人の紛い物
火遁の魔剣と青燕剣が強く打ち合う。
いくら炎に当たろうと、氷の剣が溶ける事は無い―――それどころか、攻撃の回数を重ねるごとに回転数が上がり、攻撃威力は増してゆく。
「逆垂氷柱ッ!」
「―――不知火の魔剣」
秋臥が強く地面を踏み込むと、イベリスの足元より氷の柱が出現。
回避すれど新たな着地場所に、立て続け三連―――全てを回避した所で、氷の柱を間合い無用の剣で斬り砕く。
「地怪の魔剣」
新たに出現した魔剣を、地面に突き立てるとイベリスは飛翔。
瞬間―――地怪の魔剣が刺さった大地は怪物の大口へと変化する。
「追加で奥の手―――吸合の魔剣」
「それは、無しだ…………!」
大口の中に、一本魔剣を落とす。
能力は、魔剣の元へと対象を引き寄せる―――今回は投じられた穴の中へ、秋臥を吸い寄せる。
「大紅蓮…………!」
「無駄だよ」
氷の大輪で、大口を塞ぐ―――だがほんの一噛みで砕け散った。
秋臥は覚悟を決める―――それは死ぬ覚悟では無く手の内を明かす覚悟。
大口へと手を向けて、新たに手に入れた力を収束させる。
「大紅蓮―――破柘榴」
氷の華が二度目の開花を遂げる―――違いは、氷の色。
青の氷にて作られた一輪目とは違い、二輪目は血に浸したような赤。
その硬度は一輪目と比べて格別であり、いくら大口が噛もうと傷一つ付くことがない。
秋臥の扱う新たな力―――それは、冥国にて嫌々ながら無意識下で行われた儀式によって与えられた神力。
一度セリシアに会いに行った際、顔を出す事なく戦場の分断を目的として使われはしたが、正式なお披露目はこれが初めて。
神力とは斯くあるべしと言わんばかりの結果には、イベリスも舌打ちを漏らした。
「厄介な存在になってくれたものだよ―――全く」
「余裕ぶって大物気取りか? 俺に負けるまでその態度を続けるなら、惨めだぞ」
「余裕ぶってるんじゃあなくて、余裕なのさ」
大輪の上に立ちイベリスを見下ろす秋臥。
手の内さえ明かして仕舞えば、最早考慮するものは無し―――高所から真っ逆様に飛び降りて、勢いのしつけて青燕剣で一撃。
法防の魔剣によって展開された結界を容易く砕き、その先にいるイベリスへと刃を振るった。
「身体強化の練度と基礎能力が軒並み上昇しているね―――神力が体に馴染み始めたかい?」
「だったら何だ?」
「いや―――ただ、君は次第に人じゃあ無くなるってだけさ」
それを言い終えた直後、力任せに振るわれた蒼燕剣がイベリスの持つ魔剣と衝突して砕け散る。
人が人である潜在意識と、それから遠退く潜在的恐怖―――それを刺激してやり、動揺を誘ったとイベリスは錯覚した。
だが次の瞬間―――顔面に二発と胴体に一発の打撃が打ち込まれた。
冷静そのもの、不意では防ぎ様のない零秒の攻撃である。
「それで大切な人を護れるなら、俺は人じゃなくてもいい」
「人で無くとも、お前には誰も護れない…………!」
そのレスポンスは、イベリスの逆鱗を逆撫でした―――ただ一人エリーの事すら護れず、生まれながらにただの人にもなれなかったイベリスにとって、それは許し難い言葉。
苛立ち、荒立ち、一秒前の余裕を忘れて声を上げ。
自身の持つ内、地魔反戈を除いた最高火力である破衝の魔剣を手元に出現させ。
一撃に込められる最大量の魔力を込めて、一振るいした。
空間に亀裂を入れ、見える景色を歪める程の衝撃放出―――それに秋臥は怯む様子を見せず、赤い氷の盾に身を潜め鎮火を待った。
だが、同じ様に衝撃が収まるのを待てる程、今のイベリスは冷静ではない。
「深光の魔剣………………ッ!」
「対海の盾…………!」
深光の魔剣により、光速の斬撃が放たれる―――だが、放つより先に秋臥は危険を察知。
深光の魔剣を見たと同時に、己が作り出した最高防御術を発動する。
崖を連想する程巨大な氷の盾は、最早地形生成と呼んで過言無いスケール。
光速の刃を中盤で食い止め、イベリスが行う追撃に対する防壁としての役割をも果たす。
「魔弓―――紅蜻蛉」
赤く、冷たく形取られた氷の弓矢―――かつてエルフの森にでイベリスに放った初撃とは比べ物にならぬ練度、威力を誇る鏃が、巨大な盾の頂上目掛け跳んだイベリスの眉間へと狙い定められる。
そして僅かな気の澱みも無く―――嘗ての様に、撃ち放たれた。
読んでくださりありがとうございます!
もし面白いと思ってくださった方は、レビューや感想、ブクマなどもらえると嬉しいです!
(更新状況とか)
@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)




