神域
今月17日、気づいたらこの話を書き始めて一年が過ぎていた。
「二人とも、生きてるね?」
ルークがエティシアの元へと到着した頃、既にベネティクトとメイスは沈黙状態。
返事こそ無いが、辛うじて生存はしている様子だ。
「消耗…………は、無い様だね。嫌になるよ、この二人。以てして変わり無いだなんてね」
「それなりに疲れたのですよ―――ほら、面白くない活動写真を見続けた様な疲れが」
「見栄と受け取る事にするよ」
ルークが抜刀―――その表情には未だ余裕が残っており、血気迫るものでは無い。
だがふざけた様子も無い―――これは彼なりの、平常を保つルーティンなのだ。
「前回の戦いで、無駄だと教えたつもりなのですよ」
「とことん突き詰めるタイプなんだ」
そう言った時、既にエティシアの首は撥ねられていた。
ルークはエティシアの背後へと移動―――落ちる首を拾い、遠投する。
だが首より新たな体が生えた―――元の体はその場に倒れ込み、ただ人と変わらぬ裸体が転がる状態となった。
「無駄なのですよ―――あの土塊の様な、粗悪な神力すら持たない貴方じゃあ私を傷つける事はできない」
「そうでも無いみたいじゃないか」
言う頃には、エティシアの全身が一辺二センチの小間切れと。
傷同士がくっ付くより先に小間切れの中心部部へと蹴りを入れ、肉のブロックをバラバラに。
それでも変わらず、エティシアは頭部の一部分より再生。
変わらぬ表情で、そこに立つ。
「そろそろ諦めた方が良いのですよ―――貴方なら、私が全力で追っても逃げ切れるはず。この戦場に残る意義なんて無いと思うのですよ?」
「僕だけ生き残っても、世の中楽しく無いからね」
次は、微塵のズレも無くエティシアを縦に一刀両断―――左右のバランスには僅かな差もなく、丁度同じ肉の量。
だが、今度は宙に待った血液より肉体が再生した。
「本来、神力による肉体の強化で私の体を傷付ける事も困難な筈―――よくもまあ、容易く断ってくれますね」
「そこが勝機だ」
「断ったとて、響かないのに――――――?」
次の瞬間、エティシアは殴り飛ばされていた。
零秒では無く、通常に―――だが、エティシアの頬に傷を残した。
「これは……………ああ、そう言う」
「遅くなったな―――だが、最終調整は終えた」
そう言った男は、今しがた強烈な一撃を放った拳に息を吐きかける。
クロニクル総裁、ルーベルト及び、魔王の息子であり聖七冠七位、ノエル。
神器の鎧を纏い、ここに現る。
概念武装、獅子王、狼王。
ラジェリスが来る日、自分達の手で世界を終えられる様に―――或いは、独り立ちする人類が神である己を殺せる様にと作り出した武装。
つまりは神を殺せる武器である。
それが今、人類史で初めて立ち並んだ―――同じ敵を前に、同じ方向を向き戦う。
「成る程確かに、それであれば私に傷を付ける事は可能なのですよ―――これを、私はピンチとでも呼びましょうか?」
エティシアの頬の傷が消える―――ルークの付けた傷は魔力と物理由来であり、消すのにそれ程多くの神力は要らない。
だが、神力由来である概念武装による傷は、擦り傷であろうと干上がらせる程度の神力を必要とする。
エティシアの持つ莫大な神力の前では致命的でこそ無いものの、その差は絶大―――これが、神話の時代に於ける戦いのスケール。
エティシアの、戦いの基準だ。
「ではマシな攻撃が登場した所で、試してみるのですよ―――そもそも、貴方達の牙が私に届くのかを」
既に二人が動いていた―――左右同時、ルーベルトは拳を、ノエルは爪を振るう。
エティシアは余裕の回避。
だが次の瞬間事態は変わった―――直様再生出来る程度の傷だが、今は大きな問題。
ルークにより、股関節の付け根から両の脚が切断されていたのだ。
「へえ、そう言う」
呟いたエティシアの体に、ルーベルトとノエルの攻撃が叩き込まれた。
概念武装獅子王の持つ力は、全ての攻撃に神力による噛み傷の付与。
ただの殴打による傷が、巨大な獅子の噛み傷へと変換されるのだ。
概念武装狼王の持つ力は、音も立てずに空間ごと敵を裂く斬撃。
鎧にて形取られた爪の一撃は、全ての防御を問題とせず敵を破るのだ。
双方の傷が刻まれたエティシアの肉体は即座に再生―――それと同時にルーベルトとノエルの頭を掴むと、遠方へと放り投げる。
自身も跳んでそれを追い、本格的な戦闘を開始。
追撃を仕掛けようとした所で、ルークにより四肢が粉微塵と斬り刻まれた。
「ルーク、続けろ…………!」
「言われずとも、ボス」
ノエルより先に体制を整えたルーベルトが、四肢を失い僅か一瞬地面までの自由落下を開始したエティシアへと拳を振るう。
だが透過―――拳はエティシアの顔面を透過して、次の瞬間、エティシアと重なる部分で切断された。
「……………ッ!」
「嗚呼、役者が違う―――知らない筈が無いのですよ。貴方には、彼程の実力はない。この戦場に釣り合う実力が無い事をね」
「貴様こそ、知らぬのか」
エティシアは、透過を解く事で自信と重なるルーベルトの腕を落とした。
ならば現在、エティシアの顔面とルーベルトの腕断面は零距離。
それを利用しないわけがない―――ただ力一杯、押し込む。
それだけで、獅子の牙が刻まれる。
「冒険者となるのに、資格はいらない―――必要なのは、充分な気概のみだ!」
「五月蝿い猫ちゃん」
噛み傷により抉り落とされたエティシアの首より、肉体が再生。
顔に残るルーベルトの血も、すぐに落ちた。
だが表情には僅かな呆れが―――最早無関心と誤魔化せぬ程、露骨に浮かび上がっていた。
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