終端神話
「奴の力の理解という点…………女神ラジェリスに感謝せねばならぬな」
ルーベルトが呟く。
クロニクルには、秋臥を通してラジェリスからの情報共有が行われていた―――その中には神力の特性や、それぞれラジェリスやエティシアの持つ力の詳細も。
エティシアの持つ力は、自己の完全支配―――自身がその場にある、ない。
自信と重なった他を優先する、自信を優先する。
傷を残す、消す、そもそもなかったこととする。
そんな自己の全てを完全に支配する力がエティシアには備わっている。
その力は神力による攻撃するも適応範囲内―――ルークの零秒という例外を除けばそもそも通じない、通常の魔力による攻撃と同じ様に、僅かな傷すらも与えられはしない。
「お二人とも、武装の残り保持時間は?」
「五分と言ったところだ」
「ん…………」
「なら少し、ペースを上げようか」
言うと、ルークはエティシアを刻みながら武器を拾いに行く。
落とされたルーベルトの腕部分―――目当てはそれに纏った鎧、概念礼装獅子王。
その考えを即座に察して、ルーベルトは離れた拳部分に纏った鎧を整形。
剣の形を作り出した。
「サポート、卒業」
「貴方と言う人は…………本当に嫌なのですよ」
概念武装は、神力により形取られる。
ルークが神力の武器を手に入れた―――それ即ち、エティシアが反応出来ない速度で神力の攻撃が襲い来るという事。
神力により作られた傷は、通常ルークが使った傷よりも消すのに神力の消耗が大きい。
エティシアの首に、縄がかかった。
「人類の特異点、想定以上の力なのです――――――」
言い切るより先に、喉が裂かれる。
即再生して、先ずはルーベルトとノエルを仕留めに動く。
神力の込めた息を吐き、それを他の全てより優先させる。
すると、吐息が触れた空気部分は削れ、その空間を埋めようと周囲の空気を吸い寄せ。
ルーベルトとノエルを、一箇所へと集める。
「優しく殺してあげるのですよ」
エティシアは単に手刀を放つ―――だが、他の何よりも存在を優先される無敵の手刀。
ただそこにあるだけで必殺の一撃となる、立派な凶器だ。
それに合わせて放たれたのは咆哮。
ノエルが声を上げ、一瞬エティシアが驚いた隙に二人は離脱し、即座に体制を整える。
「――――――集合」
突如、ルークが言った。
文句など言う事なく、二人はルークの元へと集まる。
「私も行きましょうか?」
「遠慮願うよ」
エティシアを待たせて、二人に作戦を告げた。
現状これしかないと言う作戦―――静かに納得すると、改めて三人は離れエティシアを取り囲み、攻撃を開始した。
ルークが刻み、ノエルが牽制し、エティシアに人の形を保つ時間など与えない猛攻を続ける。
エティシアは人の形こそ保てないものの、飛び散った血液や皮膚片などから体の所々を再生してら、それもまたルークに刻まれてを繰り返す。
「特異」点ルーク、随分と」無理をしている様に見えるの」ですよ」
色々な箇所に現れる口が言う。
言葉の途中で刻まれながら、しかし楽しげに。
「零秒の」進まない時間を一人で」繰り返し続ける。そ」れは貴方一人」が濃密な」時間を過ごし」莫大」な情報処理を」行っていると」言う事――」―特異点の貴方とて、」耐え難い苦痛でしょう」
その言葉は、正しかった―――ここに来て、これまで僅かな疲労も見せなかったルークの額に一滴の汗が流れる。
零秒に潜り、通常の時間に顔を出してを繰り返したルークの、現状体感戦闘時間は既に百年を超えた。
その間休む事なくエティシアへと斬撃を浴びせたルークの体力は確実に削られている。
今この状況―――他の者のサポートなどではなく自信をメインとして斬撃を放ち続ける状況。
先は長くとも、終わりが見える。
「僕の苦痛はただ一つ、この眩く美しい世界を失う事だけだよ」
森を歩けば鳥と草が鳴り、海に潜れば未知がうねりを上げ。
街を歩けば歴史の体現たる人の営みが手の届く場所に敷き詰められているこの世界を脅かされる事事のみが、耐え難い苦痛である。
それがルークの行動原理―――それを告げた瞬間、斬撃は止んだ。
瞬時にエティシアは人の形に体を再生。
そして、膝から崩れ落ちた。
「神経が麻痺して………………!」
「効いた様だね―――流石の腕ですね、ベネティクトさん」
「これっ限りの話だけどねえ…………」
声を上げたのは、前座にも成らず倒したはずの現聖七冠一位、ベネティクト。
撃ち出された神力に耐え切れず銃口の砕けたリボルバー式魔導銃を持ち、満身創痍ながら意識を保っていた。
「成る程…………概念武装の神力を一部弾丸と整形し、私が再生する体に溶け込む様撃ち込んだというわけなのですね…………!」
「ご明察の通り。他人の魔力が魔法に混じるのと魔法が誤作動を起こすのと同じ原理だよ―――女神エティシア、君がどの様にベネティクトさんをああまで傷つけたかは知らないけど、意識外からの零秒を避けれる程の実力差は無いだろう?」
エティシアは自身の力にかまけている―――この世界誕生より先に存在し、鍛錬の時間など無限に近い。
どれ程愚鈍な者であろうと、零領域の戦闘へと踏み込むには充分な時間があった筈なのだ。
にも関わらず、ルークの攻撃を全て受け、体を再生するばかりの怠慢。
ルークはそれを、避けないのではなく避けれないのだと判断した。
故に、この作戦は立案され、実行され、そして成功した。
エティシアはその万能に近い力に溺れ、危機と陥ったのだ。
「しかし、ここから私をどう仕留めるおつもりで…………? 私に傷をつけられない事は変わらないと思うのですよ」
「今の状態で、マリーさんを待つ。僕が君を刻み、マリーさんが魔力を体内に混ぜ込み、今の状態を続けながらゆっくりと神力の封印方法でも見出すさ」
それは決して非現実的な案では無く、事実としてマリーならば一年もあれば神力にも適応し、その封印方法を見出す。
だがそれも、アクシデントが無ければの話だ。
今ここで、エティシアを逃さなければの話。
天秤は、誰に傾くかを選ばない。
「ここまでが、貴方の計画通りという事なのですね―――前特異点、アスター」
言った瞬間、エティシアは突如として降り注いだ光の柱へと呑み込まれた。
それは高位の転移魔法―――遠方、秋臥の戦闘位置に同じ光の柱が降りている。
「さようなら―――久々に、脅威を感じたのですよ」
そう残して、エティシアは姿を消した。
跡形もなく、飛び立った鳥の様に。
読んでくださりありがとうございます!
もし面白いと思ってくださった方は、レビューや感想、ブクマなどもらえると嬉しいです!
(更新状況とか)
@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)




