力の解析は殆ど済んだし、魔力から変換する手段も見つけたわ…………でも、貴方達程の純度にはならない…………とても、とてもとても悔しいわ…………」


「これがかの魔道王…………いや、魔女様のお姿か…………」


「マリー姉さん、昔は親父殿達の酒の匂い嗅いだだけでも酔ってたぜ」



 一杯のワインで酔い、ベネティクトの足に座った状態で秋臥に絡むマリーを見たラクルスとスアレーは失笑。


 ラクルスからすれば聖七冠など仕事で絡む姿は見てもプライベートの関わりとは程遠い存在。

 そしてスアレーは、ジェムエル姓を持つ親戚同士という事もあって昔からよく知る姿。


 双方別々の理由で呆れながらも、この戦力を酔い潰している光景こそが平和の象徴なのだと考えた。



「神力は未熟だし、ベティーやルークやそれと引き分けた貴方にも勝てないだろうし、私ったらもうお役御免よ…………いつか聖七冠をクビになって、どこぞで放浪する事になるんだわ………………そしたらきっと、ベティーの扶養に入れてちょうだいね…………」


「はいはい、だいぶ酔ってるねマリーちゃん―――悪いが秋臥君、客間を借りても良いかい?」


「ええ、こうなる事は事前にベネティクトさんが言ってくれてましたから、もうメイドさんに部屋の用意は済ませて貰ってますよ」


「気がきくね、じゃあ少し介抱して来るよ」



 言うと、ベネティクトはマリーを抱き抱え立ち上がり。

 近くのメイドに案内を頼んで屋敷の中へと入って行った。

 


「さて絡み酒も居なくなった事だし、向こうで(あたし)と呑み直そうぜ加臥秋臥―――まだ、愛人の件は諦めてねえぜ」


「貴女中々懲りない人ですよね―――強い人なら、別にも居ますよ。ほらそこのルークさんとか」


「ん、僕かい?」



 己よりも強き者を(つがい)としたいスアレーにとって、ルークはどう見えているのか尋ねる。

 スアレーとて一国の騎士団を背負う強者ではあるが、ルークと比べてしまえば見劣りする。


 ならば、別に秋臥との関係に固執する必要はないのではないかという考えだ。



「いい男だ、それに強い! (あたし)よりも断然な―――だがこう、殺してやるぞ〜みたいな覇気が足りねえんだよな。加臥秋臥とやり合ってたときも楽しんでこそいた見たいだけど、ありゃ闘争を楽しんでるんであって、殺意を向けてるわけじゃあない―――それだと、(あたし)にゃ少々刺激不足だな」


「戦いは仕事だからね―――一人一人に殺意を向ける気は無いよ。数が多すぎる」


「にしても普段は機械的過ぎねえか? 加臥秋臥はフェイントでも雑魚に向けりゃ即倒する様な凄みがあるぜ」


「秋臥君は殺し特化だからね―――良いんだか、不健全なんだか。普通の若者らしくはないね」


「そんな所が、(あたし)は気に入ったんだがな」



 言うと、すあれーは二メートル越えの巨体で屈み秋臥の腕に抱きついた。

 豊満な胸を押し付けた状態で上目遣いを試した所でタイムアップ―――首筋に糸が絡む。



「客人でも、そのレベルの狼藉は見過ごしませんよ」


「っと、本妻殿に見つかっちまったか。退散退散」



 大人しく秋臥の元から離れたスアレーは、少し離れた位置で歓談するエルフ勢、サレン、リーニャ、リリスの元へと向かう。

 それは本日ここにやってきた目的の一つを果たす為―――サレスティアの騎士団長として、エルフとの交友を深める為だ。



「秋臥、少しお時間を」


「ああ、今行くよ」



 香菜に小さく袖を引かれ、秋臥は意図を察し。

 大人しく屋敷内へと向かう香菜の後ろに続いた。

 中庭の見える廊下で立ち止まると、香菜は振り向き秋臥に密着―――先程のスアレーの様に体を押し付けた。



「他の女と多く話されては、嫉妬します」


「気をつけるよ」


「他の女とくっ付かれては、嫉妬します」


「それも気をつけるよ」


「それと…………交友関係が大切な事は重々承知していますが、余りほったらかされると悲しみます」


「じゃあそろそろ部屋に戻ろうか? 場所こそ(うち)だけど、主催はラクルスだし。僕が消えて困るものでもないし」

 

「いえその必要はありません―――ただ、少し補給を」



 香菜は向き合った状態より秋臥のネクタイを引いて屈ませ、不意打ちの口付けを。

 二十秒ほど堪能した後に口を離すと、少し赤らんだ顔で微笑んだ。



「アルコールの匂いがします」


「臭かった?」


「嫌じゃないです」



 妖艶に、下唇を舐めて匂いを再確認。

 嬉しそうに秋臥に抱きついて、匂いを嗅いだ。



「この体からする匂いなら、血でも汗でもアルコールでも、加齢種だって私好きになれます。匂いだけじゃありません―――秋臥から出るものならどんな味も、視線も、言葉も、全部が私の好きなんです―――だから、ずっと私に下さいね」


「勿論―――全部が香菜の物だよ」



 こうゆっくりと浸れる時間も久しい―――戦いの連続とその後処理が続いた日々で、二人も随分と忙しかった。

 この時間を堪能しよう―――それで二人の意思が統一されていた頃、屋敷の一角より神力と魔力の混じった力の反応が現れた。


 襲撃かと秋臥は即警戒体制―――だが、それを見た香菜は少し笑う。

 秋臥もその様子を見て、これが緊急事態では無いことを悟る。



「マリーさんですよ」


「? あの人なら泥酔してて魔力操作もままならない筈だけど…………まさか」


「ええ、彼女のドリンクは全てノンアルコールの物に入れ替えてあります。事前に相談されまして…………日々好意をアピールしても歳の差を理由に取り合われないそうなので今日、襲うそうですよ」


「ベネティクトさんも腹を括る時が来たんだね…………まあ、本当に嫌なら逃げる事ぐらいは出来るかな」


「出来るでしょうが、やらないでしょうね―――それ程深い中ではありませんが、私は本気であの人がマリーさんを拒んでいる様には見えません」



 結果は明日の二人を見て察しようと、話はここで終わり。

 窓から中庭に目を向けると、目の合ったルークが困り顔で何かを小さく指差す。


 その先に居たのは、本日招待していない筈の存在であった。



「ラジェリス…………どうしてここに」


「あの神の力なら世界のどこで何が起きてようと察知出来るのでしょう」


「仕方ない、戻ろうか」


「側に置いてくれますか?」


「側に居て欲しいな」


「私は欲張りな女ですので、隣以外は嫌ですよ?」


「いつも空けてるよ」


「では、向かいましょう」



 そうして二人は中庭へと戻る。

 甘い時間を中断して、あのルークに困った表情を出させた女神ラジェリスの元へと向かう。

 どちらが後に続く事は無く、二人並んで。

 

後2話で終わります。


(更新状況とか)

@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)

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