決着
残存した神力を完全解放―――秋臥は凍結した世界がそのまま崩壊せぬよう、短期決戦を目指す。
「名誉挽回のチャンスは…………どうやら無さそうだね。あとは託したよ、秋臥君」
羽々斬を仕留めたルークは、最早戦いに加わることはない。
現在秋臥の集中は最高潮至っている―――そこにルークが加われば集中を損ねる可能性があり、その隙を疲れ秋臥が敗北したならば、この戦いに於ける勝利の目は潰える。
ルークが秋臥と絶対の信頼を築き、僅かな合図も無くサポートに入れるならばまた話は変わろう。
だが、そうではなかったのだ―――戦いの場にて、初めて何も出来ないという状況に陥るルークは、静かに歯噛みして祈る。
この戦いの行く末が、どうか自分達の勝利である事を。
「届いていないよ、加臥秋臥!」
「――――――火之鳥!」
天変地異が蔓延る戦場にて、二人は踊る。
攻撃の規模は大小様々、赤い氷の鳥を相手に向けて飛ばすだけのものから、街一つを悠々と飲み込む規模の雷撃や、それを丸々凍り付かせた跡。
エルフの女王、サレン・メノスティアが全盛期であった神話の時代を、ただ二人で再現したような景色―――それは正に、最後の戦いに相応しいものであった。
アスターが、吸合で砕けた山や大地を自身の元へ吸い寄せ、秋臥に向けて一斉放出。
敢えて全てを凍り付かせるなどはせず、その上を駆け抜ける秋臥は手元に神力を圧縮―――一本の氷杭を作り出して、ガントレットで殴り打ち飛ばす。
逢魔で空間を切り裂き、そこから溢れ出した魔物神獣を盾とし、その杭を抑え込み、アスターは一瞬地面を切り裂いた。
その箇所より芽が生え、一瞬で開花―――人を飲み込む怪植物と変化。
秋臥に向かい一斉に襲いかかるが、その全てが秋臥の一歩を止める事すら叶わずに素手にて打ち倒され。
雑多なものは、氷の大波に呑まれて消えた。
その大波をアスターに向けて操り、呑み込まんと―――瞬間、二人の立ち位置が入れ替わり。
アスターは危機を逃れ、秋臥は自身の技で凍結しかねない場面へと陥る。
だがその様な間抜けは犯さない―――零秒にて氷の波を砕き、逆に自身の元居た位置、つまり今のアスターが居る位置へと氷塊を飛ばす。
「ばあ」
「間合いだぞ」
言うと、氷塊を全て回避して急接近していたアスター含む、自身を中心とした半径一メートルの足元を凍結させる。
それで完全に動きを封じれるならば、この戦いアスターはこのまで生き残っていなかろう。
足元を自身の体もろとも焼き、火傷は即再生。
行動の自由を取り戻したところで、秋臥に向かい突撃する。
零秒で八十八の斬撃を浴びせ、その一秒後には百四十六にまで斬撃の数を増やし。
それら全てをガントレットにて受ける秋臥の二人の間に発生した衝撃波で空気が揺れようと、攻撃の手は緩めない。
「紅骨骸―――靴
氷の靴で一度強く地面を蹴る―――すると、地面より氷の刃が飛び出しアスターの首を狙う。
斬撃を中断して距離を取り回避しながら、ロストピリオドに神力を注ぎ、攻撃放出系を一斉に刀身に纏わせ。
最強の一撃を放つべく、鋒を天へと向けて構える。
「この一撃で、君を終わらせる…………!」
「………………対岸の盾」
今秋臥が製氷可能なものの内、最高の盾を用意した。
天を割る、ロストピリオドより放出される力に勝る耐久力を持つかどうか―――それは、双方想定の外である。
「己の全力を果たす―――君は僕の邪魔ではあったが、この戦いは楽しかったよ。ありがとう、加臥秋臥」
「例には及ばない―――ただ、俺は俺と香菜の為に戦ってる」
それを聞くと、アスターは呆れた様に小さく笑う。
その表情も一瞬で、すぐさま緊迫感のある真面目な表情を取り戻し―――丁寧に一歩踏み込むと雄叫びを上げ、ロストピリオドを振り下ろした。
時空すら歪める破壊力が対岸の盾と激突―――盾表面は容易く削れるが、その端から神力を注がれ氷を追加。
削れても削れても、元の形を保とうと氷を増やし続ける。
対岸の盾全体に亀裂が走った頃、攻撃の要であるロストピリオド自体にも亀裂が走る。
力の放出に本体が耐え切れていないのだ。
二人はそれでもなお力を注ぎ続け、やがて双方崩壊―――無理に注がれた神力は混ざり合い、大爆発を巻き起こした。
「次は、俺からだ」
「地魔反戈――――――?!」
大爆発の中に突撃し、傷を負いながらも秋臥は最短距離でアスターとの距離を詰めた。
即反応砕けたロストピリオドの代わりに地魔反戈を取り出したアスターだが、そこで不注意に気づく。
ロストピリオド最後の攻撃直後、一瞬にて体が拘束された。
神力による拘束だが、透過は可能―――だが時間が無い。
目の前には秋臥が迫る―――合図なく、最適なコンビネーション。
それが出来る者は剣聖ルークでも、魔女マリーでも、勇者ガレッジでも無い。
骨互裏に勝利した後この一瞬を待ち続けた、誰よりも秋臥を知り尽くした人物だ。
「もう一人では戦わせません、秋臥」
「巴山香菜――――――いや、エリー」
紛れもない幻覚である。
だが秋臥と香菜の結びつく意思は、アスターに自身とエリーの日々を連想させる。
体の拘束と、目を逸らせぬその姿は、秋臥が最後の技を放つのに充分な猶予を与えた。
「――――――至獄氷血牢」
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