沈む正常性
瓶詰地獄見たよ、怖いね〜
「では、順番にでしたね」
「警戒を怠らずにね」
二人は初の冒険者としての仕事をしに、街外れ馬車で一時間と少しの森へとやって来ていた。
依頼内容は魔物、ゴブリンの討伐―――イブアナという村の側に小さな拠点がいくつか発見されたらしく、木こりや村の子供が何度か襲われたという。
ゴブリンの数は、確認されただけでも三十六―――ゴブリンは魔物としては弱い部類ではあるものの、戦力としては一体が成人男性の平均以上の筋力。
その上で麻痺毒を含んだ爪と、木造民家の壁を容易く食いちぎる牙と顎。
そして、それらを躊躇いなく行使する狂乱の精神。
村人達からすれば充分村壊滅の危機、恐怖の対象たり得る魔物だ。
今二人の前には、依頼と共に預けられた情報に含まれていたうち一つ目の拠点がある。
敵の数は七体―――まずは自分からと、秋臥が潜伏状態を解いた。
「数に不足なし―――慣らしに付き合ってもらうよ」
その声に、全てのゴブリンが秋臥の存在に気づく。
それぞれ棍棒や体格に似合わぬ錆びた剣―――あるいは素手など、戦闘体制に入る。
力は成人男性の平均以上、体格は子供の様。
秋臥はそれの中に、躊躇いなく歩みを進める。
そして七体の中心地点に到着と同時、内一体が荒々しい叫び声を上げながら秋臥へと飛びかかる。
それを見て、一歩踏み込み―――足の爪先に、魔力を巡らす。
「逆垂氷柱――――――」
魔力は魔法となり、魔法は力を帯びる―――踏み込まれた秋臥の爪先より先に半径一メートル、高さ八メートルまで届く氷の柱が現れた。
それは今棍棒を振り下ろさんとするゴブリンを巻き込んで、真の髄まで凍結―――ショーウィンドウに飾られるマネキンの様に、完全に活動を停止している。
「発動が少し遅い…………まだ素手の方が早い」
一つため息をこぼして、次の敵へと意識を移す。
秋臥が今回の仕事を選んだ理由は、体術と魔法の連携を試すため。
そして、バグアイテムを使ったゴルシアや冒険者ギルドの頂点に位置するルークなどの例外以外との戦闘をした場合、自分はこの世界でどの程度の実力かを見極めるためである。
一体目を凍結させたと同時、左右より二体のゴブリンが襲いかかる。
左が素手、右が剣持ち―――体格と剣の大きさで、剣を満足には扱えないだろうと判断して、素手を優先。
掌に魔力を集めて、腹目掛け掌底。
抉るように手首を捻り、魔力をねじ込む―――体内へと侵入した魔力を氷にはせず超低温の冷気へと変換。
ゴブリンの体内を巡る、血液を瞬間凍結させる。
「これは使える…………次っ」
右の剣持ちへの対処―――やはり剣の重さに振り回されているようで、全身を使った大振りの一撃。
これは左拳で刀身を殴り剣を破壊。
それに怯んだ瞬間剣を持っていた両腕を掴み、少し離れた位置で秋臥を館察していた、集合したゴブリン二体の元へと投げ飛ばす。
以前なら無理な芸当ではあったが、目を覚ましてから既に二週間―――実践に慣らして居ないとはいえ魔法の扱い、魔力による身体強化などはある程度試している。
投げ飛ばされたゴブリンは脊髄が砕け、それを受け止めた二体は腹に直撃した衝撃により内臓破裂。
戦闘開始から僅か二秒、既に四体のゴブリンを完封した。
残り三体―――未だ認識が追いついて居ない様子。
地面を渡り、魔力が延びる――――――。
「氷夢枕魂」
地面から三本の氷の刃―――ゴブリンの胸をそれぞれ背後より貫き、殺害。
七体、討伐完了。
「併用、出来そうだね」
実戦での有効性を確認出来て安堵する秋臥―――香菜はその様子を見て、確かに二年前への回帰の兆しを感じていた。
かつて年齢十五歳―――鉛筆よりも刃物に多く触れたあの日へと戻っていく兆しを。
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