白亜の世界
氷の波が重ねられ、その先端に乗った秋臥が空中を突き進む。
それに対するアスターは氷を砕き、攻撃を放っては一定の間合いを放って戦い。
双方零秒の攻防を挟む事で、時間経過の概念は徐々にあやふやなものへとなって行く。
「――――――紅骨骸」
言うと、秋臥の身に氷の装備が纏われる。
赤い靴とガントレット―――纏う箇所で攻撃を与えれば瞬時に敵を凍て付かせ、防御に転じればそれは神力特有の魔力完封と、秋臥の身体操作による鉄壁っぷり。
女神エティシアと一体となり、完全となったアスターですら容易に殺すことの出来ない戦闘水準でありる。
「お前、これの攻撃は透過しないんだな…………!」
「はて、なんの事だか」
秋臥がガントレットを以て一撃。
神力によって発動された防法の結界ドームがそれを防ぐが、結界表面は忽ち凍りつき―――その部分が砕け落ちたと同時に、即再生する。
これを以て再確認する―――アスターは、何の理由があってか秋臥の攻撃を透過出来ない。
回避、防ぎ、その身を護る。
自己完全支配以外の手段にて。
「必要最低限痛みを、人らしさを節約しているだけさ!」
「全人類滅ぼして世界やり直そうって奴が、人間らしさか」
魔剣をまとめ上げた複合神剣、ロストピリオドによる千変万化の猛攻が襲いかかる。
「大勢殺す僕は人間らしさなんてない、怪物だとでもいいたげだね」
「真逆だよ」
ガントレットを纏った拳を空振り―――すると空中に氷の障壁が広まり、五秒までなら猛攻に耐え切れる程度の防御壁となる。
「自己のために他を犠牲とし、目的遂行のために死力を尽くす―――こうも汚く人間らしい奴もそうそう居ない」
防御壁の裏で、濃く練った神力による氷の巨槍を拵える。
神力を込め、込め、込め、万全になったと同時、防御壁が砕け散った瞬間、それを解き放った。
防法のドーム型結界を先方へと集中させて、その槍を防ぐアスター。
だが前方以外は無防備となった。
素早く背後へと回り込んだ秋臥が蹴りを一撃―――ロストピリオドの峰と腕を重ねてそれを防いだアスターは、致命的なまでのダメージは負わず。
だが、腕は芯まで凍りついた。
即座に肩より先を切り落とし、新たな腕を再生。
それと同時に、自身の存在感を完全に消し去った。
「結局、何が言いたいんだい? 今の所は時間稼ぎのお喋りか、僕の気を乱したいだけにしか聞こえないよ―――そんな小細工が通じる場面でもあるまい」
「ただ思った事を言ってるだけだ―――今誰よりも人らしいお前に、世界の滅亡なんて神じみた事は出来ない、そう思ったんだ」
存在感を消したアスターが、秋臥に攻撃を仕掛ける。
だが消した存在感を維持する為に猛攻は不可能―――ゆっくりと確実に、追い詰めるような一撃一撃を振るう。
「誰よりも人間のお前じゃあ、出来てここまで。これ以上は神の領分なんだよ」
「僕は女神エティシアと一体になった―――今や、その神の領分とやらにも踏み込んでいるよ」
「女神エティシアと一体になった―――だが、心は残った、だろう?」
背後より振るわれた部位の一撃に反応して剣を弾き、タイミングを合わせて反撃を行う。
だがアスターはそれを警戒していた。
そこにあったのは幻影―――剣の実態すらも、神力を濃く固められたものであった。
「気づいているかい? 君の周囲は濃い霧に包まれた―――当然僕の仕業だ。今君に、一歩先でも見えている景色はあるのかな?」
「見事に何も見えないな―――だけど、視界は必要ない」
瞬間、今度は真正面より刃が迫る―――秋臥は霧に視界を完全に覆われそれが見えやしない。
だが刃が心臓部場の皮膚に当てられた瞬間、刃が引かれるのに合わせて自身も回転―――勢いそのまま、踵を振り下ろした。
「その感度と手段、状況判断に実行能力―――成る程、神剣ハーリットを抜ける筈だよ」
「世辞か?」
「僕のこれも、素直に思ったままだよ―――君は、本当に厄介だ」
「なら俺としては、何より!」
秋臥が氷に変換せず、単純に神力を放出―――周囲を包む霧に溶かし、その力を中和させる。
視界は開けた―――眼前、襲いかかるアスターの姿。
秋臥はこのタイミングで、霧を中和させるのに放出した神力を氷に変換する。
「磔架之刺死」
罪人を晒すようにアスターの身は串刺しにされ、跳ね上がったままに晒された。
透過、再生は敵わない―――ただ天高くより、地の秋臥を睨むばかりだ。
「原理を理解したよ―――ラジェリスの世界支配、お前やエティシアの自己支配。元の力が抽象的過ぎて気づくのに遅れた」
それは、秋臥の氷をアスターが無効に出来ない理由。
そして、神力の性質の話だ。
「神力とは神の傲慢そのもの―――己の持つ性質を、他に押し付ける力。その概念を頑として歪めず、他者に強制する力―――俺がその力を扱うなら、その効力は全てを凍らす。敵を、魔力を、神力を―――だからお前は、俺の氷を自己支配で透過、再生出来ないんだろ?」
「本当に厄介だ……………………計画を変更しよう」
アスターは再び地魔反戈を出すと、自身にそれを突き立てた。
地魔反戈の混ぜる特製はアスターから氷へと伝わり、そこから地面へと―――人類滅亡を待たずして、世界をかき混ぜやり直そうとし始めた。
「新たな世界、平穏に生きようと考えるのは辞めだ――――僕はエリーと、幸せに逃避行で暮らすよ」
「させるか…………!」
瞬時に秋臥は地面へと氷を張り―――混ざる世界のやり直しを停止させる。
世界は無力なる者を含め一時的に凍りつき、その冷気より発生する白亜に包まれた。
「君だけは殺す―――でなければ、僕とエリーの再会は果たされないようだ。他はいい、だが君だけはしっかりと――――――」
秋臥が世界を凍結させるのに意識を向けた一瞬、神剣ロストピリオドにて自身を貫く氷を砕く。
傷を再生―――アスターは戦いに、幕を引く決心をする。
「君を、君達を殺して僕は、新たな世界を迎える―――そして、エリーを再び迎えよう」
「お前に勝ち、俺は明日を迎える―――香菜と変わらぬ明日を」
幕引きへと向かう意思は、秋臥も同様―――もう時期全てが終わる。
世界を巻き込むアスターの恋慕を、終わらせるという意思が、秋臥にはある。
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