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戴冠祭

 戦いより二ヶ月―――トラオム信者の攻撃や戦いの余波によって乱れた世界は、聖七冠の協力もあって復旧を進めていた。


 地魔反戈により世界全体が歪み始めたところを無理に凍結させた事によりコールドスリープ状態となっていた人員の覚醒は六割、破壊された物流経路の回復も八割が完了。

 本日は形だけでなく、人々の心にも平穏を取り戻す為のイベントが開催されてた。


 着位祭―――一位決定戦。


 現一位ベネティクト・カマンガーに対するのは、この度星七冠へと再就任した男、ルーク・セプトクリムである。



「貴方が相手だ―――力の出し惜しみはしませんよ」


「ボクを買い被りすぎじゃあないかい? あの戦い、ボクはそう役に立ってないんだけどねえ」



 双方リボルバー式魔道銃と、神剣ハーリットに手を当て。

 余裕漂う表情で、開始の瞬間を待つ。


 マリーにより中で起きた事を無効とする結界が張られる。

 三、二、一―――そして初めの掛け声の直後、戦いは既に済んでいた。


 双方一秒未満の戦闘開始。

 ベネティクトの撃ち出した魔力弾の五十をルークが斬り伏せ、その先にある弾へと刃を振るう。


 神剣ハーリットの持つ力である、魔力神力の無効化により、弾の外皮が消滅―――内側から、魔力でない弾丸が現れた。


 刃に弾丸が当たった瞬間、爆発―――爆炎爆風がルークに届くより先、返す刃がベネティクトの胸を裂いた。



「ああ、まだ届かないかあ―――今回ばっかりはいけると思ったんだけどねえ」


「届きましたよ―――一撃ですが、確かに」



 一秒経過時点、決着はついていた―――ベネティクトの知らぬ速度、零を超えた負の攻撃。

 それにより胸を裂かれ、地に倒れ天を仰ぐベネティクトに向かいルークは言った。


 剣を握る左手とは逆方向、右の方には魔力弾の貫通した穴が一つ―――ベネティクトの攻撃は、確かに届いていた。



「………………決着ね」



 そう言い、マリーが結界を解除した瞬間全ての傷はなかったことに。

 立ち上がったベネティクトは、一つため息を漏らした後にフィールド外へと歩き出す。



「さて、悔しいが僕の出番はここまでだね―――前回の着位祭で奪った主役を、返すときが来たね」


「お気遣い、ありがとうございます」



 フィールドに繋がる通路より、一人姿を現す。


 先の戦いで、敵の頭を討ち取り世に平和をもたらした英雄。

 

 元聖七冠、三位―――たった今、ルークの敗北により四位へと繰り下がった男。


 武神、加臥秋臥―――それが今、変わらぬ最強へのリベンジへと現れた。



「冒険者登録した日の事、覚えてますか?」


「成る程、そういう事か―――よし、受けて立つ」



 既に結界は張り直された―――戦場は出来上がっている。


 二人がフィールドの中心に歩き、手を伸ばせば届く距離へと到着。

 観客の目など一切気にせず、ゆっくりと場を構える。



「秋臥君―――君の背後、ここからだとよく見える」


「ええ、僕としてはあまり景色のいいものではありませが」



 闘技場の空いた屋根より見える、高く聳え立つ十字の塔。

 赤く、冷たく、中に一人の男を封ずる。


 至獄氷血牢(しごくひょうけつろう)―――その技は魔力、神力から内部の者の意思までも、全てを凍結させてそこに立っていた。



「アレは君を英雄たらしめるシンボルさ―――救世の英雄である君を讃え、世の人々に平穏な心を与えるシンボル」


「英雄の仕事なら、僕じゃなくてルークさんがやってください。そっちのが適任です―――俺は、この後少し引っ込みます」


「僕が勝ったら、英雄は続行だよ」



 一息分の間を開いて、二人の戦いは始まる。

 平手がルークを打ち飛ばす―――空中で体制を整え、神剣ハーリットを抜刀。


 そこに追撃として、追って跳んだ秋臥の蹴りが打ち込まれる。

 

 三発連続でそれを叩き落とし、反撃に移るルーク。

 様子見はなく、即負の速度で刃を振るった。



「神力に適応したようだね…………」



 刃の腹を打ち、攻撃を落とす。


 元の世界で魔力を持たずに零秒の世界に侵入―――こちらの世界でその力を取り戻し、魔力による身体強化で完璧なものへと昇華。

 そして神力を手に入れ、激戦を経て完全に適応した今―――零秒よりも早く、秋臥はその身を護った。


 負の世界への侵入―――何より早く攻撃を放つのではなく、攻撃は既にそこにあったとする。

 世界を塗り替える、神力の特性に似た事象を持った行動だ。


 攻防の衝撃により、両者離れ一時着地。


 人々は確かに目にした―――今、最強が双璧を成す瞬間を。



「秋臥君―――この戦い、既に着位祭と呼べないと僕は思うんだ」



 楽しそうにルークが言う。

 その言葉に意を唱える者は存在しない―――この戦い、既に他の聖七冠に手出し出来るものではない。

 真に世界の頂点を、冠を賭けた戦いである。



「僕はこの戦いを歴史にこう残したい―――戴冠祭とね」

読んでくださりありがとうございます!

もし面白いと思ってくださった方は、レビューや感想、ブクマなどもらえると嬉しいです!


(更新状況とか)

@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)

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